第三話『風船と天狗ー①』
朝4時
あの後蒼哉は茜に付きまとわれ魂気の特訓ができなかった。その為しっかりと特訓をする為にまだ誰も起きていない早朝に起きて特訓をすることにしたのだ。
「朝早く起きるのは苦手なんだけどな、この際近所の人も起きてないだろうし外でやるか。今日は土曜日だし中学校まで魂気で強化していってみるか。」
蒼哉は特訓の為に山の上にある中学校までランニングをすることにした。その後ろ姿を一つの人影が見つめていた。そして蒼哉は行く途中民家を屋根伝いに走っていった。
(改めて魂気ってのはすごいな。軽々と2,3m飛べるようになるし、走る速度は軽くジョグ程度で原付を超えるぐらいは出すことができる。こんなの普通のスポーツで使えば金メダル確定だろ。)
そんなことを思いながら中学校に着くと蒼哉はシャドーをし始める。拳や足に魂気を纏わせた状態でやるシャドーは一つ一つの動きに強い風圧が起きる。蒼哉がしばらくシャドーをしていると後ろから人影が近付いてくる。
「誰だ!」
蒼哉が後ろを振り向くとそこにいたのは茜だった。蒼哉は今までのシャドーを見られていたと考えるととてつもなく焦りだす。
「茜!…………見てたのか。」
「………うん。お兄あの風圧どうやって出してるの、後あのジャンプ力は?屋根まで一瞬で飛んでたのは?」
「そこから見てたのか、まぁ見られちまったなら仕方ないな。」
蒼哉はそう言うと事の経緯を話し始めた。1人の少女と出会いその子を助ける為に化け物のような男と戦いその中で魂気という力を手に入れたこと、それら全てを説明し終わって茜の顔を見るとポカンとした表情で話を全く理解できていない様子だった。
「それで、お兄はスーパーパワーを手に入れたってわけね。」
「お前話の内容理解してたか?」
「詳しいことは全く、でもお兄が誰かのために戦ったのだけは分かったよ。」
「それぐらいしかわからないってマジかよ。」
「お兄はいつだって誰かのためにしか戦わないよね、だから格闘技っていうジャンルへの才能がないんだよね。」
「いきなり罵倒はひどくない?」
「罵倒じゃないよ、褒めてるんだよ。」
茜は蒼哉に格闘技の才がない理由を知っていた。昔から蒼哉はあまり競争心がなく自分の為に何かをやるということが少なかった。喧嘩をしないわけではないする時の理由は常に弱者を守るために強さを振るってきた。それ故に自分の勝利の為に戦う格闘技との相性が悪かった。茜はそんな蒼哉の在り方に惚れていた。
そんなこんなで能力の説明をしているとどこからともなく犬が歩いてきた。犬種はよくわからないが小型の雑種犬と思われる。
「お兄、犬いるよ!犬!」
「どっから逃げてきたんだよ取り敢えず首輪に名前とか住所とかないか見てみろよ。」
茜が言われた通りに犬に近付き首輪を確認しようとすると突如犬が膨らみ始めた。
「お兄何これ!いきなり犬が!
蒼哉は茜が言い終わる前に茜を抱き寄せ犬から距離を取ろうとする。犬は距離を取ろうとする2人に対して引き離されまいと蒼哉の背中に噛み付いた。
「お兄!大丈夫!」
「問題ない!」(だけどこのままいくとまずいな。)
蒼哉は魂気を防御の為に体に纏わせる。その直後犬は限界が来たのか破裂し衝撃波が広がる。背中越しに衝撃波を受けた蒼哉は茜を庇いながら吹っ飛んだ。
「あの犬一体何だったの!」
「茜落ち着け、さっきの犬は恐らく魂気を使って生まれた犬だろう。俺たちを襲ってそのまま自爆するように指示されてたんだろう。」
「まさかおっちゃんの犬防いでくるとはなぁ。初見ならあれで一発のはずなんやけど。」
「おいおい狗天、あれは悪魔で威力を抑えて小型犬。牽制用だからあの程度なんだよ。」
吹っ飛んだ2人に2人組の男が近付いてくる。1人は白髪に目には赤いアイラインの和の服装をしている蒼哉と同じぐらいの見た目の男。もう一人は黒の丸サングラスの髭面で服はアロハシャツに短パンとバカンスに来てるのかと思うぐらいの格好をしていた。
「さっきの犬はお前らの差し金か?」
「そうなんよ、コウの阿呆を倒した奴を勧誘、若しくは抹殺が僕らの仕事なんよね。」
「だが困ったもんだよ、お前さん追跡しようにも痕跡が駅からほとんどなくなっていたから時間がかかって仕方がなかったぜ。」
「おい、俺はコウなんて奴と試合した記憶はないぞ。そもそも俺は格闘技はしばらくやってないし。」
「もうそんな下手な芝居はええよ。コウ・ケンガイ、中国出身の元プロボクサー。能力は″鱗の鎧″ここまで言えばもうわかるやろ?」
ボクシング、そしてパンゴリンという単語を聞いた瞬間蒼哉は魂気を一気に放出させる。そのまま構えて臨戦態勢に入る。
「お兄、あの人達何喋ってるの?」
「状況見て察してくれよ、パンゴリンってのはセンザンコウの学科名。つまりは俺が名古屋駅で戦った男の能力と一致してる。それを知ってるのはあの男の仲間以外ありえないってことだよ。」
「そんなの知らないよ!お兄みたいに無駄な知識知らないし。」
蒼哉と茜が言い合いをしていると狗天と呼ばれていた男が遮るように喋り出す。
「お2人さん夫婦漫才はやめてもろて。柏根蒼哉君、君に与えられた選択肢は2つ、君が開けた穴を自分で埋めるか、開けた穴の責任を取って死ぬか。」
「お兄この人やば「茜、しばらく静かにしてろ。おいてめえ、まずお前らみたいな幼女を誘拐しようとしているロリコン変態組織の一員になるなんて死んでもごめんだね。そしてもう1つ、お前らが再起不能にされるって選択肢が足りねぇな?」
「ふーん、まぁ断られるとは思っとったけどここまで腹の立つ言い方されるとは思ってなかったわー。」
空気がひりつき始める。男2人から鋭い殺気が蒼哉の全身を突き刺す。蒼哉は冷や汗をかきながらも強気の姿勢を崩さない。
「お前ら御託は良いからさっさと来いよ。朝飯に間に合わねーだろうが。」
「蒼哉君ホンマに冗談が上手やわ〜。ほな、始めよか。」
「魂装」
男達がそう言った瞬間魂気が男達を覆い隠す。そして現れたのは人のような姿をした怪物だった。