第33話〔叔父さんが雨で唄えば〕再開43日目[雨天]
とある雨の日、仕事として向かう馬車の中で何気なく童謡を口ずさむ。
無反応な姪っ子に対し何故か近くで嬉しそうに聞き入る様子のレイナ――から唐突に質問が挙がる。
「オジ様、カタツムリとは何でしょう?」
「陸生の貝類だね」
「……陸生、マイマイですか……?」
「それそれ」
どうやら呼び方は違うみたいだが、こちらでも存在している様だ。
で、だ。まだ疑問は解消されていないと見受けられる。ので。
「ソレが何か?」
「えっと、今の歌はマイマイを唄う内容と、お聞きする感じでしたが……」
「まあね……」
ただの童謡が大それた伝承の様に聞こえてくる。
しかし確証を得たと言った表情で何度も頷く相手の動機とは、如何に。
「やはりオジ様達が居られた異世界でも、マイマイは凶暴凶悪な存在として知られているのですね……」
――具体的に。
「どういうコトかな……?」
「はい、私の知るマイマイとは出会ったが最後の凶悪、凶暴な生物なのですよ」
全然具体的になっていない。
つまりは自ら汲み取りに、行くしかない。
「最後とはえらく恐れられているな……」
「それはもう。オジ様の認識は違うのですか?」
「まァ……、食用とかもあるし」
「食ッ食べるゥッ? あのマイマイをですかっッ?」
「家庭的ではないけどね……」
日本国内では、だけど。
「凄い……、いえ、勇者様のような方々が居られるのなら、そんなコトも……」
居ないけどね。ここで身に付けた事等は何一つ、能力化されていないので。
「ちなみになのですが、お味は……?」
「万人受けするかは分からないってところかな」
「……そうですか」
「ん、食べてみたいの?」
「機会があれば……」
興味はあるのかい。
「しかしどうやって倒すのですか……?」
倒す――。
「――……塩を掛けるとか」
イヤ、それはナメクジのほうか。
「塩ッ?」
「ゴメン、普通に指で取るんじゃないかな」
「指ッッ? ぇ、オジ様達って巨人の子供か何かで……」
どういうコト。
「――そんなに凶悪なの、こっちのマイマイってのは……」
「頭部から触角と呼ばれる槍状の触手を獲物に刺し、それで栄養を吸収すると聞きます」
ェ怖い。
「たった一匹のマイマイが出現したことで、一国が滅ぼされたとも……」
完全に別物ですよ、ソレは。
「悪い子のところにはマイマイが来て、さらい溶かし食べられるとも」
鬼が来る的な、――言わば風習ってやつだろうか。
と、異世界ならではの伝承に感慨もひとしお、なところで。
「そろそろ目的地に到着しますよー」
降車の合図ならぬ御者の一声。
お、っと忘れ物はないかと近辺の確認を行う。
「そういえば、本日はどの様な内容の?」
はて――。
「――オーガの巣窟を一掃する予定だね。昨夜伝えたと思うのだが?」
「ぇ……オーガ」
ああと記憶がよみがえる。
見たところ、返答を得た相手も思い出すに至ったのか忽ち顔色を青白くしていく。
「……忘れてたの?」
正しくは昨晩の出来事を忘れてしまったのか、だ。
「途中からの記憶に混濁がです……」
あれほど飲めばね。
――やけ酒というやつだろうか。
しかしいつも以上に不安気な様子。昨夜の反応もそうだったが――。
「――嫌な思い出でも、あるのかい?」
「いっぱいあります」
それは分け隔ての無い過去と思うのだが。
「まあ、なんとかなるさ」
行雲流水――自然の成り行きに任せて行動するのも、若いうちの特権だ。
叔父さんが雨で唄えば/了




