第二話『Fラン大学生と少女ー②』
目の前の信じられない光景を目にして蒼哉は狼狽えそうになる。眼前には巨大化し刃のような鱗を持つ怪物のような姿をした男、普通の人間がそれを見れば気が動転するのは当たり前のことだった。
(何なんだよこいついきなりうなり始めたかと思ったら化け物に変わりやがった、身長も2mいや3mは成長している。しかしでかくなったことよりも気になるのは体にできた鱗のようなもの、魚類、爬虫類のものじゃない。おそらくセンザンコウのものによく似ている。)
蒼哉は驚き焦りながらも男の分析を始める。戦いにおいてむやみやたらに突撃したところで負けることを漫画アニメから学んでいるからである。しかし相手からしたらそのようなこと関係がない、ただ目の前の羽虫を潰すぐらいにしか考えていないのである。
「行くぞ小僧。」
そう言うと男は蒼哉に向かって拳を振り被る。
「おいおいそれは流石に雑すぎるだろうがよ!」
男の拳が蒼哉に向かって飛んでくる。その拳を寸前のところで避けるがその後後ろにあった柱が粉砕されるのを見て恐怖する。
(速度はそこまでだがパワーと鱗の硬さでとんでもない威力だ、受ければまず即死だろうな。」
「よく避けたな、だが無駄なこと。」
男は続けて拳を連続で繰り出す。大振りがゆえに避けることは容易であるが攻撃をすることができない、男の体にある鱗のせいだ。
「あの鱗のせいでこっちの攻撃が意味なさすぎる。俺が今やるべきは」
そう言って蒼哉は距離をとる。相手が近接型の員ファイターだと予測した蒼哉がやるべきことは少女達が逃げる時間そして警察が来るまでの時間稼ぎである。
(時間稼ぎとは言ったものの警察が来たところでどうにかできる相手かこりゃ。)
そう考えながら攻撃を避け続けていると金時計の方角から警察が到着する。しかし来たのは交番に在中している3人だけであった。
「そこのお前動くな大人しく投降しなさい!」
警官達は拳銃を構えながら警告する。しかし男は警告を意に介さず蒼哉に向かっていく。警官たちはその様子を見ると慌てて発砲してしまう。本来であれば威嚇射撃が必要のはずだったが蒼哉の身の危険を判断をした結果弾丸が男に向かって放たれた。その弾丸はあっけなく男の鱗が弾いてしまう。
「そのような豆鉄砲意味はない。」
男は方向を警官へと方向を変える。男からすれば銃弾など自分の鱗であれば意味がないと分かっていた。それならば何故警官に狙いを変えたのか、それは至極単純「気に障るから。」である。警官は慌てて男に向かって発砲を続けるが意味はなかった。放たれる弾丸の中の一発が男の腹に当たるその部分には鱗がなかったのか男はかすり傷を負う。
「俺の体に傷をつけるとは!」
激昂した男は近くにあった柱を砕き破片を拾い警官達に投げつける。破片は警官一人に直撃、一人の足をへし折った。
「おい待てそれあるなら迂闊に距離もとれねぇじゃねぇか!」
蒼哉は急いで警官達に向かう男へ走り出す。警官達の避難するための時間を稼ぐためである。拳銃が効かない相手に対して警官は無力、犠牲者になるだけである。蒼哉は男の背中に飛び乗り視界を遮る。
「早く避難をお願いします!拳銃が効かない以上貴方達は無力だ。応援要請をお願いしますなんなら自衛隊を!」
蒼哉は引き剥がそう暴れ回る男にしがみつきながら叫ぶ。警官達は急いでその場から離れ応援を呼びに行った。
(しかし銃も通用しないとなるとどうする、刃物なんて持ってないしそもそも意味がない。いやあいつの腹と顔の鱗のない部分にはかすり傷が入ったところを見ると可能性がなくはないの か?)
思考が視界を遮ることから相手をどう倒そうか思考を切り替えた瞬間一瞬力が緩む。その一瞬のうちに男は蒼哉を引き剥がし足を掴んで投げ飛ばす。投げ飛ばされた蒼哉は勢いよく柱に叩きつけられる。
(やばいやばいやばい!呼吸ができねぇ。全身が痛い!やばい立てねぇマズ過ぎる。この状態で攻撃されたら終わる。)
蒼哉が悶え苦しむ中で男は距離を詰めてくる。
(なんで関わっちまたかな、普通あんな大男と喧嘩するだけでもきついってのに何だよあの怪物、強すぎだろ...。あの子達は逃げられただろうか、もしも追手がいたらどうしようか。誰か助けてあげるだろうか、心配だ。そもそも彼女達は何故狙われていたんだろう。)
動けない中で蒼哉は考え続けた。しかし意味はなく男は蒼哉の目の前にまで迫る。
「小僧、お前のせいで無駄な時間を過ごした。」
男はゆっくりと拳を振り上げる。
(一時でもヒーローの真似事ができたんだ、この人生にも少しは意味があったのだろう。)
蒼哉は瞼を閉じ自分のこれから待ち受ける運命を受け入れる。男が蒼哉に拳を振り下ろしたその瞬間何者かが蒼哉を抱きかかえて拳を回避する。
(あれ?生きてる、何でだ。誰が助けてくれた ん だ…。)
「何で、どうして君がここにいるんだ!」
蒼哉の目の前に立っていたのは彼が逃がしたはずの少女であった。
「ごめんなさい!あなたの頑張りを無駄にするようなことをして、でも私達のために命を懸けてくれている人を見殺しに何てできません!」
彼女の一言を聞いた蒼哉の目には薄っすらと涙が浮かんでいた。泣きそうになる蒼哉に対して彼女は間髪入れずに衝撃の情報を伝える。
「お兄さん、あなたにあいつと同じ力が使えるようになるって言ったら信じますか。」