第8話 嫉妬
すぐに会いたかったが、お互いの仕事や都合により、すぐの試合には行けず2週間後の試合の時にまた会う事になった。
試合の後デザインを決める事にして、その後はとりとめのない話しをして料理を楽しんだが、自分に全然興味持たれてない事に愕然とした。
そもそも女性が最初から自分に興味向いてる状況で、俺から優しく微笑んだりして上手く事が運んでいたのだから、今回の場合は全くしずかさんに通用しない。
俺モテる方だと思ってたけどもとんだ自意識過剰野郎じゃねぇか。
・・・うん、何か別にムキになって彼女をゲットする必要はないな。
ジャケットが出来上がるまでの間の楽しみって事にしよう。
無理に俺の自尊心を減らす必要はないしな。
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『一緒の時間に行くよ?』
と事前の待ち合わせ連絡で伝えたが、どうやらファンクラブか何かの都合で一緒にいても同時に会場に入れないらしい。
彼女は前の方で観る派だと豪語していて、前列をゲットするには先行入場の時間より早く並ぶ必要があるんだと、力説された。
なので、試合開始の30~40分前に来てくれたら良い、と言われていたのだが、家から割と近くですぐ着けるので、早目に行く事を当日に決めた。
早く会いたいしな。
予定より早く行く事にしたからおおよその時間をメールしたが既読にならない。
まぁそういう事もあるだろうと特に気にせず、会場へ向かった。
『秩父宮ラグビー場の正門に着いたら連絡下さい。迎えに行きます。』
と言われていたので、正門に着いたがまだ既読になっていない。
なかなか既読にならないので、いよいよ電話をしようと思ったら、人込みの中にしずかさんが見えた気がした。
上体を揺らし確認すると、やはりしずかさんで間違いなかった。
が、大声を出して呼んでも騒がしい為彼女は気付かない。
仕方ない、と人をかき分けて彼女がいる方へ向かうと、めちゃめちゃ良い笑顔で屈強な男と写真を撮っている場面に出くわした。
は?!!めちゃめちゃ待たせておいて何してるんだよ!!
「ちょっと!!!」
思わず肩を強く掴んでしまった。
振り向いた彼女はとても驚いた顔をしている。
「あ、あれ?亮さん。今来たの?」
「20分くらいずっと正門で待ってたよ!全然既読にならないからおかしいなと思って探したら、嬉しそうに写真撮り続けて・・・・」
そう伝えたら慌ててスマホを確認し出した。
「え、でも通知来てなかったよ・・・・・・あ、もしかして。」
メールアプリを立ち上げている所を見ると・・・
もしかしてプッシュ通知に現れなかったのか?
しまった・・・それなら怒りをぶつけるのはお門違いだ。
だが、先ほどの写真を撮っている姿を思い出して怒りが収まらない。
何で肩とか腰に手を回されてるんだ。
「亮さん、ごめんね、今通知入ってるのに気づきました。プッシュ通知の所に出てこなかったし、もっと後に来るものと思ってたから・・・」
言い訳じゃなくてこれは事実だ。
こっちもごめん、と言わなくては。
「ごめんなさい!!」
彼女に謝らせてしまって、気まずくなり顔を彼女に向けられない。
言いがかりを付けた自分に腹が立ち手を固く結んでしまう。
「亮さん・・・・?」
「・・・・・」
ただ、ずっと怒っているのも大人気ない。そう思い彼女の方を向いた。
「どうしたら許してくれる?」
小首をかしげて不安げな顔を下から覗かせてくる。
「!!」
その顔とその仕草は卑怯だ。
不意にかわいい表情を見せられて顔が赤くなってしまった。
「もしかして具合悪い?試合始まるまでどこかで休む?辛いなら駅まで送りますよ?」
「いや・・・大丈夫。」
「どこかで休む?」だなんてそういう意味で言っているわけではないとわかっているが、いかがわしい妄想と、不覚にぶつけられたかわいさと、危ういセリフのニヤつきをごまかす為口元を隠した。
「ごめんね?」
と言うが、そのごめんはメールに気付かなかった事だけを指してるんだよな。
「そのごめんってさ・・・・まあいいや。いや、こっちも責める様な事言って悪かった。試合の3~40分前って話しだったのに。」
屈強な男達に肩や腰を抱かれ写真を撮っている事に俺が腹を立てているとは微塵にも思っていないのだろう。
仕方ないか。今はまだそういう関係じゃないし。
怖がらせてしまっただろうか、と彼女を見るともう気にしていないと言う風にめちゃめちゃかわいい顔で俺のシャツの袖口を引っ張り買い物へ連れ出した。
「楽しみで早く来ちゃったんですね。ラグビーに興味持ってもらえて嬉しいです。時間まだあるので食べ物と飲み物買いに行きましょ。」
「俺が早く来たのはしずかさんに早く会いたかったからだよ。」
ポソリ、と言った言葉は当然彼女には聞こえてなかった・
無理にゲットする必要ないな、とその舌の根が乾かぬ内に嫉妬してしまう亮さんであった。
何だか亮さんバージョンの方がキュン度が高い気がする・・・