魔法生物の共同生活〜助け合いはこうして生まれた〜
筆者のひねくれた部分を煮詰めたらこうなりました。
昔々、とある処刑場に不思議な植物がいました。
その名もマンドレイク。
無実なのに絞首刑に処された男性が垂れ流したモノから生まれるなんて、ブラック・ジョークみたいな存在ですよね。
お家=土の中で健やかに育っていたある日のこと、急に茎に強い力がかかりました。
驚いて目(?)を土から覗かせると、茎には紐がくくられ、その先にいる犬が引っ張っているではありませんか。
離れたところで人間が犬を呼んでいます。
確かに抜かれるときの叫び声は命を脅かす程とはいえ、懐いた犬を身代わりにするとは、奴らには人の心がないのでしょうか。
そもそも断りもなく引っこ抜こうとされては黙っていられません。
頑張って抵抗していましたが、ついに全身があらわになってしまいました。
マンドレイクは怒りを込めて叫びます。
「KyaaaaaaA!Kono HENTAI!!!」
マンドレイクは全裸なのでこの批難は妥当でしょう。
刑場に通常の三倍以上の悲鳴が響き渡ります。
犬も人間も倒れてしまいました。ピクリともしません。
ただの屍のようです。
これでは討伐隊がきてしまうかもしれません。
―――もうここにはいられない………。
悟ったマンドレイクは人の形に似ていると言われる根っこを器用に動かし、てくてく歩き出しました。
てくてく
てっくてっく
テクテテテタタタタタダダダダダダッシュッ!
…意外に足(?)が早いようです。砂煙を上げながらあっという間に荒野へと消えていきました。
*
荒野に着いたマンドレイクは、足は早かったものの持久力がありませんでした。
岩の影で休んでいるとモシャモシャ頭上から音がします。
何者かに葉っぱを食べられているようです。
いくらロゼット状の葉の形が人参に似ていて、匂いはコンソメポテチ風で美味しそうとはいえあんまりです。
カッと目を見開き叫びます。
「YASAI DOROBO―――!!!」
野菜ドロ、いえ、葉っぱを持ち主に無断で食べていたのは、額から一本の黒い角が生えた白馬でした。
この馬、ビックリして飛び退いたものの気合と根性で立っています。
マンドレイクは聞きました。
「どちら様?」
馬は答えました。
「ユニコーンですけど」
なんと魔法動物界の有名人ユニコーンだというではありませんか。
何故、他植物の葉っぱを食べたのか問いただします。
「ここは荒野で食べ物に乏しいのです。良ければ共生しませんか?」
「共生ッスか?」
「我々を付け狙ってくる人間とは私が戦い、貴方は私の食糧となる。ウィンウィンってやつです」
自分で自分の身を護るのには限界があるので、良い提案に聞こえます。
「そんなにお強いんスか」
ユニコーンは得意げに返します。
「象も一突きで倒せます」
「それは凄いッス」
「ただし弱点があります。それは純潔の乙女です。膝枕をされるとうっとりしてしまいます」
「………」
マンドレイクは意を決して言いました。
「それただのショジョチュ……スケベオヤジじゃないっスか」
ユニコーンは言いました。
「むさいオッサンより無垢な少女のほうがいいに決まってます」
マンドレイクはユニコーンの曇りなき眼に何も言い返せませんでした。
「自分、媚薬と不老不死と強力な幻覚作用があるんスけど」
「自力で解毒できます」
「なら大丈夫ッスね」
こうして(人間に)引っこ抜かれて、(ユニコーンが)戦って、(ユニコーンに)食べられる生活が始まりました。
一本と一頭はつつがなく日々を過ごしました。
マンドレイクはユニコーンに葉っぱを食べられ、ユニコーンは人間と象と獅子を突き刺します。
特に獅子には容赦しません。相手に戦意がなくても倒しに行きます。
二人の間に何があったというのでしょう。
ユニコーン唯一の弱点も問題なくなりました。
汚れなき美少女の誘惑はマンドレイクの叫びで正気づかせ、協力して人間をやっつけます。
近所が死屍累々になりました。つまり人間達に住所が知れ渡ったということです。
個人情報保護法違反ですね。断固抗議すべき案件です。
でも面倒なので、マンドレイクは移住することを提案しました。
問題は足の速さと持久力に差があることです。直球で騎乗してもいいか尋ねました。
ユニコーンの返事は変化球でした。
「人に背中に乗られるのも鬣触られるのも嫌いなんで」
―――聖獣のくせに嫌いなもの多すぎだろ。
マンドレイクはそう思いましたが、指摘しませんでした。大人の対応ってやつです。代わりにこう主張します。
「自分、人間じゃ無いッス」
「それもそうですね。それならイける気がします」
ちょろ…納得したユニコーンはマンドレイクを背に乗せて駆け出します。
*
想像してください。
鬣にマンドレイクを絡ませたユニコーンが疾走しているところを。
