語らい
部活の練習が終わり、皆帰り支度をする。ほとんど毎日のように健吾、美桜、愛衣と帰っている。短距離の名波と中長距離の3人とは話す機会は学校の休み時間かこの帰路がほとんどを占める。
「支部大会まであとちょっとだな。」健吾が切り出す。
「健吾、もう3日連続だよ。緊張してる?」美桜が笑いながら言う。
「あれ、そうだっけ?昨日言ったのは覚えてるけど。」健吾は健吾でマイペースなのか、緊張なのか。2人の会話を聞きながら愛衣が笑っている。
「でもホントあとちょっとだよね。私登り調子だから楽しみだよ。」
短距離の練習の休憩中、中長距離の面々の走っている順位を見たりタイムを聞いたりするが、今や都立旭ヶ丘高校の中長距離の女子のエースは愛衣かもしれない。
「愛衣は支部大会は大丈夫だろ。健吾も実力出し切れば支部大会は問題ないだろ。」名波個人の見解だが。
「ねぇ、ちょっと私は?」美桜が少し含み笑いで聞いてくる。
「予選は問題ないと思うよ。問題は決勝だよな。800の決勝でも中村先輩と愛衣は上位に入ると思う。都大会進出の枠は6枠なことを考えると、残り4枠の争いだ。なかなかタフかもしれないよ。」
「はぁ、なんでこう大丈夫だよとか言ってくれないかなぁ。タフなレースになるなんてわかってるよ。」美桜が返す。
「でも今大会は美桜は800に絞って練習したんだろ?ならその分有利だよ。身体にペースが染み付いてるだろうから。」
「まぁねぇ、3000出るの辞めて800に絞ったからには結果出したいよ。本当は1500も出たかったけど。」
「大丈夫だよ!美桜は800強いもん。支部大会突破しよっ!」
「愛衣〜。頑張ろうね。愛衣は1500もあるから大変かもしれないけど。わかった?こういうのだよ、友。健吾も黙ってない!」
「それ女子のノリじゃ。それを俺と健吾にやれと?」
「友、任せた。俺には難しい。」
「逃げるな、そこ。」
「友も健吾もちゃんと聞いてる?応援が大事なのはわかってるでしょ?」
「「、、、はい。」」名波と健吾が同時に返事をする。気丈に振る舞っているけど、美桜は割と気が滅入っているのかもしれない。
親友と呼べる4人の中で自分だけ少し遅れをとっていると感じてしまっているのかもしれない。
「4人全員で支部大会突破して祝勝会やろうぜ!都大会に弾みがつくようにさ。」
「いいね!それ。やろうよ、支部大会突破の祝勝会。」健吾が食いついて来た。
「うん、やろう!ねっ、美桜。」
「うん、やりたい。祝勝会。」
やっぱり4人全員で喜びたい。全員でお互いを称えたい。
「支部大会までの残りの時間はコンディショニングに専念するのがいいかもな。実力者でも当日ベストを出すのは相当難しいからな。」
「そうだね、当日にベストを出しさえすれば、、、。」美桜が真剣な顔で言う。
「コンディショニングかぁ、まだ苦手なんだよなぁ。友、アドバイスない?」
健吾は中学から少し波のある選手だ。トップ選手でも簡単じゃないコンディショニング。それも人それぞれだ。なんて言うのがいいか名波は少し悩んだ。
「そうだなぁ、とりあえず良いイメージを持つこと、悪いイメージは持たないこと。自己管理はしっかりすること、かな。」
「自信だよ!絶対!」愛衣が言う。
「自分ならやれる。自分なら大丈夫って思おう!」確かにその通りだ。マインドってやつだ。
「美桜も健吾も友も大丈夫!自信持って本番に挑もう!」
こう言う時はいつも愛衣が頼りになる。支部大会が近づくにつれて、頭の中が走ることで満たされていくのがわかる。少しの不安と緊張とたくさんの楽しみがブレンドされたような頭の中。
「とりあえず明日も健吾が支部大会まであとちょっとだなって言うかで賭けない?」
「流石に俺でも3日連続では言わないと思う。」
「言うと思う。」
「言うと思う。というか今日ですでに3日連続だったからね?」美桜が正す。
「一昨日言ったっけなぁ。覚えてないんだよ。」
「大丈夫?健吾って天然だったっけ?」
愛衣が心配する。名波と美桜は思わず笑ってしまった。
「愛衣、ちょっと本気で心配してない?」
「良かったな、健吾。愛衣が優しくって。」
「俺は天然じゃないよ。付き合い長いから分かるだろ。」
「天然な人って決まってそう言うよね。自分は天然じゃないって。」
イタズラっぽく言う美桜。
「天然でも天然じゃなくても健吾は健吾だよ!自信持って!」
愛衣の言葉に健吾は参ったといった感じで
「何に自信持てば良いんだよ!?」
笑いながら過ごす時間。練習の疲れを忘れられる時間。この4人でいる時は本当に楽しい。祝勝会、本当にやりたいと思う名波は笑いながら支部大会当日を思う。