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18/19

【18】

 繊細で、どこか寂し気な笑い方をする青年だった。

 私は彼の抑うつ症を治し、彼はある女性と結婚したが、私は彼のことが心配だった。彼の妻が彼を愛していないことに気付いたからだ。

 私は、精神的な不調がまた起きたら、すぐに連絡をくれるよう彼に伝えた。

 1年後、案の定、彼の抑うつ症がぶり返した。しかし、彼は連絡をくれなかった。


 その頃、私は大学に講義に行かなければならず、忙しかった。ある夜、講義を終えてホテルのベッドに入ったが、妙に気分が落ち着かず、なかなか眠れなかった。

 そして、やっと寝付くことができた深夜2時頃、私は額と後頭部に鋭い痛みを感じて飛び起きた。その時、誰かが部屋に入ってきたと感じ、部屋の灯りをつけた。だが、部屋には誰もいなかった。


 翌日、電報が届き、私は彼が拳銃自殺したことを知った。

 彼が命を絶ったのは深夜2時。銃弾は彼の額と後頭部を貫いていた。ホテルのあの夜の落ち着かない気分は、自殺をためらい、おののく彼の葛藤や苦しみを、集合的無意識を通じて私に知らせるメッセージだった。


 なぜ私は、こんなことになる前に、自分から彼に連絡を取らなかったのだろう? なぜあと一歩踏み出して、彼に手を差し伸べようとしなかった——


 突如、カーラの意識の底から噴出したものが、燃え盛りながら体の芯を貫き、カーラは頭をのけぞらせた。そいつは体の中を暴れ回り、やがて、ある言葉を焼き印のようにカーラの心に焼き付けて、元来た場所に戻っていく。

 そいつに姿形はなかったが、意識の底に沈む前に低く笑った、ような気がした。


 カーラは目を開き、ふらつく足で立ち上がった。護身用のナイフを腰の後ろのホルスターから抜く。

「何をする気だ?」とガリーが目を剝く。


 気分は最悪だった。自分の体が自分のものじゃないように感じる。

でも、それはある意味、今この時には好都合なのかもしれない。

 左手を木に添えて、前に出る。

「おい、止せ」


 ハーバーの視線がカーラをとらえる。

「おお、そこにいたか。聞き分けのいいお嬢さんだ」

 カーラは腕を上げて、肩の上あたりにナイフを構えた。

「ん? そんなもので立ち向かおうというのかね? 手が震えているぞ」

 言いながら、ハーバーはカーラにボウガンの照準を合わせた。

「今、楽にしてあげよう」


 カーラはハーバーを真っ向から見据えた。手の震えが止まった。そして、

「偉能ロゴス“シンクロニシティ”」

 木に置いた自分の左手の甲に、思い切りナイフを突き立てた。


「ぐあっ」

 ハーバーが獣じみた叫び声をあげる。強烈な痛みがその左手を駆け巡り、ハーバーは体をよじって苦悶した。


「なんてことを!」

 ナイフで木に縫い付けられたカーラの手を見て、ガリーが木陰から飛び出す。四葉も駆けつける。

 ガリーがナイフを引き抜こうとした。だが、ナイフはカーラの手を貫き、さらに樹皮の奥まで刺さって簡単に抜けない。四葉が手を貸し、2人がかりでようやく引き抜くと、傷口から血があふれ出して手首に滴る。


 ナイフを抜いた痛みで、カーラの手が震える。ハーバーも再び声をあげて苦悶する。ガリーはリュックから急いでハンカチを取り出し、手の傷口を縛った。


「貴様、何をしたぁー」

 ハーバーはボウガンを構えようとするが、痛みと震えでままならない。右手で左手首をつかんで支え、何とかボウガンをこちらに向けるが、発射された毒矢はまったく見当はずれの方向に飛び去った。


「新しいロゴスが覚醒したんだな? よし、今のうちに採石場に急ごう!」

 ガリーと四葉が、カーラを抱えるようにして森を抜けていく。

 ハーバーは後を追おうとするが、激痛のために足が進まず、月夜の森に轟く呪いの咆哮を上げた。


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