第11話〔叔父の小さな悩み魚介編その①〕再開20日目[日中]
「鋼製の防具、同じく鋼製の剣が大小で二本の整備、新調した道具袋にその他諸々で今回の差し引きはこんなところだな」
借宿の一室にて先日までの収入と持ち金の残りを机の上で示す叔父が次いで一息を吐く。
「ぇっと、随分残ったね?」
「ん、そうか? ァ――まあアレだな、ヒメの勇者特権がデカいわな」
実際に勇者としての身分が保証されている場所では特別に施設の利用やその費用等が免除あるいは値引きされる事は多い。
武器等の修理に関しても、完全に壊れてさえいなければ実質的に無料と言える。
「そういうコトじゃなくて、オジさんは……?」
「ん? ああ、やっぱりわてはこのままでイイよ」
「ぇダメ、ちゃんとして」
「……ちゃんと」
それは親御さん達が参観するにあたり、主に外見上の不満等をお子様方から言われる時の的な――。
「――ダ、ダサいか……?」
一応清潔感だけは意識していたつもりだったのだが。
「……ダサい? じゃなくて、古い間に合わせだから、いい加減ちゃんとしたのを買って装備してほしいから」
――ああ。
「そっちか、それならさっきも言ったが問題はないぞ」
「あるよ。セミオーダーですらない装備をいつまでも着けてたら強くなれないよ」
「ぇ何で? まさか、そういう仕様なのか……?」
「仕様……それは何を言いたいのかも分からないけど、自分の身体に合わない物は成長の妨げになるでしょ、だからだよ」
なるほど。それは――。
「――確かにそうかもしれん。がオジさんは、叔父さんだしなァ……もう遅くない?」
ちなみに女子の成長期に関する話題も含めて述べようとしたが直感により直前でソレを避けた発言だったりもする。
「身体的な成長じゃなくて感覚の方、自分の感性に合った装備を使う方が動きも良くなるし生存率も上がるから」
「……生存率ねぇ。そういえば、死んだらどうなるんだ? その、こっちの世界だと」
「死ぬ、普通に」
「ぇ、生き返らないの……?」
「返らない」
「マジか――」
――結構なショックだったりする。何故なら。
「異世界って結構現実的なんだな……、もっとファンタジーなのかと思ってた」
もとい、こちらに来てからはつくづく思う。
「でも死ななければ治療できるしある程度の部位が残っていれば再生も出来るから、とにかく死なない事が重要と思う」
なるほど、確かにその場で回復が可能なのは向こうには無い魔法の恩恵だ。
――なら。
「じゃあ、もし大怪我をしてもヒメが治してくれるってコトか?」
無論現時点で己には出来ない相談なので、問う。
「……度合いによるけど、専門じゃないからブッチャケ無理かな」
ェ。なら――。
「――……どうするんだ?」
「薬で治らなければ死なない様に頑張るしかない。それか……」
「それか……?」
「ぅぅん。とにかく少しでも生き残る可能性を上げる為に今よりも良い装備は必須だよ」
「ふム、良い装備ねェ。正直ナニを基準にイイとするか分からぬなァ」
「――それなら今度は一緒に行くよ。どのみちオジさんだけだと買う気も無さそうだし」
「それはちょっと悪いな」
「何が……?」
「お手間を取らせてしまうからな」
「べつにいいよ……、自分のも見に行けて損が無いし」
「……まぁ、そうか」
「ただこの街じゃない所のお店に行きたいから、出発は二日後になるけど」
「それは構わないが、何でだ? いつもの店だとダメなのか」
「たまにいつもと違う場所を見て回るのは見聞も広がる良い機会だよ」
「ほう、言うようになったな姪っ子よ」
「ぇ? ぁ、うん……」
「ならば行き先に合わせて出立の準備をしなければな」
「……そぅだね」
「して見当、――ご予定は?」
「んー南の方とか、どうかな……?」
「南、暖国か?」
「そぅ、暑いのは苦手?」
「暑さ寒さも彼岸まで、特にそういう傾向も無いな」
残念ながらこの世界での南国に暑さの終わりはない。が。
「なら決まりだね。出発はさっき言った通り二日後、ついでにギルドで依頼があるか確認してから街を出よう」
「うム。――ところでヒメよ」
「なに?」
「馬車って早割的なものはあるのか?」
「ェ、ぁぁ……」
「さすがに二日前だと無いか、ぁでも前日予約くらいはあってもいいよなぁ」
「……オジさん」
どうやら叔父は保護者より何より、主夫的目線なのかもしれない。と姪は思うのだった。




