5話 調整してみよう
「蓮夏、ライセンスは?」
レオさんは男勝りで何というか、非常にデリカシーがない。ライセンスを初対面の方から聞かれることは普通ない。
私は今日のお客様を家に招いて食事を振る舞っていた。パース調整をしてくださるというのだ。久しく調整出来てなかったので使用感に違和感を覚えていたところだから丁度良かった。
「躊躇なく聞きますね、レオさん」
包丁で鶏肉を叩きながら応える。
「ライセンスなんて、女性に体重聞くのと同義ですよ」
あっけらかんとした顔のままのレオさん。間を置いて応える。
「んあ?女同士だから良いじゃないか」
そういうことじゃないですよね。狙ってるのか、馬鹿なのか、まだよく分からない。でもまあ、面倒臭い人ではあるんだけど、悪い人ではないのだろう。ユウナさんも長い付き合いの様ですし。
あははと笑うレオさんへ回答する。
「300です。まだまだ強くなりたいと思ってはいますが、やはり実戦は怖いですね」
ライセンスとは、単身で生還可能なウテルス深度として調査協会から交付される。ライセンス試験では上位ライセンス保持者の監視下で単独進行する。
「駆け出しにしてみれば、いい線じゃないか、なあユウナ」
「あぁ、すごいよ。俺なんて250だよ」
ユウナさんは私のパースを不思議な機械に繋げ、調整作業を行っている。
「ユウナは私が無理やり試験受けさせただけだし、その時の同行者が低ライセンスだったからなだけだ。本当はもっと高い」
「買いかぶりすぎだ、レオは俺のことを」
叩いた鶏肉にソースを塗ってフライパンに乗せると、美味しそうな焼き音がなり始める。
今日解体したモンスターは今まで見たことが無かった。かなり大きかったし、強いモンスターなのだろう。と、なると、二人の強さは相当のものかと思っていた。そこでユウナさんは調整士、となれば戦闘力が高いのはレオさんか。
「レオさんは、その差し支えなければ、おいくつですか?」
ニヤリと笑うレオさん。
「おいおい、レディになんてことを聞くんだい?」
この人は何でこんなに面倒なんだ。
「・・・」
無言で見つめると、バツの悪そうに目線をそらす。
「あー、750だよ」
「えええっ!!?」
驚いた私はフライパンがひっくり返りそうになって、さらに焦った。
「おお、大丈夫か少女」
レオさんもユウナさんも私を心配して立ち上がっている。
「あ、あのすいません、大丈夫です。取り乱してしまいました」
750、それは上位開拓者だ。それも最高クラス。大都市でも数えるほどしか居ないはずだ。
「750ですか?すごいですね。どこかの団長でもされているんですか?」
平静を取り戻せずにいる。
「いんや、ノラなんだ。あ、そういう意味ならユウナとの二人調査団の団長だな。んー、名付けて調査団、遊蝶花!うん、そうしよう」
「なんだよ、遊蝶花って。急だな。ってか俺はお前のような団長の配下には絶対入らねえよ」
「私は好きなんだ、遊蝶花、つまりビオラだな。黄色と黒の可憐さが漂う美しき華よ。私のようだ」
ユウナさんもきっと苦労しているんだろうな。
「と、とにかく、レオさんすごいじゃないですか。スカウトなんかもされそうなものですけど・・・」
「あぁ、あるにはあるんだが断っててね。あと公開していないからあまり知られていないのだよ」
ライセンスは基本、協会で公開するのが通例だ。仕事に直結するから。ライセンスが高ければそれだけ報酬も比例する。いや、むしろ二次関数的に増える。
だから皆公開するのだ。レオさんの様に秘匿する変わり者もいるのはいる。が、ほとんどそんな人は居ないだろう。権威も富も手に入るのだから。
「でも、良い暮らしだってできるわけですし・・・どうして」
それなりに危険は付きまとう。でも、そもそも自分自身が最高の用心棒なのだ。
「んー。まぁね」
調整の手を止めるユウナさんはレオさんに向いて尋ねる。
「そうだよ、俺なんかをウテルスは誘うよりも、お前がウテルスに出たほうがよっぽど金になるんだよ。どうしてやらねーのさ?」
一呼吸をおくと
「お金じゃないのだよ、君たち」
チッチッチ、と指を振るレオさん。
「おい、そんなエモいの要らないから、養ってくれよ」
笑うユウナさん。仲の良さが伝わる微笑ましい笑顔を二人は浮かべていた。私も、自然と頬を緩ませていた。
「さ、できましたよ!特性チキンステーキです!」
じゃじゃーんとテーブルに置くといい匂いが鼻を刺激する。お腹が減った。
「おおお、美味そう!」
二人の声が重なった。同郷で同い年だという。二人の事をもっと知りたいと思わせる、そんな雰囲気の、楽しい二人組だ。
「あ、でも私だって作れそうだなっ」
ポロッとでた何気ない本心を、慌ててごまかそうとしているのが、よく分かる。かわいいー人なのだろう。
「あはは、じゃあ今度は料理振る舞ってくださいね」
笑顔で返す。いたずら半分、本心半分。これからも良い関係を続けたいな。
「こっちの調整もできたよ。今日は遅くなったし、明日にでも試してみてよ。俺たちまだ2日くらいはこの街に居る予定だからさ」
仕事が早いな、本当に。しかも一度も私の試着も私への質問もないままに終わるなんて、本当は有り得ない。
「早いですね!ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて明日も宜しくお願い致します」
笑顔。私は本当に楽しいんだろう。こんなに自然と笑顔でいられるなんて、久しぶりだ。
そして何より、明日も一緒に過ごせるのが、とてもワクワクする。