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20話 蓮夏の過去 その9

 落ちてきた。後に厄災と名付けられたそれは、小柄な背丈のヒトガタだ。クリーム色をしたフードを深く被ったその顔は見えない。


 私とそれ程変わらない背丈にも関わらず、両手には身長を超える大きな鉈を2本握られている。砂埃に包まれながらそこに立っている。どんな高さから落ちてきたのか分からないが、あの衝撃を巻き起こしたにも関わらず、無傷で立っている。


 フードのヒトガタはおびただしい数の電撃を体に纏っていた。私は数十メートルは飛ばされただろうか。しばらく何が起きたのか分からなかった。


 柘榴、彼女は大丈夫だろうか?


「柘榴っ!」


 叫ぶ。ヒトガタは聴覚があるだろうか。私がターゲットにされるかもしれない恐怖が込み上げてくる。


 シェルターの入口も衝撃で吹き飛ばされている。焦る。見回すと、倒れている柘榴が見えた。


 彼女のもとへ駆けたかった。でも、体はピクリとも動かない。動き出すフードのモンスター。ゆっくりと私へと向かってくる。何かしなきゃ、でも、体が動かない。


 恐怖だけが心を埋め尽くす。


 厄災は鉈を地面に擦りながら近づいてくる。


 ついに、私の眼の前にくると、フードから出た口元が見える。唇が動く。声は聞こえなかった。何かを言っている?分からない。殺されるかもしれないのに、動く口元を見続けるしかなかった。


「蓮夏ーっ!」


 声のする方へと顔を向ける厄災。直後、激しい剣戟が響いた。


 眼の前で鍔迫り合いするアーゼスとフード。アーゼスが助けに来てくれた。でも


 アーゼスは腕を見たこともないほどに膨らませて、そして力いっぱいフードのモンスターを弾いた。私の眼の前から離れる厄災。私の前に立つアーゼス。


「蓮夏、大丈夫か?」


「うん、あ、りがと」


 声が出ない。安心できない。わかっている。眼の前の敵は、圧倒的に強くて、アーゼスにはかなわない。私の全身の感覚がさう言っている。でも、そんなの今まで経験したこと無かった。これが正しい感覚なのか、それともただ私が恐怖におびえているだけなのか。


「にげろ、俺が食い止める!」


 彼も同じ様に感じているのだろうか?ならどうして立ち向かえる?分からない。勝算があるのだろうか。


 彼は激しく地面を蹴った。


 腰が抜けている私は立ち上がることもできない。それでも何とか地面を這った。柘榴のもとへ。彼女を助けて、シェルターへと。もはや、シェルターが安全とも思えないが、そうするしか無かった。


 アーゼスはあのモンスターと渡り合っている、ように見えるが、私にははっきりとアーゼスの疲労が見えた。止めないといけない。でも止めなくても、大丈夫なのかもしれない。戦闘がどういうものかわからない。いや、止めたところで、アーゼスは止まらないかもしれない。私達を守るために。


 そして、その瞬間はあっさりと訪れた。


 刃物が刺さった音とは思えない鈍い音だった。鉈がアーゼスの腹を貫いている。血を口から吹き出した。


 私の全身が固まって動かなくなる。いや、時間が止まったような、そんな感じだった。


 フードのそれは、私の方を向いた気がする。アーゼスは宙に浮いたまま突き刺されている。


 そして、何も言わず、彼を突き刺したまま厄災は地面を蹴って、空へと消えていった。


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