第10話〔姪の憂鬱な日々その①〕再開〇日目[日中]
私には母方の叔父が居る。
母曰く父親の代わりに出産の立ち合いをしたのも叔父だそうで、医者を除けば身内で最初に私の姿を見たのもそう。
物心が付いた頃から叔父は今の叔父で。
変に真面目で、何だかんだ若者の会話にも交じれて、それでいて何処かズレている。
それが私のオジさん――竹本誠。
何故かオジと呼ばせたがる五十代の――好事家である。
※
祝日、と言っても自分達の様な職種にはあってないようなものかもしれない。
何故なら私は勇者、魔王を倒して世界を救うのが本命。
されどその行き道は過酷で時に諦めた気持ちにもなる。
――ただ最近は、それも少し影を潜めている気もする。
今居るのは大陸の一番西に在る大国で私が勇者として召喚された地の、二番目位に栄えている街だ。
元々商人等が行き交う運送の利便性から発展した為普段から賑わってはいるものの、今日に至っては一層騒がしい。
その理由とは。
「なんだか外が騒がしいのぅ」
「ぅん、お祭りだからね」
「お祭り?」
「向こうで言うところの祝日みたいなものだよ」
「ほう。で何の記念日かね?」
「……この国の、王様の誕生日かな」
「ぁぁ、天皇誕生日みたいなヤツか……」
「そぅだね。こっちのは街でも一週間は続く盛大な内容だけどね」
去年なんかは場所も相まって、自分的に酷い騒音だった。
「ヒメは参加しないのか?」
「ぅぅん……参加と言うか、こういう時はお店の売買とかも特別になる事が多いから、そういう意味で見に行こうとは思ってるよ」
「なるほど、優勝キャンペーン的なノリか」
「そぅだね……」
「なら、折角だし用事を終わらせたら行ってみようかな」
「用事? 何かあったっけ」
「おいおい、あったっけじゃないぞ。此処の所出稼ぎが続いたから装備のクリーニング、あとギルドへの報告や収支の確認、それに足りない物や必要な物の買い出し等々をしなくてはならんだろ」
最早保護者と言うかは母親に近い。
とはいえそれは以前からで、変わらず――。
「――……手伝う?」
「ん? ああ。必要なら言うから好きにしててイイぞよ」
「でも、その方が早く終わるでしょ……?」
「まあそれは」
「なら手伝うから、終わったら一緒に行こうよ」
「行くって何処に?」
「それは、お祭りに決まってるでしょ……」
「ああそういうコトか」
と言うか他に何があるのだろう。
「では分担して最終冒険者ギルドで合流しよう。ヒメに書いてもらわないとイケない書類もあるし街の中心地だから都合が良い」
「分かった。私は何をすればいいの?」
「うん――と言うかヒメ、これまではどうしてたんだ?」
「……これまで?」
「だからその、手入れとか準備とか報告とかだな」
「ぇっと近くに行く用事がある時とかに立ち寄ったりかな」
「モノによっては提出期間とかもあるだろ」
「まぁそれは…ノリと言ぅか、無理なら諦めぇ…」
「ダメです。総じて今後は確りとした監理と社会人に成る為の心構えを持つ様に、それ等の指導をする必要があるのなら今後は――」
「オジさんっ」
「――何だ?」
「……オジさんは私の保護者なんでしょ、そういうのは親とか学校とかで」
「無論居ればイイが、居なければ代わりになるのが保護者だ」
「それは保護者って言うか……なんかその、姑じゃない……?」
「ヒメさん、書類の提出が出来てませんわよ。ああもう服も脱ぎっぱなしで、なんてダラシナイ、ちゃんと洗濯カゴに入れてくださらないと」
「イヤそれだと――」
――ただの家政婦なのでは。と思う、従者付き姪っ子でした。
姪の杞憂な日々/了




