第5話〔叔父は無頓着な保護者なのです〕再開12日目[夕食後]
夜、夕食後の宿での出来事。
「しかし改めて思うが屋根のある生活、プライバシーを保護する環境、何と貴いものか」
食事を終えて帰って来た借宿の一室で窓から外の様子を何故か仁王立ち風にして眺める叔父が述べる。――ちなみに顔が少し赤いのは少量のアルコールを先ほど摂取したから。
「……まぁ、オジさんはいろいろと遭ったしね……」
そして特に何の反応も示さない叔父、を横目に自分のベッドに腰を下ろし寝支度を整えながら出会った時の事を思い返す。
――出会った当初の叔父は奴隷だった。
正確には奴隷にされる直前で逃げ出した指名手配犯。
今居るこの国では、奴隷が逃亡した場合申請前であろうと犯罪者として扱われる。
なので立場上はありとあらゆる社会的不利が言うまでもなく起こり、街に入るどころか命の危機すら容易に生じる状態。
故に再会後暫くは自分だけが街へと赴き、必要な物等を揃えた。
次いで叔父の手配状態を解消する為に動き、どうにか普通の奴隷としてパーティーに加える事が出来た次第だ。
皮肉な考えだけど、初めて勇者であったコトを好かったと思える時だった。
今はこうやって人目を気にせず街中で過ごせるのは――。
「ヒメのおかげだな」
「――ぇ?」
「いろいろと世話をしてくれてありがとうな。本当なら自分が助けてやらないといけないのに、逆に助けられてばかりだ」
「ぁ――ううん、それは仕方ないよ。私だって最初はいろんな人に助けてもらったりしたもん。それにオジさんは」
「声を拾うのは耳の有る者ではなく心有る者だ」
「ぇ……?」
「この場合もしヒメが多くの人に助けられたのなら、それ以上にヒメの助けを必要としている人が居るというコトだ」
ぁぁ。
「まァ一応勇者だからね……」
「今はな。しかしいずれは立場に関係なくヒメを必要としてくれる者も現れる」
「……そうかな?」
「うむ。皆が皆とは言わんが、忖度は仕方がないその上で見据える明日も悪くはない。が自ら選ぶ権利は誰しも幸せを願う」
ええと。
「……ちょっとなに言ってるのか分からないかな」
「――叔父さんもだ」
キリッと言う内容ではないと思う。
「まあアレだ、ヒメが皆に好かれる事を願うって話だ」
「それなら何となく分かる」
と返すヒメの傍らに何気ない様子の叔父が腰を下ろす。
次いでそうかと、頭頂を撫でる感触が姪の羞恥を染める。
「ところで、スポブラは完全に卒業したんだな? 懐かしいなぁ、親に知られるのが嫌で一緒に買いに行った――ん? どうし」
「オジさんの馬鹿ヤローッ!!」
「へぶしッッ!!」
…
若い子の扱いは実に難しい。
ジンジンと痛む頬の赤みを撫でながら、部屋に入れない罰を与えられた叔父は思う。
こういう痛みもレベルが上がればマシになるのだろうか?
――などと考えているところに、見知らぬ誰かが様子を窺いつつな足運びで扉の前に立つ憐れな保護者へと声を掛ける。
「……あの、ひょっとして勇者様ですか……?」
「ぇ? ぁぁ、わたしは違――、――失礼どちら様ですか?」
「ぁ、ハイ、私は近隣の村で農業を営む者です」
「その農家さんがどういったご用件で」
「実は…彼の勇者様がこちらに宿泊しているとお聞きして…、村からの依頼をと」
ムム――。
「――彼の? それはどの様な評判を」
「はい、こちらの勇者様はここ等周辺の村々で小さな守護者様と呼び声が高くわたし達もそれを頼りにして参りました」
「小さな……」
地道な努力という事だろうかと叔父は思想する。と。
「あの…わたしが耳にした勇者様は確か女性とお聞きしたのですが………」
「ん、ぁぁ、そうですね。本人は女性ですよ」
「よかった、聞き間違えたのかと。それではアナタ様は……?」
「ああ自分は保護者」
途端に叔父の背後で扉が開く音がし。
「……オジさん? 誰と喋ってるの、もしかして独り言……」
いやイヤそれはまだ早いだろ。
「ぁ、アナタが勇者様でしょうか……?」
「ぇ、……誰?」
瞬時会話の流れを察し――。
「――うん、説明するからとにかく中に入ろうか」
ついでに自分の罰も有耶無耶に出来る筈。と、叔父は二人を急くのであった。
叔父は無頓着な保護者なのです/了
子供の頃は何かと合体技にテンションを上げたものです。右手に――! 左手に――!