第12話〔叔父の小さな悩み魚介編その②〕再開22日目[夕方前]
馬車は行く、わだちを残し。
叔父とその姪を乗せて――。
「お二人は何処まで?」
「――カイスと言う村です」
「カイス……? 何処でしょう」
「ハロアへ行く途中に在る小さな村だそうです」
「へぇ、何でまた――ぁ、ギルドの関係?」
「そうです」
「てコトはライフハックか」
「そういうコトになります」
「なら最終的な目的地はハロアって訳だね」
「ご明察です」
「ま、この道だと他に何も無いしね」
ふムふム。
「――で」
と、偶然居合わせた事で解け合う形となった女戦士の眼がチラリと向く。
「随分と変わった構成だね、なんて言うか……差がさ」
あぁ。――確かに。
「それは、血縁なので」
「血縁? ああそういうコトか。――にしては……」
違和感というかは疑問といった表情で、改めて女戦士の眼が向く。
「リターンにしても貫禄と言うか、冒険者の面影が薄いってのか……」
なるほど。――しかしながら。
「それが分かるというコトは、お姉さんはかなりの実力者、もしくは同等の経験者なのですね。恐れ入ります」
「ハ。イヤ、ま、ぁハッハ、そう褒められるとこそばゆいねーハハハ」
「いやいや大したコトですよ、本当に」
「ぇえ、あっはっハハー」
世の中というのは何事も、人間関係を繋ぎながら進むものである。――by叔父。
…
旅は道連れ世は情け、一期一会か如何かも分からぬ一時の仲とその別れ――実に切ないモノである筈が。
「じゃ、こっち」
まだ走り去る馬車の後ろ姿すらもハッキリと見える内から、姪っ子よ。
平静な今風というところだろうか。
「少し森の中を行くけど、正道から行くより早く着くから我慢してね」
「――それは構わんが。来たコトある感じだな?」
「ギルドの仕事で何度かね」
ああそういうコトか。と合点がいってホウと声も出る。
「野宿する程の距離は無いけど、遅くなると段取りが悪くなるから急ぎめでね」
「ほい、りょうかい」
…
ふと懐かしい記憶が脳裏に浮かぶ。
あれは確か――ヒメが幼少の頃だ。
父親不在の代理で山へキャンプに行った。
山と言っても幼い子を連れて行くような場所、大人にとっては平生の運動不足を解消てな内容で、その道中そこそこ雰囲気のある吊り橋を渡ることとなったのだが。
小さな子供には底知れない大冒険だったのだろう。
橋を渡る直前でヒメの心は止まってしまった。
始めは声を掛けつつ様子を見ていた母親だったが、針が一回りする頃には状況を叔父に任せて行ってしまう。
まあ、目と鼻の先に在る山荘の受付へと向かった訳だが。
それでも幼い足は赴きの有る数メートルを渡れずにいた。
幾度かは目を合わせてもきたが、何も言わずに待機する。
次第に本人の意思が何処を見ているのか何処へと向いているのか、雲行きも怪しくなってきた頃――。
「……おじさん」
――一言、そう言って小さな手が付き添っていた大人の指を掴む。
そのまま連行される様に、今までの事が何だったのかと言いたくなる程清々しく橋を渡る幼子が行く先に待っていたのは――親だった。
数時間と言っても実際に離れたのは数十分の事だろうが、渡り切る直前から勢い良く走り寄る幼子が母親との再会で抱擁を交わす。
実にしみじみと胸に応える光景を眺める中、ふと叔父の足はまだ吊り板の上である事を寂しいと、思ったのだった。




