22話 シン能力の開発 その6
暗闇とは思えない程の視界だ。過去に来た時の記憶とはまるで違う。もっともっと暗く、敵の表情なんかの細かなものは把握出来なかった。ぼやけた視界だったはずだ。
でも今はくっきりと見える。しかもパースから投影される映像として、ではなく、直接目で見ているような解像度と、視線変化への追従だ。
「こ、れ」
「驚いたかい?蓮夏」
「驚くも何も、暗闇が少しもないですけど」
「そう、それが私とユウナのコンビネーションなの。すごいでしょ」
レオさんは胸を分かりやすく張る。
「神経使うけどな、これ」
「私の仕事は大半が画像補完なだけだから、それほど大変じゃないんだけど・・・ユウナは視覚以外の感覚を強化してるし、それなりリソースも喰うのよね」
むしろ、薄暗いウテルスよりも遥かに明るい。最高位の案内人であればこの様なレベルなのだろうか。周りから聞いた話はどれもぼんやりとした視界だというものばかりだったが。
「二人で連携してこの視界を作ってるんですか?」
「そう。俺はセンサーの役割で、あらゆる感覚情報を入力として視界化してるんだ。空気の揺れ、音、匂い、地面、あとは生命体が発する電気的な変異とかね。それをパースを介してレオと共有してるんだ」
「私の方はね、記憶と記録から引き出した情報を入力に結びつけて、より人がイメージしやすい形での画像生成を行ってるってわけ。ついでに君達二人の行動信号をパースからもらいつつ行動予測することでより本物の視界を再現してる」
何を言っているんだこの二人は。常人のそれを遥かに超えている。
「は、はぁ・・・すご過ぎてよく分からないです」
今までの森とは一変して、渓谷のような暗い壁に囲まれた場所だった。大きな川が道を遮るように流れていることに気がつく。
「この水の音、大きな川だったんだ・・・」
以前通過したときは水の流れる音が不気味に響いていた。視界がぼやけた中で、川の水を視界化すらされていなかったから、何だろうと疑問だったのを思い出す。
川幅200メートルはあるだろうか。川は壁の方から流れてきて、反対側の壁へと消えていくように流れている。
壁は物理的に壁があるわけではなく、黒い霧がずっと続くそうだ。霧に包まれると数秒で死に至る。死の黒瘴とも呼ばれた。
死んだものの纏った瘴気でさえ近くの人を殺す。それ故に霧の解析が進んでいなかった。近寄れないのだ。
「この橋って、何十年も前に作られたんですよね。視界が悪い中で建設するなんて、どれだけ労力がかかったんでしょうか」
川には反対側に渡る橋が建設されている。今はそれの中頃を歩いていた。
「人類はすごい・・・でも腐ってる」
ユウナさんの言葉。それがどういう意味なのか分からない。
「ユウナはいつも言うんだけどさ、こうやって。それでも私は、そんな人類がカワイイと思えるよ」
レオさんは笑う。
「どういう、ことですか?」
「888地点に、人語を話すヒトガタが出現したのは聞いたことあるだろう?」
「はい、第一都市の最大調査団が壊滅したっていう、あれですよね」
「そう。人語を操るモンスターがいるんだ。ウテルスってものが、一体なんなのか、今までは全くの謎だったのに、人語を操るものが関わっていたんだ」
「人類が、作ったんですか?このウテルスを」
「さあ、そこまでは分からない。でも、関わっているのは間違いないだろうさ。歴史的にも情報が少なかった場所だしね、ここらへんは」
「歴史って、未踏の地と呼ばれてた話ですか」
ここら一帯、数百年前は未踏の地だったと教えられた。そこに隕石が落ちてこのウテルスの暗い霧に包まれたのだ。
「そう、ここは未踏の地だった。何故未踏の地だったか・・・」
間を開けるユウナさん。話しながらも目線は前方を警戒している。
「なんでしょうか・・・」
「そこに来た人間で、外へ帰っていった者がいなかった。つまり皆、行方不明になってたんだ。中でどうなったのか、それすらも分からない。それ故にタブーの地となった。エデン、楽園へと連れ去られるなんて言われることもあったらしい」
まるで怪談だ。その神隠しにも人類が関わっていたというのだろうか。昔は先住民が縄張りを守ろうと侵入者を問答無用で殺した時代もあったという。
「っと、来たぜ。お客さんだ・・・お客さんは俺らか?」
「350」
「んー、400かな?」
「おけ、じゃあやってみよっか、蓮夏」
橋を渡りきった私達から、100メートル程のところにモンスターがいる。大きな、ライオンだろうか。全長10メートルはある。
アレと戦えという二人はニヤニヤと私を見ている。くそ、そんなことまでくっきりと視界化する必要あるんだろうか。




