競争と現実
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「友、何やってんの?」矢島美桜が名波友に話しかける。朝練の時間、名波は名波で仰向けのまま曇り空を見ていた。今日は少し天気が悪い。降水確率は低いが風が強いという予報だ。
「美桜か。何やってるも何も、何もやってないよ。というか、愛衣は?珍しいな2人一緒じゃないなんて。」
矢島美桜(以降 美桜)と橘愛衣(以降 愛衣)は大の親友だ。基本的に常に一緒にいる。
「愛衣は陸部の提出書類出すから先に行っててって。私も行くって言ったんだけど、時間かかるかもしれないからって。」
本当に仲がいい。これでクラスが違ったりしたらまた違った関係になったりするのかもしれないけど、中学から5年連続で同じクラスだから凄いもんだ。
名波はのっそり上半身を起こし足を伸ばしてリラックスしている。
「愛衣には感謝しているよ。2年から2人役職就かなきゃいけないからな。俺も健吾もそういうの向かないし。」
部長は3年が就くのが基本だが、引退も近くなってくる3年生以外からも役職に就くのがこの部の伝統だ。副部長と書記は2、3年から1人ずつ選出される。
ちなみに2年の書記は足立 翔がやっている。専門は名波と同じ短距離だ。
「私も役職とか向いてないって、合唱祭とかで味わったから愛衣には感謝してるよ。でもできることなら手伝って負担減らしてあげたいんだけどね。」
(そういや中学の時、合唱祭のことで愚痴ってたことあったっけ。パートリーダーやらされてどうたらこうたらって。)
「愛衣もそう気遣ってくれてるだけでも嬉しいと思うよ。というかいざとなったら本当に手伝うだろうしな、愛衣のことなら美桜は。」
そう言いながら立ち上がり、砂を叩いて落とす。当たり前だがジャージが少し汚れた。
「まぁ、それはね。」風が少し強くなって、美桜は髪を抑えながら答える。
「この部、もっと良くなっていくかな。」朝練に2人しか来てないからか美桜が言う。
「大丈夫だよ、きっと。新入部員も真面目な子多そうだし。俺ら2年がしっかりやってけば。学年問わずコミュニケーションとれてるしね。」
3学年で60人程いる陸上部。中学は部員がもう少し少なかった。そう考えると確かに少し不安もある。
「楽しい部活であって欲しいけど、結果、出したいよね。」
名波を真剣な眼差しで見ながら美桜が言う。わかってる。出してやる。
「美桜の目標は南関東大会出場だっけ?きついレースになるかもしれないけど、どうにか南関東出たいよな。その後の新人戦も関東出れたらいいよな。」
やっぱりまだ2年だ。3年の強さはよく分かっている。ストレッチを始める2人。
「うん、まずは部内で3枠の出場枠取れるかだもんね。とれたら次は支部大会。そこで勝って都大会。南関東に出るには決勝までは最低限残らなきゃだからね。6位以内が条件だもの。諦めてるわけじゃないけど、やっぱり厳しいよ。3年は死に物狂いで来るだろうし。だからこそなんとか愛衣に喰らい付いていきたいよ。」
2人は高校入学直後はほぼ互角だったけど、冬を超えて愛衣は急成長した。もしかしたら焦りもあるのかもしれない。
「友はどう?最近伸びてるみたいだけど。南関東はもちろん全国が目標でしょ?」
そうなんだ。去年は部内の出場枠を勝ち取り支部大会に出場し突破。都大会では準決勝敗退だった。一年生大会ではファイナルまで残れた。新人戦ではギリギリ入賞して関東大会まで残ることができた。でも、甘くなかった。関東新人大会では予選敗退。強いの一言しか出てこなかった。
「うん、まぁ悪くはないよ。でもやっぱり去年の関東大会が頭から離れないんだ。力負けもいいとこだったからね。」
強がるつもりはない。本音しか出せない。美桜の前だからと言うわけではなく、それほど圧倒的だったからだ。
「でも楽しみもあるよ。4×100メートルリレー。翔が一冬ですごい伸びたし、先輩たちも気合い十分だし。今は凄い楽しみなんだ。」
女子では愛衣が急成長したように、男子では
足立翔が格段にレベルが上がった。おかげで男子短距離は部内で競争が激しい。チームメートでありライバルという理想的な状態だ。
「もう支部大会もすぐだし、コンディション整えないとだよね。刺激しあって高め合って、どうしても意識しちゃうけど今は自分に集中しないと。」
そう。支部大会はもうすぐそこまで迫っている。女子の中長距離は副部長でもある3年の中村 心先輩を筆頭に、これまた3年の松本 由依先輩、急成長した愛衣、美桜、後輩の1年の水口 撫子との競争が激しい。
とは言っても今大会は松本先輩と一年の水口 撫子は1500と3000で勝負する。1500は中村先輩、松本先輩、愛衣で決まった。美桜と甲斐撫子は1500で勝てなかった。
愛衣が800と1500の枠を勝ち取ったのに対して、美桜は1500で枠を勝ち取れなかった。悔しさもあるだろう。昨年度は思った結果を出せなかっただけに。
美桜も愛衣も昨年は支部大会に出れなかった。部内の競争に勝てなかった。3年生が関係ない1年生大会。
出場枠を勝ち取り上位進出を果たせた。だが思った以上に周りの選手も強かった。
課題を胸に熱い熱い夏の合宿を経て、新人戦が始まる。1年生大会とは違って2年も出場する。力の差を見せつけられた格好だった。
葉山健吾(以降「健吾」)も似た形だった。一年生大会では善戦し、新人戦では決勝まで残ったものの上位に食い込めず関東大会への出場は叶わなかった。
違うのは部内の1500メートルの出場枠を勝ち取り、支部大会を突破して都大会に出たことだ。だが、都大会では惨敗し南関東大会への出場は叶わなかった。
「そうだね。ベストコンディションで挑まないと。支部を突破して都大会に。都大会で結果残して南関東に。そこでベストを出し切って全国への切符手に入れたいよ。」
互いにストレッチをしながら会話をしていたら朝練の時間も終わりに近づいていた。