11話 シン能力の開発 その4
日常。こんな、人が死ぬのでさえ、日常だ。次は自分の番かと心が締め付けられる。寝る時に、今日も生きられたことに感謝する。それがレイダーの運命だ。
「弥生、行くか」
レオさんは運転士に声をかける。
「あぁ、分かったよ。でもその前に、ありがとう。組織を代表して礼を言うよ。今回の代金も要らねえよ、さすがに貰えねえ」
「いや、当たり前のことをしたまでさ。代金は払うよ」
弥生さんが深く頭を下げたままだった。それに見かねたレオさんは、分かったと代金の支払いを諦める。
車両に乗り込んだ私達は凸凹の道路を進みだした。
「先の女性、これから大丈夫ですかね」
あの場で簡易な弔いを行った。3人が死亡。泣き続けたあの女性はどんな思いでその場にいたのだろうか。酷く辛い。
想像もしたくない。私が同じ立場なら・・・ユウナさんもレオさんも、間違いなく私を助けるだろう。身を挺しても。
強くなろう、そう新たに決意する。
「もう復帰はしないだろう。ウテルスばかりが生きる道じゃないさ」
「私もそう思うよ。仲間の思いを背負ってウテルスで生きようと彼女はするかもしれないケド。むしろ、生きて欲しいから助けたんだよ、皆。自分の命を賭して守るなんて、生半可な想いじゃない」
「そう、ですね。あの人、大丈夫かな」
思い詰めてしまいそうな彼女を放っておいていいのかと迷う。
「大丈夫だよ、医療機関はメンタルケアも兼ねているからね」
「そーだよ、大丈夫。結構手厚くて数ヶ月は面倒見てくれるし、ご飯は美味しいし、何でも言うこと聞いてくれるし」
「おい、お前は何やってたんだよ」
ペロと舌を出すレオさんはケタケタと笑い出した。それにつられてユウナさんも笑う。
二人も世話になったの、だろうか。でも触れられなかった。楽しそうな二人に水を刺せなかった。
「んま、大丈夫。世の中は意外と上手く成り立ってるよ、だから自分のことを考えよう」
「そういえば」
ユウナさんはポンと手をたたいた。
「どうしましたか?」
「さっきのクマ」
「あ、そうでした!忘れるところでした!」
私は自分のバッグを開けて、四角の小箱を取り出した。
「あぁ、それだ。すごいものなのか?確かに珍しいなって思ったけど」
蓋を開けるとそこにはこぶし大の一本の爪が入っている。先のクマの戦利品。普通なら素材として売ってしまうものだが、この爪は硬度、というより密度が全く普通と違う。
「私もあの爪自体は市場で見かけるのですが、これはちょっと異質ですね。密度が違うんですが、何か筋力強化と同じ様な要領で能力強化しているのかもしれません。知り合いに見てもらおうかとおもいまして。あ、お金は払いますからっ!」
「金なんかいいよ」
笑って返してくれるユウナさん。
「それより、何か新しい発見があったなら教えてくれよ」
「はいっ」
掃除屋を目指したのは目利きが出来たから、というわけでは無い。もちろん、記憶のある時から目利きが出来たことは影響しているだろうけど。
私には血を分け合って家族がいない。産みの親は知らない。捨てられる形で私はあの施設に預けられた。それからは先生がママだった。記憶も施設生活からしか無い。
五年前、ウテルスのモンスターが溢れ出す月涙【メナルク】が発生した。辺境の地が幾つも破壊された。
当時慕っていた、兄のような存在が居た。アーゼスという名の彼はその年施設を退去して、地方活性の活動として、別の辺境街へと移り住んだ。
彼がイユレンを離れることの寂しさはとても大きかった。彼が離れて2ヶ月したころにイユレンへと帰省してきたのだった。
そしてその時に、遊びにきたらどうか?良ければ迎えに行く、と。私は二つ返事で行くことを告げる。
そしてそのまま、それが彼との最後の旅になったのだ。あの時私が、自分のこの目利きに自信を持っていれば助けることができたかもしれない。




