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〜Runner〜  作者: 黒茶
3/20

昂ぶり

 授業も終わり放課後が始まる。支部大会までの残りわずかな大切な時間だ。部員が集まりミーティングを済まし、アップを始める。

 アップ1つで気持ちが入っているのが良くわかる。アップが終わり短距離陣と中長距離陣に分かれて練習が始まる。

 今日の短距離の練習メニューの大部分は4×100メートルのリレーのバトンパスだ。個人の力量も大事だが、バトンパスでいかにタイムをロスしないかがリレーでは鍵になる。


 名波は4走、アンカーだ。1走に3年の野村(のむら) 勇気(ゆうき)、2走に足立翔(以降「翔」)、3走に3年部長の甲斐(かい) 亮介(りょうすけ)という布陣。走順の決め方は単純明快。コーナリングが得意な3年生を1走、3走に配置し、ほぼストレートなコースを走る2走、4走に2年生を配置する。


 4×100メートルリレーの目標は南関東大会出場。昨年は届かなかった目標だ。都大会で6位以内に入らないといけない。勿論まずは支部大会で6位以内に入らないとだが。

 部長の甲斐は昨年の新人戦の男子100メートルで関東大会出場をしている実力者だ。3年の野村も関東大会は逃したが、部内の出場枠を得て昨年の新人戦に出ている。さらに冬場を超えて急成長した翔。不可能な目標ではない。丁寧にバトンの受け渡しを確認する。


 名波達がやるバトンパスはアンダーハンドバトンパス。より加速した状態でバトンを受け渡す。いかにタイムロスをしないか、加速した状態でパスできるかが勝負。

 何度も何度も確認をする。最後の大会になりかねない3年生が気合十分なのはよく分かる。しかしそれと引けを取らないくらい気合が入っている翔がいる。休憩に入り名波が翔に話しかける。


「翔、えらく気合入ってるな。」


翔は目をギラギラさせて答えた。


「当たり前だよ。リレーのメンバーに入れて、個人でも100メートルに出れて。去年の悔しさをここで晴らすんだ。」


 翔は一年生大会には出れたものの、新人戦には出場枠を勝ち取れずスタンドにいた。

それが今では出場枠を勝ち取り、試合に出れる。無理もないだろう。


「冬季練習の成果が出てるんだろうな。本当翔の成長っぷりにはビックリしたよ。」名波の言葉に翔は返す。


「そんなこと言ってていいの?俺は友にも勝つつもりだよ?」翔は自身の成長を自覚できたからか、かなり強気だ。


「俺も負ける気はないよ。でも強いライバルがいるのは練習環境としては凄いいいことだろ?だから正直嬉しいんだよ。」

 名波からしたら全国へ、そして入賞、表彰台と目標がある。環境が良くなるのは有り難い限りだ。


「ははは、全国経験者にそう言ってもらえて俺も嬉しいし自信になるよ。今は早くレースがしたいんだ!」笑いながらも気合十分なのが伝わる翔の言葉。


「わかるよ、その気持ち。状態がいい時は早くレースしたいもんな。どこまで自分が通用するか知りたいというか、自分が今どれだけやれるか実践で確かめたくなる気持ち。」


「本当そう!今の俺はどれだけやれるか、どこまでいけるか知りたくってさぁ!」


こういう時の精神状態は経験上凄くいいのがわかる。自信に満ちているからはやる気持ちを抑える必要もない。ただただレースに集中できる精神状態だろう。


「頼もしいよ、翔。個人でもリレーでもベスト尽くして行けるとこまで突っ走ろう!」


「当然だろ!このメンバーで行けるとこまで行くんだ。先輩の脚引っ張るなんて絶対しない。むしろ俺ら2年が引っ張る気持ちでいかなきゃ!」


 本当に頼もしい。翔や先輩の気合が影響してか、練習も活気に溢れている。


「油断や慢心だけはするなよ!ストレッチサボったり、ちょっと暑いからって窓開けて寝たり。自己管理はしっかりな。」


「挑戦者の俺に油断や慢心はないね。練習もサボらない。そうやってきたから今があるんだ。」

相当に自信があるのだろう。言葉に力がある気がする。努力は実って欲しい。自分だけじゃなくチームメートの翔にも。


 休憩時間も終わり、またバトンパスの練習を再開する。前を走る高倉部長からのバトンを名波がゴールへと届けるんだ。細かい調整や、最近の調子などを話し合いながら練習を続けていく。

 個人競技でありながら、チームとして戦うリレーという種目を好きな人は沢山いるだろう。名波もその1人だ。チームとして戦い、チームとして勝つ。

 自分1人では味わえない歓喜を、最高の瞬間を。黙々とバトンパスの練習をしながら名波は思い描いていた。目標を達成する瞬間を。チームメートと抱き合うそんな光景を。

 今まで以上に自然と気持ちが入って来た。支部大会まで後少し。


 甲斐部長と野村先輩に話しかける名波。


「先輩!俺絶対バトンをゴールに届けます。前の3人が繋いでくれたバトンを誰にも抜かれずにゴールに届けます!」


聞いていた甲斐と野村は笑いながら答えてくれた。


「友も翔も頼もしいよ、ホント。どっちが3年か分からないくらい気持ち入ってるな。」甲斐部長が名波の胸に拳を当てながら言う。野村先輩も続けて言う。


「信じてるよ、友も翔も。俺たち3年2人が繋いだバトン、ちゃんとゴールまで運んでくれるって。」


 3年間なんてあっという間なんだって思うのには充分だ。もう先輩たちとこの学校の生徒として一緒に走れる時間はわずかなんだ。全力を尽くして、結果を残して少しでも長く先輩達との時間を。このチームで走れる機会を。手を強く握り空を仰ぐ。

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