4話 掃除屋
レオに連れられると、大体ろくでも無いことに巻き込まれる。牛野郎との戦闘もそうだが、問題なのは後始末だ。
「おーい、きみー。私を素人だと思って素材ちょろまかしたりしてないよねぇ?」
レオは少し身長が高い。175はあるだろうか。見下される人の気持ちを察して欲しいものだか、このデリカシーの欠片もない女には理解できないだろう。その腰まで伸びるワインレッドの髪だけが彼女のいわゆる女性らしさなのだ。
「ウルサイですね、やってません」
プイと、腕を組んで拒否をするのは、この小集落で最近働き始めたという少女。
「はいはい、そうやって女を出せば男が助けてくれるとでも思ってんのかねえ?」
口が悪い。腰に手を当てて威張り散らす。そういうところだぞ、レオ。
「むーー」
少女は顔を赤らめて睨みつけている。
「蓮夏って言ったっけ?そんなんじゃ困るんだよねえ、ちゃんと仕事してくれないとさぁ」
「おい、もういいだ・・」
「こら、だめ。これだから優男は。そんなんだからつけあがるんだよ?ねえ」
ワザと蓮夏の頭の上から見下ろすレオ。キレイにアップに結われた髪が頭上でユサユサと踊る。
反対に見上げる少女は深青色のショートヘアー。おおきな瞳には涙を浮かばせている。
「レオ、俺も見てたけどそんな特殊な素材は含まれていなかったよ。彼女は嘘なんか言ってない」
パッと明るくなる少女の顔。俺へと視線を投げる蓮夏は子供そのものだ。が、そんなに嬉しそうに見られるとこちらにも危険が及ぶが。
「なに、ユウナ。このチンチクリン庇うの?」
無言で返す。
「分かったよ。次怪しい素振りしたら金払わないからね」
とりあえず納得してくれたみたいだ。レオは俺の言葉は聞いてくれるのだが、他の人には全く。本人はそれがこの世界を生きる処世術だと言っていたが・・・。
「分かってくださってありがとうございます!」
パッと花開く様な声で礼を告げる少女。
「ではこれ、素材の差分の900Feです!またご贔屓にどうぞ」
ペコと頭を下げる深青色の髪をした掃除屋。
モンスターを討伐すると、もちろんそこに死骸が残る。それを片付けるのが彼女らのような掃除屋の仕事だ。
モンスターというだけあって、その体には特殊な組織ある。研究や薬、人工神経や有機義肢等にも使われる。それを解体するのも彼女の仕事になる。
「ほら、ユウナ。あれだけのモンスターでしばらく飯が食べられるくらいの報酬がもらえるんだ。私 と一緒にもっとウテルスへと潜ろうよ」
確かに割は良い。が、俺は戦闘能力なんて無いんだ。サポートはもちろんできるとしても、レオに全てを任せてしまうことになる。
「ユウナさんは開拓者じゃないんですね」
蓮夏は俺を見上げながら話す。
「あ」
「そう、ユウナは調整士なの」
俺の言葉を遮って少女を睨みつける。蓮夏は目線だけをレオに向けると
「ユウナさんにお話しているのです」
明らかに引きつるレオ。どうして仲良くやれないものなのか。
「ああ、レオの言う通り調整士だよ」
ポンと掌をたたく蓮夏は嬉しそうに口を開いた。
「あの、私のパースも調整してもらったりできますか?もちらん、お題は払います」
掃除屋なんて名前だが、彼女らも立派なウテルスレイダーだ。むしろ本業のほとんどはウテルス内での仕事だろう。
「金はあるんだろうねぇ?」
ふっかけるつもりか、レオ。
「こちとら、目利きを仕事にしてる身なんで、きっちり仕事にあった支払いにするつもりですよ。けど」
レオを睨んでいた蓮夏は俺に視線を向け直す。
「私は駆け出しだけど、それなりに経験は積んできました。その上で、私の解体をキチンと目利きしてみせたユウナさんの眼識は素晴らしいものと感じます」
「直感ですけど」
「だから、いくらでもお支払いしても良いとさえ、思っていますよ」
首を傾げると青髪がフワリと揺れる。
「お前のような小娘にしては良いセンスの観察眼だな」
レオと蓮夏はまたも睨み合う。
「ご期待に添えるか不安だけど、あぁ構わないぜ」
「本当ですか?ありがとうございます!あの、良かったら私の家でご飯でもいかがですかね?料理の間にでも私のパースを見てもらえたらと思いますっ」
「あ」
わざとらしくレオを見ると
「レオさんもついでにどうぞっ」
屈託のない笑顔がまた怖い。
「ついでにいただくわね」
微塵も怒りを含まない声色がまた、怖い。
嬉々と喜ぶ少女は双剣に着いた血を拭って鞘へと収めると、街の方へと歩き出す。俺達も彼女に続いた。
しばらく歩くと、先程の牛の残骸は野生の獣に食い荒らされるのが見える。
死んだモノは全て生きるモノに有効利用される。この世界のルールがそれだったならまだ良かった。
生きるモノは生きるモノですら有効利用してしまう。俺たちが食べるために、動物を殺すように。