3話 侵略者
私はレオ、ユウナの幼馴染だ。同じ故郷から2年前にココへ出稼ぎに来た。
まだまだピチピチな私達だけど自分でお金を稼がないと生きていけない可哀想なニンゲンなのだ。
私はウテルスレイダーとして、ユウナは調整士として生計をたてている。と言っても、私は何か調査団に所属しているわけじゃあない。ノラリクラリとソロ活動を営んでいる。
その点、ユウナはしっかり働いている。まあ、それも私のお陰様なわけなんだけどな。
元々機械をいじるのが好きだったアイツに、これからの時代はパースだって言ってみたらドンドンとのめり込んでいった。それがきっかけで調整士をしている。
「なあ、ユウナ」
「なんだよ?」
目線は合わない。私達はウテルスの外にも関わらず、モンスターに遭遇したところだった。互いに目の前のモンスター、目を失った牛人間とでも呼ぶべきモノへと注意を向けている。
「600級くらい?」
牛顔は6,7メートルほどの高さがあるだろうか。少し見上げる形となる。
「俺は専門外だよ、レオの方が詳しいだろ?」
そう言いながらも、あの巨体を真っ直ぐに見据えている。頭の中で何を考えているのか、全く分からない。
でも、ユウナが逃げようとしていないのだけは明確だ。それだけで十分な安心を私に与えている。
「なんでこんなのが外へ出てきてんだよ、まったく」
ウテルスの周辺には私達が住んでいるリデルの様な大都市から小さな集落まで様々存在している。
今日はその小集落での依頼を受けての出先だった。
「その口悪いの何とかすれば言い寄る男も居るだろうに、ねえ。ざんねん」
額の血管か切れるかと思ったが、今は戦闘中だ。冗談が言えるくらいには、ユウナにとっても余裕って事、なのだ。
・・・
だよね?
本当に残念な女だったり、する?
「うっさいな。さっさと解析しろ」
私は自然とニヤついていた自分に、あぁ楽しいんだって改めて思った。
「んー、レオを750級とするなら、ぜーんぜん敵じゃねーよ。そもそもレオ、800なんて余裕で超えてそうだけどな」
「まあ、それはいいから。どれくらいかね?」
「550ってところか」
「そうか」
分かってたことではあるが。私たちの敵ではない。
「俺は戦えないからな」
【級】というのは迷宮ウテルスの深度のことだ。半径1000キロメートルの真円に広がるウテルスは、中心へ行くに従ってモンスターが強くなる。外から中へ向かって550キロ地点のエリアボスのランクを調査団協会で550級と定義されている。
人類が到達したことがあるのが、現時点で888キロ地点だ。1年前、最大級調査分隊の一つがそこで壊滅した。その会敵したモンスターをエルナトと名付けられている。そして、初めて出会った人間の言葉を操るさらには初めてのヒトガタだった。
「ブオオォーーー!!」
唯一顔面に残されている口が不揃いな牙を剝いて咆哮をあげる。空気が揺れるのが分かる。殺意とも言えるそれは、私達の体を突き抜けていく。
でも、大丈夫。私達の敵じゃない。
地面を蹴って、牛へと距離を詰めた。脳の思考に集中する。自分の頭に熱を帯びるのがわかる。
私のこめかみの辺りに電気がバチバチと走る。と、人の頭くらいの大きさの二つの丸い玉が私の背後から勢いよく飛び出した。
そしてそれは牛へと襲いかかる。玉に反応して体をひねるモンスターは安々と躱した。もう一つの丸い玉はフックして横から牛の横腹を捉えようとする。
「右腕で止める」
私の脳へと言葉が流れ込んでくる。そしてそれが映像化された。数瞬先の未来が脳内で見える。
「予定通り」
今度は私の口から言葉が漏れた。と同時にフックした丸い玉は1メートル程の光の刃を纏わせて円盤の様に即座に回転する。
受け止めようとした巨牛の右腕を一瞬で切断した。
「グオオー」
バランスを崩すモンスター。もう一つの丸い玉を引き戻すと同じく光の刃を纒わせる。そのままの勢いで牛の体を腰のあたりで一文字に切断する。
二つの玉、ビットは私の所へと戻りフワフワと宙を停滞する。
吹き飛ばされたモンスターの上半身は、地面へとたたきつけられた。下半身はまだ、立ったままだった。
警戒を解かないユウナ。それは私も同じだ。
瞬間、地面に墜ちた牛の上半身は、腹部と右腕の切断面が一瞬で締まり上がった。止血だ。まだ、生きている。
そして、即座に残った左腕で体を持ち上げると、その手で地面を蹴る。こちらに向かってくるスピードは腕も足も失った生物とは思えない。
「さすが、550級だね」
「気をつけろ」
牛の表情はまだ死んでいない。口しかないそれでも、嫌というほどに殺意がにじみ出ている。
突進してくるモンスターへとビットを飛ばすと、避けることもなく激しくぶつかった。突進の勢いを相殺した瞬間、上から二本の光の槍がモンスターを襲い地面へと突き刺した。
新たな二つのビットが牛の体を突き刺している。腕が固定された形で倒れ込んだモンスターはただただ叫ぶ。
「生命力すごいな」
ユウナは緊張感もなく漏らす。
脳の中の思考へと集中する。また、熱くなる。先よりも強く燃えるように。するとまた、こめかみに電気が走った。
その瞬間に牛の頭がグニャりとひとりでに曲がり、そして大量の血を巻きながら捻り潰れる。
ぐったりと動かなくなったモンスター。
私の額には先程の電気がまだ、バチバチと音をたてている。
「おつかれさん、さすが侵略者だ」
ユウナの声はいつも通りだ。
モンスターと言えど、命あるものを殺すのだ。殺し合い、というのは自分の命も燃やす。
戦う時の昂ぶる気持ちはそんなところから来ている気がする。アドレナリンがでるのだきっと。
「あはは、まあね」