17話 蓮夏の過去 その6
鉱山は標高4000メートルを超える山脈で、その火口から地下へと掘り進んでいく形となっている。火口には半径数百メートル、深さ200メートルほどの穴があけられている。その穴底から地下へと潜るようになっている。
この標高まではケーブルカーが設置されており、観光に来る人もちらほらと見かけた。今も採掘が続いているため業者の方が多い。そのためか、こんな少女が珍しいようでたくさん声をかけられた。しまいには両手いっぱいのお菓子をもらってしまった。
「あはは、蓮夏はモテモテだな」
地下へと降りる運搬エレベーターがガタガタと大きな音をたてて揺れている。20畳程のスペースと座る椅子もある。
私は取り付けられている大きなガラス窓から外を眺めている。斜めに降っているため外側も斜めに過ぎていく。
景色なんてものは殆どなくて、削られた岩肌が見えているだけだ。時折採掘用の通路が見えるくらいで退屈なものだ。でも、今向かっている見たことの無い世界へのワクワクがどんどんと大きくなるようだった。うまいこと焦らされている。
「10分くらいで到着するよ」
「あっ」
過ぎゆく岩肌に特殊な金属が埋まっているのを見つける。殆ど周りと変わりなく見えるだろうが、私の眼は微かな違いに反応する。
「どうした?」
「壁に珍しい金属があっただけだよ」
「へー、やっぱ取り残しも全然あるんだな。一応解体士も雇ってるはずなんだけど・・・蓮夏がすごいってことだよね、きっと」
雪先生にも良く出来ると言われるし、仕事でもそんな風に褒めてくれることが多い。現にこうやって掘り残しを見つけられるのだ、実際すごいのかもしれない。でも、私にはアーゼスみたいに強いわけじゃない。そこはキチンと理解しないといけない。
「なんだ、嬢ちゃん解体士なんか?沢山の掘り残しが見えるんかい?」
「え、そ、そうですね」
知らないおじさんが声をかけてくる。
「それはすごいなあ、オジサンももう長いことココで採掘しとるけど掘り残し見つける何て気になるのう」
悪い気にさせただろうか。そういうつもりでは無かったのに。
「あの、ごめんなさい。気を悪くさせてしまいました」
「ん?あぁ、違う違う、すまんなおじさんの顔恐かったか」
そういうとニンマリと表情を変えて私の目線に合わせて腰を落とした。むしろその顔の方が恐い。
アーゼスは笑っていた。悪い人ではないのだろう。
「まぁ俺もプライドっちゅう腐りかけのものもあるんやが、やっぱりな自分よりもすごい人の意見は聞きたいんや」
「やから、降りたら少し教えてくれへんかな?実際の採掘した後の壁を見ながら」
握手を求めているのだろうか、大きな傷だらけの手を差し出された。アーゼスはそれを見て頷く。嬉しそうだ。
「はい、わかりました」
手を伸ばし掴むと強く握られた。少し痛い。我慢我慢。
大声で笑うおじさん。周りの人もにこやかに見ていた。
「嬢ちゃんは礼儀正しいな。アーゼス君の知り合いってことは雪先生のとこの子か。俺はレイドランや。嬢ちゃん名前は?」
「蓮夏です」
雪先生は顔が広いらしい。すごいな。
「蓮夏ちゃん、じゃあ今後も宜しくや」
話を聞くにもう60歳になるらしい。レイドランさんは今も現役で採掘をしているという。体はゴツくアーゼスよりも一回り大きい。
ガタン。大きな音と衝撃と共にエレベーターは止まる。機械が色々な音をたててゆっくりと扉が開く。そして外へと踏み出した。
「なっ・・・」
壮大な空間。向こうの壁は1キロ程は離れているだろうか。いやもっともっと遠い。眼の前に広がる大きな大きな空間。天井もまた、遠い。こんなに広いのに太陽の光は届いてない。
壁やいたるところにライトが吊るされてこの世界を照らす。遠くに沢山の人が行き交っている。所々に天井まで届く足場が組まれていたり、採掘の大掛かりな機械が設置されている。
「なっはっは。言葉にもならんやろ?蓮夏ちゃんみたいな反応が、俺等は楽しいんや。この壮大な空間を俺たちは作りあげてるんやってな」
「レイドランさん、俺のセリフだったのにそれ」
「なっはっは。アーゼス、君にはまだ早い。3年働いたら言わしたるわ」
楽しそうに笑う大柄の男とアーゼス。
その間も私はずっとこの地下世界を見回していた。
「ほんとに、ほんとに、すごい・・・」
私よりも年をとったおじさんや、お姉さんもいる。皆が、私の顔を嬉しそうに見ていた。




