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【16】

 ガリーたちは、計画したように林道に着くことはできなかった。途中でハーバーに見つかり、追われるうちに、ガリーと他の2人は離れ離れになってしまっていた。

 だが、今、ハーバーがこっちの方に来ている気配はない。

 わずかな余裕ができたのを利用して、ガリーはリュックから望遠鏡を引っ張り出す。


 すぐにハーバーの姿をレンズにとらえた。目標を見失ったのか、左右に首を回しながら歩いている。だが、ハーバーは、ガリーたちが目指していた林道の方向にいた。

 これでは、林道に停めた車にはたどり着けない。ガリーはさらに望遠鏡を巡らせた。


「お、ここは使えそうだ」

 少し離れたところに、戦いを有利に運べそうな場所があるのを見つけた。

 次はカーラたちの居場所だ。


 望遠鏡で探すと、彼らは林道の方角から大きく外れたところにある避難小屋の後ろに隠れていた。彼らとザックに、今見つけた場所のことを伝え、全員でそこに行こう。

 ガリーは避難小屋を目指して、周りに注意を払いながら歩き出す。


 と、その時、横合いのクマザサの茂みが大きく揺れて、人が飛び出してきた。

 こっちが隠れる暇もない。ガリーは、手に持った望遠鏡を振り上げた。


「ガリー?」

 目の前に現れたのはザックだった。わき腹を押さえ、息を切らしている。

「ちょうどよかった! こっちから探しに行こうと思っていたところだ。

 この先、10時の方向に200メートルほど行ったところに採石場がある。そこに向かってくれ。俺もカーラたちを連れてすぐに行く」


「わかった」と答えながら、ザックは再び駆け出すが、それはガリーが教えた方向ではなかった。

「違う!そっちじゃない。10時の方向と言ったろう。くそっ、パニクってるのか?」


「誰がパニクってるって?」

 背後から声がかった。

 ガリーはゆっくりと振り返り、茂みから現れたハーシェルに精いっぱいのフレンドリーな笑顔を振る舞った。



「奇遇だね、ガリレオ君。行き掛けの駄賃だ。君も氷漬けにしてやろう」

 ハーシェルがタクトを突きつける。

「まあ待て。俺があんたの敵だといつ決まったんだ? 俺たちが追っていたのはハーバーで、あんたが現れたのはまったくの計算外だ。

 成り行きでこういうドタバタになっちまったが、少なくとも俺は、事によってはあんたに協力できると思ってるんだがね」

「何を白々しい」


「それとも、あんたはあのいかれた毒使いと大の仲良しで、一緒に人殺しを楽しみましょうって話か? ウィリアム・ハーシェルの名が泣かないか?」

 それを聞いて、ハーシェルが不機嫌な顔になった。

「誰が仲良しだ。あんな奴でも、いないと困る事情がある。だから、任務として同行しているだけだ」


「ということは、アカデミーは頭のおかしい殺人集団じゃないってことか?」

「当たり前だろう。人類に仇をなすような組織に私が加担すると思うのか?」

「それなら俺と同じだな。なあ、アカデミーの本当の狙いを教えてくれないか? それが納得できるものなら、俺もアカデミーに加入しよう」


 ハーシェルがガリーを、顔から足先までジロジロ眺める。

「いや、無理だな。あんたと我々では宗旨が違う」

「どういうことだ?」

「いずれわかるさ。いや、その前に退場してもらうことになるか」

 ハーシェルがタクトを構える。


「手土産持参でも無理かい? 俺はRMAのメンバー表を手に入れることができる。明日の先発投手が誰か知りたいだろ?」

「ベースボールに興味はない。つまらん時間稼ぎはやめろ」

「では、ニュートンの弱味を教えるというのはどうだ?」


「弱味だと? 仲間を売る気か?」

「俺がアカデミーに入れば、彼は仲間ではなくなるわけだからね。

 彼はペンシルベニアで左のわき腹を負傷した。そこをちょいとつつけば、おとなしくしてくれるよ」

「嘘を吐くな」

「俺の言ったことが嘘だとわかったら、そのあと俺を氷漬けにするなりアイスキャンディーにするなり、好きにすればいい」


 ハーシェルは、疑いに満ちた目でガリーを見る。だが、結局、タクトを下ろすと、ガリーの横を通り過ぎて行った。




 ハーシェルは、すぐにザックを見つけた。

 森を通る小道に出たのはいいが、そこからどっちに行ったらいいか、ザックは見当がつかない様子でキョロキョロするばかりだ。

 森の中からハーシェルが近づく足音が聞こえると、ザックは一目散に小道を駆けだした。

「その道がどこに向かうか覚えていないのか? 本当にパニクってるみたいだな」

 ハーシェルがあきれたようにつぶやいて、後を追う。


 小道を抜けると、そこは最初に彼らがいた滝見平の広場だった。ザックは、しまったというように後ろを振り返る。

「そろそろ諦めたらどうだ、ニュートン。ペンシルベニアの古傷が痛むんだろ?」

 そう言いながら、ハーシェルがザックを追い詰めていく。


「なぜわかった?」

 ザックは、広場の端にじりじりと後退する。滝の音が背後に近づいてくる。

「科学者に求められるのは優れた観察眼だからね」

 ハーシェルは、タクトを構えた。もう後がない。

 ザックは、力尽きたように足を止めた。


「そうだ、そこでじっとしていろよ。コールドスリープには繊細なテクニックが要るんだ。

 少しでもさじ加減を間違えると、体液がすべて凍り付く。さっきの木みたいに破裂したくはないだろ?」


 ハーシェルは、スローな曲を指揮するように、タクトでゆっくりとリズムを取った後、鋭く振り下ろす。だが、その瞬間、ザックは全身の力を一気に集中させて身をひるがえし、

万有(U)引力(G)反転!」


 ハーシェルが宙に浮かび始める。固定金具が劣化していたのか、隣にあった木製ベンチも、錆びたボルトを引きずりながら、一緒に浮き上がっていく。

 ハーシェルは一つ舌打ちして、ベンチの背を思い切り蹴りつけ、その反動で反重力ゾーンから抜け出した。


「なるほど、君にとっても、森の中よりここの方が好都合というわけか。では、森の際まで戻るとしよう」

 ハーシェルはザックを攻撃しつつ森に後退しようとするが、ザックもハーシェルをとらえようと、動線の先々に反重力ゾーンを仕掛け、ロゴスの撃ち合いになる。


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