第22話〔叔父の悩み続・魚介編その⑥〕再開26日目[お昼時]
――ハロア近郊の迷宮、その名も“死海の祠”に本日は来ています。
名が示す様に塩分濃度の高い水、ではなく――次から次へと襲い来る水性系の魔物がお出迎えする文字通り“死の海域”なのだった。
「キャー! ギャー!」
果たして如何なる、彼女は生き残る事が出来るのか――。
「オジ、オジッオジサンッ! 助けてっぐだざーいッ!」
――目前を倒したらね。
…
休憩時には魔除けのお香という物を焚く。
まあ、そんな事はどうでもいいのだが。――今日の当番は姪なので、やや間も空く。
故に雑談がてらこんな話題を出してみる。
「魔物って食えそうでも、食べれないよねぇ」
途端にお香の匂う空間で焚き火を挟み向かい合う少女の目が瞬く。
「く、くえ……食べるって、コトですか……?」
頷き返る、そうそうと。
「……それはキビしい感じが」
「だよね、倒したら消えちゃうし」
やっぱ無理かあ。
「そういうコトでもないようなぁ……、第一食べたいですか?」
「イヤ、食べれたらイイなと思うだけ」
「それって食べたいと、どう違うのですか……?」
「食費が変わる、あと食える物は食うのが命に対する感謝ってものだ」
「ぁぁ、でも魔物は生き物じゃないですよ?」
「ェそうなの?」
「ぇハイ。知らないのですか……?」
「これまでにちゃんと考えた事は無かった。なので説明してちょ」
暇つぶしにもなるし丁度いい。
「ええっと、魔物は魔力濃度が高い所で出現します。迷宮内に魔物が多いのはそれが理由です、倒すと内包している魔力が飛散し霧状になって、その場から消えます」
「飛散した魔力はどうなるの?」
「大半は力を失い消滅します、僅かな魔力もその辺に漂ってまた別の魔物になると言われてます。それ以外の、細かい事情は専門家じゃないので……」
「なるへそのゴマ」
「なるへ、ゴマ……?」
「そういえば、この前入った迷宮は此処と違って川が在ったのに魔物が陸系ばかりだったなぁ、――何で?」
「川……ああ自分の――。それはですね、川自体が自然のものだからですよ」
「そうらしいね、でも何で?」
「ええっと、自然の川にも微量に魔力は含まれてますが水としての流れがあるので魔物を生み出すほどの濃度にはなりにくいそうです」
「じゃあ此処の水は?」
「迷宮が生成したモノなのでガンガン生みます」
「ェ危険じゃんか」
「大変危険です。ただ魔物が生成される速度はまちまちでも、早いって事もないので安全確保してお香を焚けば休憩する時間は十分に作れますね」
「ほー、なるほどね。レイナっちは物知りさんだな」
「もっ物知りっち……ッ?」
「イヤ物知りさんて言ったのだけど……」
「ぇ、ぁぁ、そうですか……」
何故か残念そうで。
「――……どうした?」
「ぇ? ぁ。あのその、自分そんな呼び方をされたことがなかったので……」
「なんかごめん」
「そっそういうコトではなくてッなんて言いますか! ――ありがとうございますッ!」
――はい?
「自分は友達と呼べる人が居ない環境で育ったので、なんと言うか感動――感謝です!」
ああ――。
「――……友達って歳ではないけどね」
どちらかと言えば保護者側だ。
ただ下手に言うと若い子は機嫌を損ねるかもしれないので口にはせず。
「それでも友達っぽいってだけで、嬉しくて、ですっ」
さようか。――ならば。
「じゃ呼び方はレイナっちのままで、構わない?」
「お願いします――!」
そう声を上げる、確かに嬉しそうであどけない様子。
中年の心はホッコリ。
次いで、こっそりと。
「ところでレイナっち、お尋ねしたいことがあるのですがな」
「ぁハイ。……ですがな?」
「実は美味い魚が食える場所と言うか、店を探してるんだが――知らない?」
「……美味い魚? あ、ああ魚料理を食べれる店を探してるって、コトですか……?」
うん、そう言った。
「それならハロアいちの店を知っていますよ!」
あーコレコレと口元に指を立て、静まるように示す。
当然、何故? と言った顔をするが、お構いなしに。
「明日、暇?」
「ぁハイ」
「その店に連れてってはもらえないだろうか?」
「構いませんよ、――?」
よし、イイ感じに。
次の瞬間、背後から肌で感じる程の存在感が突然に。
「何かタノシソウだね? 私が食事の支度をしている間に」
というか何故に。
「ああの、ジジブンはただオジ様に聞かれたことをっ」
「……オジ様?」
む。この香りは。
「ぇ、これはパン……だけ?」
カレーか、是非とも米で食いたいところだが贅沢は言うまい。
「そ、そんなーッ?」
――それではイタダキます。
叔父の悩み続・魚介編/了




