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13話 蓮夏の過去 その2

 「あら、アーゼス、おかえりなさい」


 笑顔でアーゼスを迎えたのは雪先生。商店街で彼に会った後、そのまま一緒に施設へと来たのだった。


 道中はルーフィンの街ではどんな生活をしているかを聞いていた。はじめは少し緊張していたが、すぐに今までと同じように話すことが出来ていた。


「雪先生、ただいま戻りましたっ」


 アーゼスも、嬉しそうだった。それがすごく心に残っている。


「元気そうね、良かったわ。また少し男らしくなった?」


 微笑む雪先生。私もウンウンと大げさに頷いてみせる。


「あはは、そう言ってもらえて嬉しいです!でもまだ二ヶ月しか経っていないですしね」


 笑うアーゼス。


「ルーフィンの暮らしは慣れてきたかしら?」


「はい、灯さんのご家族が良くしてくれるので。あと、新しく友人もできましたし、楽しんでいます」


 それ自体は嬉しいのだが、やはり私の居ないところで楽しそうに暮らしているというのは、なにかモヤッとしていた。今思えばただの嫉妬でしかないのだが。だからこそ、招待してくれた時は飛び跳ねた。


「こんなところでごめんなさいね。さ、部屋に入って、お茶でも出すわ」


 私達は先生の部屋でお菓子を食べながら近況に思い出話にと、沢山お話をした。


「それで、帰ってきたのは何か理由があったの?」


「本当にただ、皆の顔を見たかったのが一番です。でもせっかくなので、蓮夏をルーフィンへ遊びに誘おうと思っているんです」


 それを聞いた瞬間に飛び跳ねたのだった。目はキラキラと輝いていただろう。先生もアーゼスも驚いて私を見ていたのに気付き我に帰ったが。


 先生はお腹をかかえて笑い出した。恥ずかしかった。


「あはは、あは。良いじゃない、ほらこの子こんなに喜んでるし。ルーフィンならそれほど道中は危なくないしね」


 コクコクと首を振ったのを覚えている。


「どうかしら?蓮夏」


「いく!いくよアーゼスっ!」


 するとアーゼスも白い歯を見せて笑った。


「良かったよ、蓮夏もきっと楽しいと思うよ!それに、お前はその才能をもっと世界で活躍させるべきだからね」


 このときのアーゼスの言葉は、今になって意味がわかる。特別、と呼ぶには全然値しないんだけど、自分にはレイダーとしての力があること。


「今日はこちらで泊まって、明日にはルーフィンへ行くんだけど、蓮夏どうかな?向こうで3日くらい過ごしたらまた送ってきてあげるからさ」


 二つ返事で私は答えた。



 夜ご飯を施設の皆と食べに来ていた。アーゼスは人気者だ。皆が彼の周りへと群がっている。ステーキ屋さんに来たわけだが、お店はほぼ貸し切り。店主も施設関係者ということもあり、騒いでいても許してくれている。


「アーゼスかっこよくなったね、私彼女に立候補してもいいっ?」


 私よりも年上の子達が黄色い声でちょっかいを出しているのを横目にステーキへフォークを突き立てる。


「蓮夏、お行儀わるいわよ」


 雪先生は私の嫉妬に気づいてただろうな。今思えば恥ずかしい行動をしていた。


「灯君を思い出すわ、彼を見ていると」


 先生は嬉しそうに話しだした。本当は悲しい思い出のはずなのに。


「嫉妬してたな、私。あーやってモテたのよ、灯君。なんだけど、堅物というか、硬派というか、遊んだりしなかったもんな。そこがまた憎いのよねぇ」


 そりゃそうだ。灯さんは雪先生を好きだったに違いない。他の女性に手を出すわけがないだろう。私は幼くてあんまり記憶に無いが、雪先生の前だけカタコトになるのを見ていた。


「アーゼスはどうなんだろうね?」


「し、知らないよ」


 くすりと笑う先生。


「レイダーなんて危ない仕事、本当はやって欲しくないんだけどな。でも、誰かがやらなきゃいけないんだって・・・そして僕にはやれる力があるからって」


 アーゼスは灯さんに憧れてレイダーになった。少しずつ大人になっていったアーゼスは、みるみる体に筋肉が付いていったのを覚えている。私よりも何倍も太くて逞しい腕で大きな剣を携えながらウテルスへと潜りに行くのを見送っていた。


 彼が16歳になった時、すぐにウテルスへ潜るための資格を取りに行った。ウテルスへ入るには16歳以上であること、イディオの能力が解放されていることが条件となっている。調査協会によって初心者の受け入れがされているのだ。


 私とアーゼスは、生まれた時からイディオの力が解放されていた。つまり、第二世代。それもあって、アーゼスは昔から強かった。街の外に現れる弱いモンスターであれば討伐することができるほどだった。それこそ、灯さんと修行をするんだと街の外へ出たりしていた時に出くわしたのだ。私は小さかったこともあって、恐怖しか記憶に残っていないけれど。


「蓮夏」


 アーゼスの声だった。ひとしきり皆と話してきたようで、元々座っていた私の隣の席へと戻ってきたらしい。


「蓮夏は楽しんでるか?お前も好きだったもんな、ここのステーキ」


 楽しそうに笑う彼の顔がたまらなく好きだった。と、今なら素直に思える。


「うん、楽しいよ。皆も楽しそうだし、先生もほら、嬉しそうでしょ」


「ああ、俺も嬉しいよ。皆がこんな風に俺が来るのを楽しみに待っててくれたなんてさ」


「あっちの生活も楽しいからさ、蓮夏には早く見せてやりたいんだよ。ルーフェンって近くに鉱山があるだろ?」


「あの、モンスターが出るっていう?」


 ウテルス周辺では人が寄り付かないところにモンスターが住み着いてしまっている。生活圏というか、縄張りを広げていると言うほどの拡大速度ではないのだけど、そうやって色んな所にモンスターの目撃証言が出てきている。


「そう、モンスター退治もそうだし、鉱山での素材狩りもできてね、色んな経済が活発なんだよ。お前のその観察眼だってイユレンよりも活かすことができそうなのさ。それもあってな、連れてきたいなって」


 私はこのころから感覚器の強化をできていた。まさか自分がレイダーとしてこの能力を使っていくとは思ってもみなかったけど。


「鉱山って大きいの?」


「すっげーんだぜ!潜るのだって地下2.5キロメートルもあるんだぜ。そして、いざ地下について上を見上げると、おおっきな空洞になってるんだよ。天井まで1キロくらいあるんだって言ってたけど・・・天井がすんごい遠くなんだよ」


「何それ、わくわくするね」


 私はそういう男の子の様な好奇心を持ち合わせている。この時とても胸が躍ったのを覚えている。


 その後アーゼスと皆の食事会は遅くまで続いた。


 次の日、朝早くから私の部屋のベルが鳴った。


「よし、蓮夏、準備できたか―?」


「うん、今行くよー」


 ばっちりおめかしして、と言っても今日はルーフェンまで歩くから動きやすい恰好の中でも、だけど・・・私は元気に扉を開けた。

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