第一話『Fラン大学生と少女-①』
「なんで泣いてるの?」
泣いている″私達″に彼は優しく声をかけてくれた。それが私達と彼との出会い、そして運命が動き始めた瞬間だった…。彼と過ごしたあの夏の日々は出来事の1つ1つが色鮮やかで今でも忘れることができない、彼と交わした最後の言葉は今でも"私"は覚えている。
「ぜってー俺が皆を守るよ、何が来たって絶対に守れるヒーローになる。約束だ!」
そう言った彼の姿は確かに夏の太陽のように眩しく輝いていた…。
「…であるからして、おっと時間のようだ。本日はここまで今日の授業内容を小レポートにまとめて提出するように。それでは解散」
「さぁて授業も終わったし何か食って帰るか……」
目を覚まし1人でぼやきながら柏根蒼哉は授業でつかったテキストを片付ける。彼が通うのは名古屋清心大学、名前だけは良い大学ぽく聞こえるがその実態は中の下な学力の奴から救いようのない馬鹿まで通う所謂Fラン大学というものだ。そんな大学に通っている蒼哉は一般では中の中ぐらいの学力だったが本命の大学に落ち滑り止めにしていた清心大学に通っている。
(今日は何を食べて帰ろうか…駅の拉麺通りでいつもの奴か、マクリでハンバーガーかそれとも焼肉か)
授業終わりの蒼哉が大学を出て駅に向かおうとすると1人の影が近付いてくる。
「蒼哉ーもうお前授業ないだろ?じゃあ駅前のアニライト行くの付き合ってくれよー。」
「栄人またかよ…俺今日はそこ寄ってく理由ないんだが?」
「仕方ねーだろ、今日発売の『カエ転』の最新刊買わなくちゃいけないんだよ!」
蒼哉の数少ない友人河水栄人は蒼哉の肩を揺らしながら説得する。蒼哉は所謂コミュ障と呼ばれるものであり大学デビューを失敗していた。その中で運よく作ることができた友人の1人が栄人である。そんな友人の頼みを断れるはずもなく
「分かったよ、付き合うから離してくれ。」
「本当か!?ありがとう心の友よ~善は急げだ早速行こうぜ!」
そう言うと2人は名古屋駅前のアニライトへ向かい買い物を済ませる、栄人はお目当ての漫画を買うことができ満足げだった。蒼哉は「行く理由がない」と言いながらしっかりと推しの声優のグッズを買っていたのであった。
「ありがとな蒼哉また大学で!」
「あぁそうだな、またな」
2人はそう言って店を後にし別れた。蒼哉は1人駅に向かいながらあることを考える。それは自分の夢の事であった。
(ヒーローになるね...馬鹿な夢を見たもんだ。)
彼は昔ヒーローに憧れた。テレビに映る正義のヒーローに、彼らの美しい生き様に心揺さぶられた。いつか自分もそんなヒーローになれるのではないかと。しかしそのようなことはなくしっかりとそれが空想の中のものであることを知り次第にその夢は色あせ消えていった。
蒼哉が改札へ着き通ろうとしたとき横から勢いよく走ってくる少女が現れる。そして少女はほどなくして蒼哉ぶつかり倒れてしまう。
「ぐふっ!」
蒼哉はぶつかった際に少しよろけたがすぐに少女に手を差し伸べる。
「すいません、大丈夫ですか?」
「あっ!すっすいません私急いでいて。」
「いえいえこちらこそすいま……」
謝ろうと少女の顔を見た蒼哉は彼女の表情に違和感を覚えた。彼女は何かに酷く怯えた表情だった。
(怯えている...俺そんなに怖い顔してたかな?それにしても明らかに様子がおかしい。)
「姉ちゃん早くいかないと!」
後ろから少年が彼女の袖を引きながら言う。蒼哉は少年の声が震えていることにくづく
(姉弟だったのか、しかし姉も弟もここまで怯えているのは何故だろう?俺そんなに怖い顔してるか…確かに目つきが悪いとはよく言われるが)
蒼哉が違和感について考えていると彼女達は早くこの場を立ち去りたいのか足早に立ち去ろうとする
2人が蒼哉から離れようとすると190cmはあろう大男が目の前に現れる。
「发现。」
(2人の知り合いか?いや明らかに2人は怯えている、つまりあの子たちが急いでいたのはこいつから逃げるためか。)
蒼哉が3人の様子を観察しながら考察していると少女が怯えながらも話し出す。
「お願いします、私がついていきますからどうか弟だけは」
「何言ってんだよ姉ちゃん!」
「我已经带你好了。」
大男が2人の手を掴み強引に連れて行こうとしたその時
「ちょっと待ってくださいよ、貴方は彼女たちのお知合いですか?」
「你是干什么的?为什么打扰。」
「何言ってるかわかんないですけど、2人とも嫌がっているように見えたんで」
(さて止めたがいいがこれからどうしようか、この人めちゃくちゃ強そうだし喧嘩しても勝てる気しねーな)
「ねぇ君達この人は君たちの知り合いかな?」
蒼哉は彼女達と男の関係を確認しようとする。もしも知り合いだった場合彼女たちがただ駄々をこねているだけになる。彼女達の様子を見る限りそんなことはないと分かっている、しかし彼は考えていた正当防衛になるかどうかを。
「ちっち違います!お願いします、助けてください!」
少女が助けを求めた瞬間蒼哉の体はよどみなく動き大男の右脇腹に蹴りを入れる。男が一瞬よろめくと流れるように蒼哉は拳を胸に打ち込む。男はその衝撃で少しだけ後退する。
(流石にでかいだけはある全然距離はとれなかったか、でも脇腹にいいの入ったはず2人が逃げる時間はある。)
「2人とも早く警察に!周りの人も警備員かだれか呼んできてくれ!」
「分かりました、ありがとうございます!」
2人は急いで交番のある金時計の方面に逃げる。蒼哉は男のほうを向き構える、周りにいた人々も大男が不審者であると分かり抑え込もうと近付く。
「妨碍我的工作…不要!」
男はそう叫ぶと近付いてくる男達を次々と殴り飛ばす。男達はまるで羽毛のように宙を舞った。
「まじかよ、何てパワーだよ本当に人か?こいつは。」
「嘿小男孩、何故俺の邪魔をする。」
「いやなんでって言われても誘拐事件の現場に出くわしたら誰だってそうす…待てお前日本語しゃべれるのかよ。」
(こいつ日本語喋れたのか、じゃあ何故最初から喋らなかった。そうすれば怪しまれる可能性も減ったはずしかも中国語か何かは分らんがこいつはおそらく外国人、なのに全く片言じゃない。そしてまるで吹替みたいに言語が変わりやがった…。)
蒼哉が男のしゃべる言語がいきなり変わった理由を考えていると
「邪魔をするようなら容赦はしない、あまり人目に付く場所で使うなと言われていたが仕方ない。」
(何を出す気だ?ナイフか、拳銃?まさかのサブマシンガン!?どんな武器を使うつもりだ。)
蒼哉が男に対しての警戒を強めていると男はうなり声を上げ始め筋肉が膨張される。
(ただのパンプアップか、警戒して損 し た…。)
蒼哉は息をのんだ。筋肉が膨張しているのではなく男の体が巨大化していることにそして男の体が鱗のようなものに覆われていくことに。
「いやいやいやいや何だよこれ、一体全体何が起こってるんだよ。」
姿を変えた男を前にして蒼哉は苦笑いを浮かべながら構えることを忘れ棒立ちするしかなかった。