私の力は大きすぎるみたい
また始まった、歯車の狂うことが無い平穏な世界が。
「ねぇ、どうしてあの子は遊んじゃだめなの?」
「静かにしなさい、”あの子”ではなく”カンナ様”よ…いい?カンナ様は神様の子、あなたみたいにもともとはしゃいで遊ぶタイプじゃないの」
違うよ
「お母さんはカンナ様?のこと好き?」
「うーん、大きい声では言えないけど、あまり好きじゃないの。」
「どうして?」
「どうしてって…」
「やっぱりきもちわるいから?」
「な…!静かにしなさい!カンナ様の前で…!」
……そうか、気持ち悪いか
ザワザワ ザワザワ
森がざわついてる、空が曇ってきた。
「申し訳ございませんカンナ様!どうか、どうかお許しを…この子にはきつく言いつけておきますので!」
「言い聞かせる前に早く帰ったほうがいい…私のせいでまた、空気が荒れてしまったの。死にたくなかったらはやく」
あぁ、やっぱりだめだったな。気持ちを抑えきれなかったから、
また灰の雨が降る。
「今日は傷つきすぎたかな…灰の量が前よりも多い気がする。」
どうしたらこの力をコントロールできるようになるのだろうか。鏡の前に立ち映る自分に問いかける
「私の名前は何…私は誰…いつ死ぬことが出来るの?」
この問いはいつものルーティーン。今日はいつもと違うことも聞いてみよう
「いつからこの力を手に入れたの、ねぇ私の両親はどこ…?」
すると鏡が答えた。
「あなたは知りすぎないほうがいい」
鏡がそう言い放つと頭に鋭い痛みが走った。朦朧とした意識の中で覚えているのは、鏡に映った黒猫の姿だった。
ドサッ…
私は家とも呼べない小屋の中で意識を失った。
パチ…パチパチッ……
私が次に目を覚ましたのは真っ赤に燃えた明るい小屋の中だった。
ん?燃えている…?
私はとっさに小屋の外へと飛び出した。これが間違いだった
外に飛び出すと、幽霊でも見たような顔をした村の大人たちが立っていた。
大人たちの顔が見る見るうちにこわばっていく。そして一人の村人が口を開いた。
「あなたのせいで農作物が台無しよ!どうしてくれるの!」
この女性が発端となり、私の耳には村の大人たちから浴びせられる罵声しか入らなくなった
今までは陰で話しているところを聞くぐらいだったのに、こうも真正面から罵倒されると危ないな
アレが活性化してしまう。何とか気を紛らわせようと、どうして小屋に火をつけたのか、どうして真夜中にする必要があったのかを聞いてみた。どうしてなんてもう分かりきっていることなのに違う答えを期待してしまう。
傷つくのは自分なのに。
やはり答えは考えていたことと同じだった。
『村に被害が出るのをこれ以上見ていられなかったから』
『夜中は子供であるカンナ様が眠りについていると思ったから』
寝ているって考えたうえで夜中に火をつけに来たということは私を殺そうとしたってこと…
この村はまだ優しい人ばかりだと思っていたのにな…笑えてきちゃう
私の心は自分が思っていたよりも深く傷ついたらしい。罵声が少し小さくなってきたころ灰の雨が降り出した。
「まただ…」
村人の目つきが変わった。じりじりと村の大人が近づいてくる、しかも一人の村人の手には刃物が握られていた。
不思議と怖いとは思わなかった。多分いつも鏡に向かっていつ死ぬことが出来るのか聞いていたからだろう。何も考えず目を閉じた。手が少し震えている気がした
「にゃーお」
え、猫の声…?閉じていた目を開けた。目の前には黒猫がいた、と思う。私はもう一度目を閉じようと瞬きをした次の瞬間村人の声が消え、森の中にいた。