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10話 シン能力の開発 その3

 緊張が走る。これがウテルスだ。私は心臓を握られたような感覚を覚える。レオさんもユウナさんは、こういうのを何度も経験しているのだろうか。表情は緊張に満ちているが、でもどことなく堂々としている。そんな彼らがいるから、私は安心していられる。


「どれくらい?」


 唐突にレオさんが口を開く。


「彼女は200くらい、傷から見ても敵は400かな・・・仲間が強い可能性もあるか、500程度かな」


 ユウナさんは私と同じ能力とは思えないほどの観察眼を持っている。感覚強化能力者。彼は普通じゃない。そもそも、こんな風に人のライセンスレベルを見ただけで判断出来るもの何かじゃない。何でも有りな能力じゃないのだ。


「おけー。私もそんなところかな。感覚でしかないけどね」


「それで十分だ」


 その掛け合いを見ているだけで分かる、二人の信頼関係が普通じゃないことも。


「先に行った人らはどれくらいのレベルで?」


 ユウナさんは珍しく低い声で質問した。先程説明してくれた男性が答える。


「420って言ってた4人組が行ってくれたんだ。少し心配だが、こうなったら任せるしかねえ」


「ユウナ」


「ああ、行こう、危険だ」


「お、おい、兄ちゃんら行くつもりか?死んだやつはライセンス400超えてたって話だ。危ねえぞ」


「あぁ、承知してるさ。でも行かなきゃ人が死ぬ」


 レオさんが落ち着いた声を響かせた。彼女の素性を知る私からすれば、それは何よりも安心させてくれる言葉だった。


「蓮夏、走るよ?ついてこれる?同じ要領で走るだけだから」


 こう言う時のレオさんは、私にはできると認めているからだ。彼女はそういう人だ。


「はい、大丈夫です」


「お、おいお前ら大丈夫なのか?」


「はい、私達、強いので」


 笑顔で答えてみせる。私の力では無いのだけど。それよりも急ぐべきだ。


 と、思った瞬間、レオさんもユウナさんも走り出した。まるで消えた様に。急ぎ、見様見真似で地面を蹴った。


「感じる?」


 赤い髪を風に揺らしながら尋ねる。


 そんなことよりも、私には彼らに追いつくだけで手一杯だった。正直愕然とした。むしろついていけない。足が千切れそうだった。前から来る木々の枝が私を容赦なく襲う。体が傷を負っていく。


「蓮夏、ごめんな。でも待ってられない。死ぬ気で付いてこい」


 ユウナさんの強い言葉は初めて聞いた。色気をまとう声に少し胸が跳ねたが、いまはそれどころではない。


「はいっ」


 これがライセンス250の力の訳がない。レオさんが彼に一目置いているのが良く分かる。そうなのだろうと勿論、納得していたが、今目の前でその能力を叩きつけるように見せられている。


「見えた、2キロ先。モンスターは500級かな。さっきの彼女と一緒にいた人らが強かったんだと思う」


 見えた、の意味もよく分からない。私には見えないし聞こえない。この距離でモンスターの強ささえも見定められるというのか。


「あと1キロ、偵察組と会敵中、全員存命、負傷あり」


「蓮夏、悪いけど負傷者二人を戦線から離脱させてあげて。あとは任せろ」


 ユウナさんの的確な指示。私はコクンと首をふるだけで精一杯だった。


「では、お先にー」


 レオさんはそう言うと、眩しい光を放って地面を蹴った。一瞬で見えなくなる。


「蓮夏は手を出すな、敵は強い。レオがいるから安全ではあるけど、近づいちゃだめだよ」


 そう言うと、彼は短刀を抜いた。


 遠くでモンスターが見える。5メートルはあるだろうか、巨大な獣だ。クマのような大きな体で、大きな爪を振り回している。その巨体の周りを白い玉が舞っている。レオさんのビットだ。手前で倒れる二人が見えた。


「頼むね」


 そうユウナさんは言うと、レオさんと同じ様に閃光を引いてモンスターへと飛び込んでいく。


 彼の短刀が振り下ろされた爪を弾く。爪の先には先に来ていた人が居た。間一髪で受け止める。いや、彼には、彼らにはそれも見えていたのかもしれない。


 何度か打ち合うと火花が散った。クマは大きな体に反して反応速度が高い。ビットと短刀の攻撃をいなし続けている。


 私は負傷者のもとにたどり着き、背負って離れた。


「大丈夫ですか?」


 一人は返事をするが、もう一人はぐったりとしている。お腹に深く傷を負っていた。


「そっちのやつを、先に手当してあげ、てくれ」


「はい、やれるだけやってみます」


 数百メートルは離れただろうか、そこで二人を地面に下ろす。私は有り物の知識で止血を試みた。傷が深い。腹に深く爪が刺さったのだろう。血が止まらない。


 ひゅーひゅーと、息苦しいそうな呼吸が響く。どうすればいいのか分からない。傷口は広く深く、赤い血がドパドパと溢れる。


「たのむ、たす、けて、やってくれ」


 もう一人も右腕を失っていた。切断されたのだろう。その切断面がギュッと絞られている。筋肉で締めたであろうそれを見て、ハッとした。


 腹の傷口を手で触れる。掌に集中し、熱を生み出すイメージを描く。手を光が纏い始めた。バチバチと音が鳴る。傷口の筋組織を分析する。私の筋力強化が相手の剥き出された筋組織へと干渉出来そうな場所を探す。


 一気に力を込めると電撃が走る音がひびいた。


 その瞬間、傷口付近の筋肉がギュッと縮む。


「と、止まった」


 血が止まった。傷口が不格好だが萎んでいる。応急処置でしかないが、まずはこれでなんとかなるだろう。


「止まった、か。あ・・・あり、がとう。ねーちゃん」


「あなたは、大丈夫ですか?」


「あ、あ。腕は・・・失っちまったけど。まだ生きて、る。クソ、こんな・・・」


「あの、あなたの勇気のおかげで、他の死者が出なかったのです。称賛に値します」


「そう、なんかな。へへ、ありが、とう、よ」


「もう大丈夫です。あの人達が、何とかしてくれます」


 気絶していた人の呼吸も落ち着いてきた。傷口も締まっている。ユウナさんらへと視線を向けた。


 四つのビットから発せられる光がクマを拘束している。そこへ、短刀を持った青年が一閃の光りを放って突き抜けていった。


 クマの四肢が吹き飛ばされる。胴体だけとなったモンスターは、ずしゃりと地面へと叩きつけられた。


「おわり、ましたね」


 私は片腕の男性に声をかける。


「あ、ああ。すごいな。なんだよ、あいつら」


 安堵。


「助かった、よ。あり、がとう」


 こちらに向かってくる、二人。


「蓮夏、ありがとう。いい応急処置だ。咄嗟によく出来たな」


 ユウナさんは私の頭を、ポンポンとなでた。緊張の糸が切れる。


「おい、ユウナ」


 レオさんは怒っているみたいだ。こんな状況でも、いつも通りな二人の雰囲気に、クスリと笑ってしまう。


「あはは」


「なんだよ、何がおかしい」


 レオさんは私の額をこついた。


「だって、こんななのに、圧倒的に強くて、ヒーローみたいです」


 胸を張るレオさん。


「ハッハッハ!そりゃまあ、私は勇者だからなっ」


 その横でけが人の手当をしているユウナさんは、レオさんのことを少しも気にしていなかった。


 手がまだ少し震えている。

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