第0話〔叔父さんと異世界で再会した〕再開1日目[昼間]
彼女の名前は岩井媛。
一年程前に現代からの異世界転移を経験し女勇者と成った。
そうして弱冠十五歳にして魔王討伐などと言う大儀を押し付けられた少女は、未だ始まりの国周辺からは脱する事無く比較的静穏な旅路を独り――行き来する。
いつしか彼女は周辺の村々から小さな守護者と呼ばれていたり、無かったり。
しかしながら此度の話にそれ等の経緯は関係が無いので、本件へと話の主点は移る。
※
心の底から驚いた。その驚きと言えば思わず思考が停止して一度は飲み込んだ声が口内に戻り、もれ出てしまった程。
しかしそれ以上に驚いたのは相手の方だろう、と媛は後々になって思う。
ただ第一声。
「ぉぉ、ヒメ。こんな所に居たのか、捜したぞ。と言うか髪切った?」
髪は切った数日前に。
そんな事よりも聞くべき事があるだろうと。
「……何で、叔父さんが居るの……?」
至極当然の質問だった。
故に神妙な面持ちを予想したのだが、まるで近所のスーパーマーケットで偶然出くわした様な日常感を残したままに。
「ぇ、そりゃあ色々とあったからなァ……。まぁでも最初に言いたい事は、何か着る物を持ってないか? だ」
それは――確かに、とても重要な状態だった。
「――……布の服でいい?」
「初期装備としては鉄板だな」
「ゴメン――」
――布だよ。と姪は訂正し、所有する袋に手を伸ばす。
偶然且つ予定には無かった用途。
「まるで人間の尊厳を取り戻したかのようだ」
「……良かったね」
ただの布製が付与する効果としては最希少級ではなかろうか。
ただそんな事よりも。
「でだ、何でヒメはこんな所に居るんだ? パパとママが超心配していたぞ」
「――ぇ、パパとママが……? ……二人も、ここに居るの?」
「さあ何処に居るかは知らん。と言うかここは何処なんだ、もしや流行り過ぎて出版社が一度は撲滅しようとしたが根負けの末に結局根付いたラノベ異世界系ではなかろうな?」
「……ぇっと、たぶん……それ、かな」
「マジかよ」
と口調の割には驚きもしていなさそうな叔父に、静々と姪は頷く。
「そうかぁ、本当にそうかァなんだなぁ」
取り敢えず姪はよく分からない叔父の発言には昔から反応をしないと決めている。
「じゃあヒメは昨日ここに来たのか? そのわりには……整ってないか?」
「昨日……? 私が異世界に来たのは一年位前だよ……?」
「…一年、だと…」
なんとなくではあるが叔父の癖を姪は嗅ぎ取って黙る。
その成果か、フリ伸びが悪いと察する感じで――。
「――ふむ。と言う事は元の世界とこちらでは時間の流れが違うんだな、ウンよくある設定だな。しかしそれならば好かった」
そうだったのか。と内心で衝撃を受けつつ――。
「――……好いって?」
「なに言ってるんだ、今は春休み期間中だろ? 急いで帰れば間に合うんだぞ」
ぁ、そうか。もうとっくの昔に諦めて忘れていた事実があった。
「勿論両親だって心配してる、大事になる前に帰らないとな。でだ、どうやったら帰れるか、知ってたりする?」
静々と媛は頷く。
「マジで。ちなみに……?」
次いで唯一元の世界へと帰還できる手段、その方法を述べると。
「うわ……マジかぁ。できるかなぁ、叔父さんもう五十なんだけど……」
二人の間に沈黙が落ちる。
が次の瞬間――。
「ま、やってみるか」
「……ぇ?」
――まるで夏休みの自由研究を最終日になって相談しに行った時の、記憶が蘇る。
それが、異世界転移で勇者になった私と、叔父さんの、奇跡的な再開と始まりでした。
叔父さんと異世界で再会した/了