第25話〔叔父を悩ます続々・魚介編その③〕再開27日目[夕食時]
今宵は日頃の感謝も込めた祝いの席を用意した。
そして主役となる本人が席に着くなり、第一声と。
「……これは何?」
当然であるが困惑した表情で問う。
それに対し同席をしている、既に経緯を全て知った雇い入れヒーラーが。
「今夜は勇者様の、お誕生日パーティーだそうですよ」
「お誕生日パーティー……?」
というコトなので。
「――それでは、何を握りましょうか?」
即席で寿司屋のカウンターテーブルを構築し職人の場から、対面する二人の顔を窺いつつイザと気合いを入れて問い掛ける。
しかし未だ困惑気味の姪っ子は応答せず、流れを悪くしない為にもと隣席する謎にウキウキしたお嬢様から注文を受けることとする。
「お嬢さんは、何を握りましょう?」
「ええっと、自分がお手伝いですか? 握ると言うのは食材を持って握り絞めればいいのですか? どれを――?」
おっとてぇへんだ。
と、逆に当惑しそうになる様子を見てか――反応の薄かった隣からスッっと指が示す。
「並んでる切り身から好きなのを選んで、それを伝えればイイよ」
「ェ? ぁ、ぇぇっと……それなら大好物の魚で、ウケグチノホソミオナガノが」
長ェし噛みそう、これそんな名前の魚なのか。
実際見た目も穴子に似てるが、肉質はカワハギみたいだ。
ヨッっと――。
「――へい、お待ち」
「ぉ、ぉぉッ……これは?」
「今言ってた魚の、握り寿司です」
「握りズシ……?」
「握った米の上に、魚の切り身を乗せて食べる――姪っ子の好物」
「なるほどっ、そういうコトだったのですね!」
そういうコトだったのだ。
と納得したところで、さあと促す。
「本当に自分からで良いのでしょうか……?」
チラリと向けられる視線、それに気付く本日の主役は飾り気のない瞳で。
「いいよ、せっかくだし食べてあげて」
「わ分かりましたっ、それでは――イザ!」
寿司を握るにしては些か力強い感じではあるものの、特に問題はなく口へと運ばれる異世界では初握りの鮨。
果たしてそのお味は。
「ゥ、美味しい……ッ気がします!」
ぇどっち? てな顔をしていたのだろう、少し見合わせる様に姪の口が開く。
「ムリしなくてイイと思うよ……」
「ェ? ち違いますっ、本当によく分からないんですよ!」
スッパリと言っとるがな。
「初めて口にしたので、比べる物と言うか味が神妙すぎて! でも美味しいのは美味しいですからっ、本当に!」
ああそういう感じね。なるほ。
「――それにしても、オジ様はどうしてこんなコトが……?」
出来るのか。と言う質問と捉えて。
「昔、寿司職人になりたくてね。少しだけど心得がある」
「……スシ職人」
それはまあ置いといて。
「他は? まだまだ色んな種類があるみたいだけど」
と要望通りに用意されていた魚介類や道具を見つつ告げると、漸く主役のヒメ君がこちらへと顔を向ける。
「で、どうやったの? お金は」
ぁ、やっぱりそうなりますか。しかしながらご安心を――。
「――快く貸してくれました」
「ハイ嘘」
「……――仕事を、代わりにこっちの要望を聞いてくれるという交換条件で」
「仕事? いつ」
「それ自体はもう終わった」
「ぇ、どうやって……?」
「レイナっちと二人で、昼間に」
「二人って、何で相談してくれなかったの」
「いやぁサプライズだしな」
「それは……」
「話を出来なかったのは悪いと思う、が二人で頑張った結果だ。今夜のところは大目に見てくれないか、――な、レイナっち」
「ェ? ぁ、そっそうですよ! オジ様は勇者様を喜ばせたくって二人っきりで行こうって、何もヤマシくはありませんから!」
本当の事だが、こうも誤解を招く言い方では。
「そぅ、頑張ったんだね。服もボロボロになるくらい」
「それは突然襲われて!」
イヤ何故にこっちを見る。
「それにオジ様は自分にも頑張ればできるからって、少し強引ではありましたけど……」
「へぇ」
――不意にぎょっと。
「でも最後は優しく撫でてもくれましたし、……もしもの時は責任を取るとも」
「オジさん」
ギョカイですからね。
そんな思い違いから始まる一年ぶりであろう姪っ子の祝賀会、本来は行方知れずとなった数日後の出来事だったのだが自分の感覚としては一ヶ月程の遅れにて、完遂とする。
めでたしめでたし。
「オジさん!」
叔父を悩ます続々・魚介編/了




