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異世界転移で勇者になった私は叔父と奇跡的に再開した。  作者: プロト・シン
一章『私は叔父と奇跡的にサイカイした』
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第28話〔叔父は時折り空気を読めない〕再開29日目[夕暮れ]

 ゴトゴトと揺れて道を行く馬車の中、私は後方で夕陽を眺める叔父に問う。


「どうやったの?」


 きっと他の皆も、聞きたがる真実に耳を傾ける。


「んー。えっとね、前日の事を覚えてるか?」


「……迷宮の依頼? オジさんがヤシ、ウノの実を飲もうとした」


「そそ。その時に依頼主から頂いた物があってだな」


 コレと言い、取り出したのは小さな果実の種。


「それは……ウノの種?」


「うんむ、依頼主の居た村ではこの種を独自の技術で熟成させ酒を造るのだと言う。コレは実際に使用されている現物だ」


 そう言われてよく見ると確かに若干燻んだ色をしている。


「ただコレを直接水に浸して温めると超絶度数の高い酒に成る。美味しいらしいけど一般には卸さない秘蔵品だ」


「……ソレを使ったの?」


「そだね。皆さん喜んで飲んでたぞ」


「どうやって、飲ましたの……」


「いやな、作る過程で火が欲しくて頼みに行ったんだよね。悪いけど火が必要だからその娘を借りられないかって」


「……承諾したの?」


「イヤ。その代わりに目の前でならいいよって言うからお言葉に甘えて、そうしたらもっと作れって大きな鍋まで用意してくれてさ。あとはご存知の通りに」


 ちなみに魔物が眠りこけたのを見計らい人質を連れて場を離れる直前、申し訳なさから自らの拳鍔を置いてきたコトを今も言えずに口ごもる。


「……バカだよ、そんなの」


 ふむ。言いたい事の理解は手を小さく振る肯定の意で表す。


「たまたま、旨く行っただけだよ」


「分かってるよ」


「ならどうして、そんなふうにフザケていられるの……」


 確かに。――そう見えるのかもしれない。


「命を(もてあそ)んでいるつもりはない。けど、若い子ほど価値ある結果を求めてはいないかな」


「……何、ちゃんと説明して」


「つまりはだ、年を取るっていうのはそういうコトで。若い内に出来た事は後回しになる。なるべく楽な方法、手段を用いて恰好は二の次で結果もその次。自分でも何がしたいのかが分からなくなるなんて、よくある話だ」


「それを迷惑だって、思わないの……?」


「思うよ、普通に。だから若者の邪魔をしないように心掛けてはいる。失敗するコトの方が多いけどね。ただ君たち若者は放っておくと誰かをもしくは自分を犠牲にしてでも前へ進もうとする。オッサンに言わせれば酷く滑稽な流れだよ」


「オジさんっ」


「言い方が悪かったか? 申し訳ない。でも楽しくない道を何故進んで選ぼうとするのか、どうせ死ぬのなら馬鹿になっても笑って行ける遣り方だってあるはずだろ」


 誰かに対してではなく呟かれる。それは車内に居る皆の、特に若い心を感化する。


「心に壁を作る、若さ故の強みだ。けれどどうせ壁を作るのなら扉にすれば良い、開かなければ妨げにもなるし窓でも付いていれば尚よしだ」


「……オジさん」


「ところで腹減らないか? 実は最近乾燥麺の開発に勤しんでいてな、試作品もあるのだが誰か火を――お湯を沸かせない?」


 途端にざわつく馬車の屋形内。


「こんな所で火を起こしたらダメでしょ……」


 それもそうか。残念――と思うや否や。


「それなら俺が持ってる魔法の鍋で湯が沸かせるぞ」


「……俺のってアナタのでは」


「仲間の物は俺の物だろうが」


 おっとジャイアニズム。しかし助かる。だが。


「とはいえ人数分の器がねェ」


「その問題なら私が、こちらに来て作製したキャンプ用品が多数あります。もちろん全てシンデレラフィットする品に合わせ収納していて、数も十分にあります」


 おお……。これは凄い。


 材質もさることながら軽く、まるで現代のプラスチックやステンレスの様。


「お嬢さん、もし在庫があれば是非わたくしにこれらの品を売ってくだされ」


「ぇ。――もちろんですっ、おじ様の麺も是非今後に商談で扱わせてください!」


「――おい、そんな話は後にしろよ。ほら湯は沸いたぞ、どうするんだ?」


「おー早いんだな」


 あっという間に。


「まあな。器を並べてくれ」


 次いで麺の入った器に湯が注がれていくと途端に車内が鶏がらスープの香りに包まれて幾人かが腹を鳴らし、各々照れ隠す。


「嬉しいねぇ、自分が作った物でそんなカワイイ音を発してくれるのは」


「オジさんっ」


 おっと、失礼。


 それでは皆さん手を合わせましょう。


「――いただきます」


「「「頂きます」」」








  叔父は時折り空気を読めない/了

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