第30話〔叔父さんは算定風袋〕再開35日目[午後]
本日は久しぶりにフリー、といっても今後の為にと三人でハロア近郊に在る沼地に必要な素材等を採取しに来ている。
物は主に毒キノコ。
「うわぁ見てくださいよ、オジ様。ものスッゴク毒々しい柄の茸ですよ」
確かに、全身から毒が有ると強調している感じだ。が。
「ソレ食べられるから取っておいて」
声を上げて驚くレイナっち。姪っ子には鑑定スキルがあるのです。
「オジさんが持ってるのは猛毒だから素材用の方に分けて入れてね」
見た目から椎茸なのではと思っていました。
「……鑑定スキルって便利なのですね」
実に羨ましそうだ。
「自分もあれば飢えを凌げたかも……」
そっちの意味でね。
「レイナっちは、何で冒険者になったのだ?」
「ェ、……冒険者になる理由とかあるのですか?」
そりゃあ、あるのでは。知らんけど。
「まあ危険と隣り合わせの職と言いますか、わざわざ選ばなくても……」
アナタなんかは特に選ぶ必要のない。
「暇なのですよ」
――まさかのゆとり。
「憧れる場合もありますが、大抵は暇を持て余した結果で冒険者になる事が多いです」
神々の悪戯かよ。と違うか。
「――大儀なく、しかし大過なくとはいかないだろう。危ない橋を渡る覚悟はあるの?」
「自分を含め、ほとんどの冒険者に無いと思います……」
だったら尚更。
「ですがオジ様達と出会い、心変わりしました!」
乱心なさって、どうする。
「正直村を出て適当にその日暮らし身の丈暮らしをする腹積もりでしたが改心し、勇者様達の冒険に同行して見聞を広めたいと思ったのですっ」
恐らく正しい言い方としては“広めよう”が正解だとは思うのだが。
指摘などはせずに。
「まあ村の出、勇者パーティーに加わる。定番の流れではあるな」
「そ、そうなのですか……?」
「うむ悪くない。だが味付けが薄い、あと一押しは欲しいところだな」
「あじつけ……それは一体」
「たとえば故郷の村が魔物の襲撃で焼き払われたとか」
「至って平和でした……」
「実は幼少の頃、魔物に育てられたとか」
「先祖代々の田舎者に子育てされました」
「実は英雄の血が」
「純血の田舎者です」
「……気高い志を」
「私利私欲に生きてみたいとすら思っています」
そうなんですね。
「オジ様、自分……」
「いやイイんだ。俺も悪かった」
身の程を知る。高く生きる必定はない。
なんか、しんみりとしちゃったね。
罪悪感まではないものの僅かながらにあどけない若者を無駄な自己観察で落胆させてしまった様子が窺える。
今夜は一杯奢るよ、レイナっち。
「……毒キノコを握り締めて、なにしてるの……」
おっと、早々にしまっておこう。
――と素材用の籠に、持っていた茸を振り分ける。
そして何故か不思議そうに見ている純粋な若者が、おっさんの集めた茸の山を眺める。
「一応言っておくが、これは毒キノコだぞ」
「分かってます。じゃなく、どうしてカゴに?」
「入れ物の正しい用途と思うが」
「いいえ……収納袋を使わないのですか?」
ああ、アレね。
特殊な魔法だか布だかで作られているとかで、便利と思う。が。
「ド〇え〇んのポケットみたいでコワい」
「……ドラ?」
「何を入れたか忘れたりはしないの?」
「それは、たまに……」
「あと薬草と種が同じ一枠なのも腑に落ちない」
「それは確かに、自分も思います」
「でしょ。しかも先頭のが埋まると順次仲間の袋に入れられるのもどうかと思う」
「ぇソレは初耳ですけど嫌です」
「全くもってだ。――ヒメはどう思う?」
「……いい加減で手を動かしてほしいとは思うね」
「ギャッ」
どうやら姪っ子は堪忍袋の緒が切れる寸前の様です。
「こっちの袋も一杯にしてね」
「ウギャッ」
これは御後もコワいようで。
「オジさんはこっちね」
ちなみにエリンギの花言葉は宇宙らしい。
「速くッ」
「はいよろこんで」
叔父さんは算定風袋/了




