第1話〔叔父さんはオジさんだった〕再開2日目[朝]
「――……如何?」
朝一で街へと赴き買ってきた装備一式を纏い各部を確認しながら時折感銘を受けた様に声を出す叔父を窺い見て、媛は訊ねる。
「うん凄いな、本当にゲームの世界にでも居るみたいな気持ちになる」
自分はそういう類のモノに触れた経験はないが、本人がそう言うのであればそうなのだろう。と――。
「――本当に、武器はそれで良かったの……?」
「ん、ああバッチリだ」
「……そっか」
とは返すものの、気持ちは少なからず心配。
その心中は姪の表情から叔父に伝わる程で。
「オジさんな、球技は苦手なんだ」
エっと思わず声が出る。何故ならその手にした物は得点の獲得を争う球でも無ければ、そもそも球体ですらなかったからだ。
「ん、どうかしたか?」
「ェ、だってそれ拳鍔だし……」
しかも本人が希望したので手の甲を覆う部分が広めの手甲拳鍔。
「あー刃物はなぁ、――危険じゃん?」
「でもオジさん料理得意だよね……」
「得手不得手の問題ではないからな。それに対象が食材と魔物ではどえらい違いだ」
「……そうなんだ」
正直肝心のところはよく分からなかった。
「――それよりも昨日言ってた事を再確認してもいいか?」
「ェ、ぁ、うん。何?」
「うむ。先ずは現状の整理だ、ヒメは今居る異世界にこちらの時間で一年程前に転移して来たで合ってる?」
「うん、精確かは分からないけれど。こっちも一日の流れと一年間は同じ数で数えられてるし感覚的にもそれくらいだと思う」
「よし。次は元の世界へと帰る方法だ、……本当に昨日言ってた事をしないと、帰れないのか……?」
「うん、私はそう聞いたよ。元世界から何かを召喚する時にも契約は必要で、こっちに滞在が出来ているのは目的と言う約束で縛らているからだって」
「……契約? ――そんなのした覚えないけどなぁ」
「それはたぶん勇者の召喚が通常とは違う特殊な儀式で行われているからだと思う」
「特殊な儀式?」
「うん。通常の召喚魔法は事前に互いが契約の内容と同意を以て行使される制約と制限の合意的形式だけど、別世界からの取り分け勇者の素質を持ってる人間を召喚するのは術者が人の器だと不可能なんだって」
「なるほど。なら、どうやって……?」
「神様が人の代わりに術者となって異世界から勇者を呼び出すの」
「ほう、有り勝ちだが王道な設定だな」
「……せってい?」
「気にするな。それで神様の目的と利害が一致するから魔王を倒すって訳だな」
「うん。神様は勇者を召喚するけど魔王討伐の支援までは出来ないから、現地で人間がそれを担うの。そして魔王を倒す事が出来た時、神様は望む願いを叶えてくれる」
「ふぅむ、その対象に自分達も含まれているという訳か。だから魔王を倒せば帰れると」
そうと頷くヒメ。次いで眉間にシワを寄せて黙り込むのはオジの考える際の癖として見做すも一方では推し量り。
「……やっぱり無理だよね。オジさんとまた逢えたのは嬉しいけど、だからって如何にかなる話でもないし……」
先に勇者として呼ばれた自分すらも諦めていた事、親類との再会は奇跡の最たるものだとしても元の世界に戻る方法はそんなコトではどうにもならない程の過酷な道のりだ。
「まぁその、いつか倒せたらいいなっていう理想だよね。何も目的が無いよりはって」
「それは違う。――理想とは実際に起こす事のできない物事に使う言葉だ。やり遂げるつもりがあるのなら目的は目標とするんだ」
確証は無くても真っ直ぐに、それでいて裏付ける自信はいつも無い。
ふっと叔父はそういう人であった事を一年ぶりに思い出す。
「それに保護者の一人として姪っ子を無事に親御さんの所へ届ける義務はあるからな、やるしかなかろう」
「叔父さん……」
「――ところで姪っ子よ、早々で悪いのだが買って来てもらった下着のサイズがどうも小さかったらしく食い込んで仕方がない。また明日買って来てもらえるか? できればトランクスを所望」
「ぇ。ぁ、うん……」
「そういえば小さい頃に俺のを被って遊んでたなぁヒメ」
「オジさん!」
叔父さんはオジさんだった/了