誰だって気になります。案の定、しばらくすると声をかけられました。
「ねぇ、そこのお方。どうしたの?」
それは額に大きなダイヤモンドが嵌っている、コウモリに似た翼を持つ蛇のような生き物でした。
かくかくしかじか。
マンドレイクは振動で鬣に絡まった細い根っこを慎重に外しながら自分達のことを説明します。
「貴女は?」
「仏蘭西出身のドラゴン、ヴィーヴルよ。実は私も困っているの」
この水場はヴィーヴルの縄張りだそうです。
ヴィーヴルも水を飲まねば生きていけませんが、その時、ダイヤモンドの目を外すそうです。
この目、手に入れると富を得られるとかで人間が盗もうとするのだとか。
他者の所有物を盗ろうとするなんて、ふてぇ野郎どもです。
「しかも最近は胃袋の容量を計算されてしまったらしく、食べれる量より多くの干し草を用意しているの」
目を盗ったあと、その干し草に隠れるつもりなのです。先に干し草を食べてしまうと、満腹になったヴィーヴルは人間までは食べられない、という作戦ですね。
なんて小賢しいのでしょう。
「私が水を飲んでいるときに見張っていてほしいの。その代わり縄張りにいていいから」
別にそのくらい構わないけど、と思いながらも疑問が一つ。
マンドレイクは尋ねます。
「額の目を外さなければ良いんじゃねッスか」
「それは出来ないの。何故かしら?」
正直聞かれても困ります。
ダイヤモンドの目だと、水面を反射する光が眩しすぎるのでしょうか。
マンドレイクは処世術、一ノ技・非常に曖昧な微笑を発動しました。
愛想笑いより汎用性が高いのでマスターしておきたいですね。ただし、どちらも多用は禁物です。
実は群れるのも嫌いだというユニコーンですが、マンドレイクは食糧になるし、そもそも植物だし、ヴィーヴルは雌なので平気みたいです。本当に我儘ですね。
そうして植物と馬とヘビ型ドラゴンの生活が始まりました。
ヴィーヴルが水を飲む間、マンドレイクとユニコーンが見張りに立ちます。
やってきた人間はユニコーンとヴィーヴルが追い払ったり、突き刺したり、噛み付いたりふっ飛ばしたり溺れさせたりします。人間へのダメージは絶大だ!攻撃力が上がりました。
美少女の罠は、紅一点のヴィーヴルが撃退します。
マンドレイクの叫びだと味方にもダメージあるので、ね?
そんなマンドレイクはユニコーンとヴィーヴルの非常食です。
ヴィーヴルが食べるときはユニコーンが浄化するので問題無し。
そうこうしているうちに、空を飛べるヴィーヴルがおそろいの服を着た団体を見付けました。
ここは小学校の遠足には向かない土地です。誰でしょう。
一番小さなマンドレイクが偵察に出ました。やっとまともな出番です。当然、張り切ります。
大丈夫。大事なところは生い茂った葉っぱで隠しています。公然わいせつの罪に問われることはありません。
夜中にコソッとその人間達の野営地へ近付くと、焚き火を囲んだ見張り当番二人がお喋りしています。
どうやらこの人達は、最近この辺で暴れている魔獣の討伐任務を受けた聖女のための偵察部隊のようです。
―――大変だ!こんな近所にそんな危ない魔獣が居るなんて知らなかった!
マンドレイクは縄張りが被っていることに焦りましたが、よくよく続きを聞くと、どうやら自分たちのことのようです。
―――そんなに暴れたっけ?自分ちと自分の身を守ってるだけだけど。
生え替わりで抜けた葉っぱと皮を弄りながら、不思議に思いましたが、流石に聖女が相手では分が悪そうです。
のんびりしてられないっ!と、抜けた葉っぱとかを証拠隠滅のために焚き火に放り込み、スタコラサッサと立ち去りました。
マンドレイクは部位によって薬効が違います。焚き火にくべたのは媚薬と幻覚作用がある部位でした。何だかイヤな予感がしますね。
偵察部隊は寝ている間にとってもイイ夢を見たみたいです。そう、二度と目覚めたくないくらいとっっっても。
帰宅したマンドレイクは早速報告します。
「聖女?会ってみたいですねぇ!」
「そんな、推してるアイドルが地元に来るみたいな反応されても……」
はしゃぐユニコーン、困惑するマンドレイク。
ヴィーヴルが口を開きます。
「多分、聖女の目的は貴方自身じゃなくて、貴方の角よ」
辛い現実でも教えてあげなければなりません。マンドレイクは、しょげたユニコーンを励まし、安息の地を探しに行こうと誘います。
そうすればいつかきっと素敵な娘さんにも出会えることでしょう。
愛と勇気を胸に秘めて、マンドレイク一行の冒険が始まったのでした。
最後までお付き合いくださった方、いらっしゃいましたら有難うございます。
最初、童話ジャンルに投稿するつもりだったので、このような書き方になりました。
一応、言い訳させてください。筆者はユニコーン大好きです(汗)