第2話〔叔父さんにとっての魔王〕再開5日目[正午]
街から一番近い迷宮の初級領域。
集まってきた魔物の群れを一掃し周辺の安全を確認し終えた休憩の狭間。
「如何?」
初迷宮を踏まえて装備品等の感想を姪は問う。
「うーん、スキルというのは今一実感に足りていないが戦闘事態は今のところ恐怖心も無く順応してる気はするな」
「ならよかった……」
しかしその真意を完全に汲み取る事まではせず――。
「しかし悪いな、ヒメには退屈な段階だろう」
「――ぇ? ぁぁ、――そんな事は無いよ」
「何で?」
「なんで……まぁその、実際これまでにも一人で此処に来る事は最近でもあるし収穫もない訳ではないからかな……」
「ほう、それは素材的なコトか。低レベルで取れる物を定期的に集める必要がある的な」
「まぁそうだね、それも一つかな」
途端に叔父の眼が丸く輝く。
「……何?」
「それは合成、と言うヤツだろ?」
「ぇっとそうだね」
「それは俺にも出来るのか……? その、やっぱりスキル的なのが必要なのか」
「えっと、各合成スキルは結果を上乗せしたりする為の補整効果だから、作り方さえ知っていれば誰でも作れるよ」
「なるほど、まぁそれもそうか」
レシピを見て作っているのにスキルが無いと完成しないと言うのは、もとよりおかしな話である。
「……――今度一緒にやってみる?」
「ぇマジで。頼んもうす」
「ぅん……分かった」
そして余程に興味があったのか、あからさまに喜ぶ五十代の叔父。
次の瞬間、その表情は我に返ったかの様に素を戻す。と。
「魔王ってどんな奴なんだ?」
「急だね……」
「この前聞きそびれたなと」
「……ぅんと、どんな感じかと聞かれると私も具体的には知らない」
「相手がどんな奴かも分からないのに討伐をしなきゃならんのか……」
「そぅだね。けど討伐って言うのは進行上の順序で、正確には魔王攻略が目的になるから守護者が何かとかはどの魔王に挑むかで変わってくると思うよ」
「守護……? どの? ――ちょっとなに言ってるのか分からないですね」
「……えっと、魔王は迷宮の深界度を示す最難度の階級で。守護者は各迷宮の一番奥に居て迷宮の柱を守っている存在だよ」
「なぬ、てコトは魔王は単一の存在的固有名詞ではないのか? 魔王ハ〇ラー的な」
「ハド…? ――…違うね。魔王は迷宮の難易度を示す名称だから」
「じゃあ守護者が魔王なのか?」
「守護者は守護者」
「しかし倒さないと駄目なら結果的にソイツが魔王なのではないのか?」
「それは……捉え方の違いだと思うよ。でも、ここでは守護者って言い方のが適切かな」
「じゃあ伝説の剣は?」
「どういう伝説……?」
「……なら一国の運命は、竜に攫われたお姫様は……、世界の半分を条件に誘惑してくる感じとかはッ?」
「落ち着いてオジさんっ、ど、どうしたの……?」
「ぁぁ悪い…、ちょいとジェネレーションギャップ的なアレだ…」
「ジェ……ぅん」
「――兎にも角にも魔王を倒、攻略するに、強くならなければイケないというコトだな」
「そうだね、それは絶対に必要な事だと思う」
「うむ。さすれば――」
遠い明日を見詰める、その強い眼差しをして。
「――そろそろお昼ご飯を食べようか」
「……ぇ?」
「腹が減ってはなんとやら、強くなる為にも美味い飯はたらふく食うべしだ」
「そ、そう……」
「ちなみに今日のお昼はサンドイッチです」
「……中身は?」
「昨日たまたま街道で会った行商人から購入した、とある魔女が作る珍しいアンチョビとハーブを挟んだアンチョビのサンドウィッチです」
「ぇ、いつ、購入したの……?」
「昨日」
「じゃなくて、どうやって……お金は?」
「少し前に偶然倒した例のふわふわを買い取ってもらってから買った」
「……――貸して」
「ぬ、金か?」
「違う。その箱、サンドイッチでしょ」
「ん、ああ。ぬぉ?」
まるで強奪する勢いで叔父が荷物から出したばかりの弁当箱を二つともに姪が取る。
「……バカ――オジさんはお昼ご飯無し」
「ハ? 何で」
そう、叔父は把握していなかった。
若い女子がとかくふわふわした物に夢中である事を。
「ェ、あ! ちょッ」
「……ウマ」
再会前は十五歳、しかし一年経って十六となった姪は成長盛り、食べ盛りであった。
叔父さんにとっての魔王/了
のんびりと投稿する予定ですので、ご興味があれば他の作品なども!(/・ω・)/