1章:始まりの場所
シフォン
「あら皆さん。揃いも揃って何か用ですか?」
ハーティー
「後輩のために依頼を受けに来たんだ。
何か良いのあるか?」
シフォン
「なんだ、そうだったんですか。
それなら南にある星黄洞窟に行って
鉱物を集めてきてくれませんか」
シフォン
「各地で集めさせているんですが、
これでも武器の作成には足りなくて……」
ハーティー
「星黄洞窟か。近いから行きやすいな。
どれほど集めてくれば良いんだ?」
シフォン
「だいたい5個ぐらいですねぇ。
あそこは一般の人も通るので
そう取れないと思いますから」
オズマ
「集めるのは良いが、なんでそんなに必要なんだ?
こんなのわざわざ依頼に出すほどでもないだろう」
シフォン
「そうなんですよ……」
シフォン
「理由はいくつかあるんですが、
1つは単純に鍛冶屋が調達し忘れていたことです」
シフォン
「なんとか商売できてるみたいですけど、
持ってこれないと店を開けなくなるぐらい
在庫がない状況だそうです」
シフォン
「もう1つは、最近あそこに盗賊が住み着いてるようでしてね。
彼らが掘っては自分のものにしていて、
そのせいで採掘量が大幅に減ってしまっているんです」
シフォン
「採掘のルールなんて特に定めておらず、
人々の善意で成り立っていたので、
こういうケースは初めてですね……」
シフォン
「今後はあそこに警備員と許可証を持って
行くことになるでしょう」
シフォン
「というわけで、一般の人には出来ない仕事なので
鉱物を取るついでに盗賊もやっつけちゃってください」
カズキ
「盗賊を倒すことは依頼内容じゃないんですね」
シフォン
「依頼人が鍛冶屋ですからねぇ。
こらしめてやれとは思っているでしょうけど、
しなくてもいいことですから」
オズマ
「向こうからつっかかってくるだろうから、
余計なことはしないでおこう、ということなんだろう。
極めて的確で冷静な判断だ」
シフォン
「そういうことですねぇ」
シフォン
「しかしハーティーさん、オズマさん。
随分久しぶりに私に会いに来ましたね。
後輩のためとはいえ、なんかあったんですか?」
ハーティー
「特に理由はないさ。
たまには外にでないと体がなまるからな。
気分転換というやつだ」
オズマ
「後輩ができたのだから、顔をだすのは当たり前だろう。
カズキ達2年も何回しか会っていないんだぞ」
シフォン
「そう言えばそうでしたね」
シフォン
「それじゃあ、改めて自己紹介でもしようかな」
シフォン
「はじめまして皆さん。
私はシフォン・マクレウス」
シフォン
「皆さんの先輩である3年の二人とは、
二人が1年のときに何度も依頼を受けに来ていた
時期に仲良くなったんですよ」
オズマ
「あのときはハーティーとは別のグループだから、
今ほど会話はしていなかったがな」
ハーティー
「年が近かったから仲良くなれただけさ。
大人の冒険者を相手にするのが彼女の仕事だから、
1年のときはあまりプライベート的な話はできなかったしな」
シフォン
「いやいや、二人も結構真剣でしたよ?
かなりガツガツしていましたもん」
オズマ
「それは言うな……。
そのことはお前とハーティーにしか言ってないことだ」
シフォン
「ありゃ、そうでしたか」
シフォン
「いやいや失敬、余計なことを言ってしまいましたね」
オズマ
「ふっ、こういう事には慣れてるから大丈夫さ」
ハーティー
「確認だが、5個だけでいいんだな?
種類とかは指定しなくて大丈夫なのか?」
シフォン
「ええ、あそこは鉄しかとれませんから。
種類を言う必要がないんです」
シフォン
「今は割と緊急事態ですから、
それでもかまわないということなんでしょう」
ハーティー
「わかった。なるべく早く帰ってこれるよう善処する」
ハーティー
「というわけだ。皆、星黄洞窟に行くぞ」
エリー
「はいはーい」
アーク
「やぁーっと依頼らしい依頼を受けられるな」
エリー
「だいたいあんたのせいでしょうに……。
カズキの特訓に付き合わされたの、忘れちゃったの?」
アーク
「あのときは俺も魔法を使えなかったんだから仕方ない!
しかも、カズキほど魔法の習得は遅くないぞ!
なのになんで1年間ずっとやらされてたんだ!」
エリー
「(魔法を防げないから、とは考えないのかしら……)」
オズマ
「俺達のグループはこんな感じだ、シフォン。
帰ってきたときにまた話の続きをしよう」
シフォン
「ええ、とても楽しそうで羨ましいですよ」
トルク
「あ、あの!」
トルク
「トルク・ゼオネルラと言います!
これからよろしくお願いします!」
アリス
「……アリス・ファンダブレです」
シフォン
「よろしくね、トルク君、アリスちゃん」
トルク
「はい!」
アリス
「よろしくです」
ハーティー
「さぁ、行こう。外に出たら帰るまで
洞窟につくまでもついてからも魔物との戦いだ。
そんなに強くないだろうが、傷は最小限に抑えるんだぞ」
カズキ
「ええ。慎重に行きましょう」
ハーティー
「では行ってくる」
シフォン
「行ってらっしゃい、皆さん」
トルク
「いやぁービックリですよ。
ハーティー先輩とオズマ先輩は、
ギルドの人と友達だったんですね」
オズマ
「友達というよりは顔見知りだな。
まぁ、お前らには地元に一人だけ残っている
幼馴染に会いに来た友人二人、みたいに見えただろうが」
エリー
「例えが的確ですね……。
ええ、まさにそんな感じに見えましたよ?
いったいなにをしたらあそこまで仲良くなるんですか?」
ハーティー
「さっき言ったとおりだ。
1年のとき、ここで依頼を受ける日が
オズマと被っていた時期があってな」
ハーティー
「同じ学校の生徒で他のグループとかも使うから、
私達の噂をシフォンも聞いていたようでな。
向こうから話しかけてきたんだ」
ハーティー
「何度も依頼をこなしていくうちに
あんな感じになったんだ」
エリー
「へぇ~」
ハーティー
「2年の頃は数回しか会ってないから、
こうやって会えるのを楽しみにしていたんだろう」
オズマ
「言っておくが、シフォンは他のグループの奴らにも
あんな感じで接しているからな。
俺とハーティーだけ特別扱いしているわけじゃないぞ」
アーク
「それにしては仲がいいですけどね」
ハーティー
「誰だって自分に好意を向けてくれると嬉しいからな」
オズマ
「それもあるが、お前と俺はシフォンにしか
自分の事を話していないだろう……。
秘密を知る者としては色々観察したいんだろ」
ハーティー
「そういうものか?
今はもう終わった話だとは言え、
あの事はベラベラ話してほしくないんだがな」
オズマ
「だから話してないだろう……。
当時と特に変わっていないようでよかった、
と言いたかったんだと思うぞ」
ハーティー
「それは伝わってきたさ。
しかしだな……」
オズマ
「お前は俺と違って守られているからな。
こういう気にされ方は慣れないだろうさ」
エリー
「?なんの話ですか?」
オズマ
「お前たちにもいずれ言う話さ」
エリー
「そうなんですか?
楽しみにしていますね!」
ハーティー
「――っ、今は依頼だ。
なんとしてでも夜前にはここに帰ってこよう」
カズキ
「はい!」
オズマ
「(切り替えの速さはさすがリーダーだな)」
オズマ
「(俺も負けてられんな)」