第一話
…なんだろう。身体がふわふわ浮いている感覚がする。ふわふわと浮きながらどこかを漂っているような。
少し目を開けてみたら、広がる景色は青い空。
横を向いて見れば、下に一面の緑が見えた。
…私、今浮いてる?…
普通なら有り得ないことなのだけど、驚きというものは一切なかった。というのも、まるで寝てるような起きてるような、思考はふわふわしていて今も、浮いているなぁ、景色が綺麗だなぁ、と夢を見ている感覚である。
それゆえなのか、身体が動こうとしない。いや、正確には少しは動く。しかし、大きく動くということはない。微睡んでいる時の寝返りの様な、上を向いている身体を下に向けることはできるが手足は動かない。
暫くして、私はこの状況を夢だと考えた。夢にしては身体に感じる感覚ははっきりしているのだが。
先ほどから身体が何かに包まれている様に暖かく心地よい。お風呂に入っているようなポカポカしたものが染み渡っていくような感覚。けれど、それが何なのかは分からない。
分からない。けれど、心地良いからいいかなと思う。そんな適当な考えで漂っていたら朝が来て夜になってと時間がどんどん進んでいく。
10回目の朝日を見る頃に私は途轍もない眠気に襲われた。今までは心地良い微睡み状態だったのが段々と眠気に変わっていった。もちろんこの10日間で寝ることも何度かあった。しかし、現在感じている眠気はダメなモノのような気がする。
後戻りできないようなゾッとする感覚…。
そんなものと戦い始めた時、辺りが暗くなった気がして上を向いてみると、真上に大きな雲の塊が来ていた。
今まで見てきた雲とは違って中から何かを感じる気がして、その雲に見入っていたらだんだん雲が近づいてきた。
いや、違う、さっき横目で見ていた山が下に見えるので自分が引き寄せられているのがわかった。そして私は雲の中に吸い込まれた。
雲に吸い込まれてしばらく霧に包まれている様な白い空間が続いていたが、だんだん光が見えてきて、雲の外に出るのかと考えていたら急に光が強くなり思わず目を瞑る。
抜け出したと思った先はまだ雲の中だったが、ぽっかりと空いた広い空間があり神秘的な光景が広がっていた。空間の中心に神話の物語に出てきそうな神殿があり、内側から光を発しているように輝いていた。
そして私は、その神殿に引き寄せられていた。
一体何が待っているのか、薄ぼんやりしている意識の中で考えてみる。
思いつくのは、神様や天使とか?
そんなことを考えているうちに私は神殿に到着し、そのまま中に吸い込まれるように入って行く。
眠気の限界がだいぶ近いと感じていると気がつけば神殿の最奥に。
そこには、光を放っているような輝く金髪で瞳が橙色をした綺麗な女の人がいた。こちらを見つめながら微笑みを浮かべるその人を見つめているうちに既視感のようなものを持ち始める。
…どこかで、見たような?…
何処で見たのか思い出そうとしているうちに私は彼女の腕の中にいた。
『この場所に迷い込むのも珍しいことだけど、あなたは一体何処からきたの?』
なんと言っているのかは日本語ではないから分からないけど、その声を聞いて目の前の女性が誰か思い出した。
「…ソル……ハート…様?」
女性が目を見張った。けれど、私はそんなこと気にしていられない。
既視感の理由が分かった。
目の前の女性があるゲームで見た覚えのある神様の1人だったからだ。
ゲームでは主人公が様々な試練を突破した先で会える神様であり、設定では神々の長姉だったはず。
そして、ゲームの知識が間違ってないのなら今の姿の名は「ソルハート」、太陽の心って意味で名付けられたという金髪に橙の瞳のこの神様の太陽が出ている時の姿。
…この女神様、時間帯などで髪と瞳の色、名前が変化するという設定を持っている。どの姿も綺麗だったなぁ…。
『私の名を知る迷える子、貴女のお話しを聞いてみたいけれど、魂がだいぶ自然と同化していますね…ここまで世界に馴染むなんて…このままでは溶け散ってしまう…』
驚きから立ち直った?ソルハート様が何かを言っているがやはり言葉は分からない。
てか、ゲームで見た神様が普通にいるってことは、今までの空の旅は全部夢?今も襲ってくるこの眠気に抗わなくて良かった?…なら、このまま寝てしまっても良いのかな…?
そう思い、目を閉じ意識を手放そうとすると女神様の焦ったような声が聞こえてくる。
『いけません!意識を手放さないで、戻れなくなってしまいますよ!』
ダメだ…眠っちゃう……。
『名も知らぬ迷い子、魂だけでこの場所に辿り着いた奇跡の子、世界に満ちる力に馴染み世界に受け入れられた異界の子、私は貴女とお話ししてみたい、貴女の人として辿る運命を見てみたい。他所の世界から迷い込みこの世界に受け入れられた貴女なら、私の願う未来に辿り着けるかもしれない。…なので、私は貴女にこの世界での生を与えます。』
私の身体が光に包まれる。
『いつか、会いに来てくださいね。』
次に目覚めた時、私は赤ん坊になっていた。




