23話 シン能力の開発 その7
恐怖に体が震えている。彼らが見てくれているとはいえ、ライセンス300の自分にとって、明らかに自分よりも強いモンスターと対峙しているのだ。
「大丈夫、死なせはしないよ」
ユウナさんの言葉はありがたいが、怖い。信頼もある、きっと私は死なないだろう。彼らは意味が分からないくらい強いのだから。
それでも一人で対峙するのは恐怖だ。
「グルルルゥ」
巨大なライオンは一番前に出ている私を狙っている。
「いいよ、打ち込みはじめー!」
剣術道場のような掛け声をあげるレオさん。その声にライオンが反応した。勢いよく私目掛けて走ってくる。
避けるのか、右に?左?わからない。早い、相手のスピードが、今まで対峙したどのモンスターよりも。
頭がパニックになりそうなところだった。レオさんとの稽古が脳裏をよぎる。
ライオンが爪を振り上げた。振り下ろされるタイミングがわかる。レオさんよりも、遥かに遅い。
突進しながら振り下ろされる爪に向けて双剣の片方を構える。すると、自然と力が入る。必要な筋肉を強化して、爪を受け止めた。火花が散った。爪なのに、金属に勝つというのだろうか。
重い一撃。でも、大丈夫。私の体のコントロールは奪われていない。反対に、弾かれる爪。が、猛獣は即座に足を地面に突き刺して、先とは反対の腕を振りかぶる。見える。相当の速さだが、私の強化された視覚で捉えることができている。
もう一つの双剣を構えれば、当然のようにモンスターの一撃を受け止めた。先よりも軽い。隙が見える。
腰に力が入る。電流が巻き起こり、体の筋肉が締まるのが分かる。足先へと意識を流し、そして太ももの筋肉が膨張すると、一気に締まる。地面を蹴った。
ライオンの腕の付け根に、筋肉に覆われていない部分が視界に入り込む。
「そこ」
流れるような自分の体は、全て言うことを聞いてくれる。届く、私の双剣の刃が、その弱い部分へと。スローモーションではなく、でも滑らかに、私の視界が流れていく。
刃が触れ、プスリと肉を裂く音が腕から伝わる。こんな小さな振動でさえ感じる。刃が肉を切り分けて進んでいく。鮮血はまだ出ていない。
気持ちがいい。
その一言だった。すべてが捉えられる。骨に当たる跳ね返す力が肉のそれとは違うのが分かる。でも、そのまま、押し込める。少しずらして、骨の関節へと入り込んだ。
閃光を引いて、私はライオンの左腕を引き裂いた。私の体は止まらず、突き進む。地面へと足を突き刺して、土煙を上げながら、体を反転させてライオンへと向き直る。
体の運動量が減らない。足へともう一度力を入れて、地面を深く深く突き刺した。数十メートルの土埃を巻き上げて止まった。
血を撒き散らす猛獣。激しく吠えて、体のバランスをとっている。
したたる血は赤い。が、瞬間、切り口は潰れていく。血が止まる。まだ、殺る気だ。その強い意思に圧倒される。死を恐れないのだろうか。
ライオンは、脚部をふくらませる。私達と同じ能力。彼らモンスターも使うのだ。この能力は、いったい、何なんだろうか。
縮んで締まる脚、地面を蹴ると私へと真っ直ぐに襲いかかる。先ほどよりも冷静に見れている、そう思ってはいたが、猛獣の戦闘力は格段に上がっているようだ。死を恐れないが故だろうか、決意とも言える。死ぬ気だ。全ての生命力を乗せて私へと捨て身の突撃を繰り出す。
見える。血がべっとりと着いた双剣を構える。でも、まずい。先の力とはまるで違うのがライオンの筋肉から分かる。足から腰へと意識を集中し、下半身を強化する。全身でその一撃を受け止めなければ、吹き飛ばされる。
「くっ!」
爪と刃が激しく音を鳴らした。獣の運動量が私の腰から足へと伝わっていく。地面から足が離れないように、腰を深く落とし衝撃を受け止める。体が押し込まれ足元から砂埃があがると、数メートルほど後ろへと吹き飛ばされる。でも、体勢は崩れていない。重心はまだ腰に残っていた。
悔しそうに牙が震えているのが見える。全身全霊の一撃を止められたなら、私もそうなるだろう。彼もまた、生きているのだ。それを殺さなければならない。今までたくさんのモンスターを掃除してきた。これも、それと同じ。終わりにしよう。
再度、足の筋肉が膨張し、そしてきつく引き締まった。
私の双剣はライオンの首をいとも簡単に切り落とした。
「なんだ、ぜーんぜん大丈夫じゃん、蓮夏」
呑気な言葉をかけるレオさんには本当にいつかお仕置きをしてやりたい。




