第7話 彼女の好きなタイプ
「送ってくれてありがとうございました。頂いた参考写真を元にデザイン画書いてくるので出来る頃ご連絡します。あとごちそうさまでした。すごく美味しかったです。食材費とかって・・・」
採寸の後、駅まで送ると、食材費の事を気にしてくれてますます気に入ってしまった。
「いやいや、いらないよ!美味しそうに食べてくれてありがとう。採寸もお疲れ様でした。こちらからもまた連絡します。」
最初からごちそうするつもりだし、食材費なんて当然不要だが、そこまで言ってもらえる事は今までなかった。
「ではお言葉に甘えて。美味しそうじゃなくて本当に美味しかったですよ。じゃぁまた!!」
「気を付けて帰ってね。」
「はーい。」
時間とお金の考え方が似ていると良いよな。イライラ少なくなるし。
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数日前の事を思い出していたら、なんかしずかさんに会いたくなってきた。
急に呼び出しても怒られないだろうか・・・
昼休憩辺りにお誘いのメールをしたらふたつ返事ですぐOKが出た。
俺はデスクの下で小さくガッツポーズをした。
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「急に呼び出してごめんね。・・・スカート初めて見た。似合うね。」
「ありがとうございます。そういえば前会った時は2回ともパンツスタイルでしたかね。」
時間ぴったりに現れた彼女のスカート姿を初めて見た。
くるぶしまである丈のサテンのスカートで腰から下がきれいに広がっていて時々風ではためくと左足の膝から下が露わになる。
ミニスカートで足が丸見えなのも良いが、隠されている生足が見えるのは、それはそれでセクシーだと思う。
濃いめのピンクだけど、何て言うのかグレーが混ざった様な色合いで、ピンクだけど可愛すぎない、むしろ大人じゃないと似合わないだろうピンクが彼女の雰囲気にも良く似合っている。
今までは白シャツにデニムやブラックスキニーという無色だったが、今日のピンクによって一気に彼女のイメージカラーがピンクになった。
家に来た時はすごく小さく見えたが、スウェットの丈が短いからかバランスが取れていて、今日は背が高く見える。
アパレル会社勤務だけあって、自分の装い方を知っている感じがするな。
しかし、随分女らしい恰好だな・・・・
きれい目のスウェット自体はカジュアルなアイテムだが、華奢なネックレスとピアスをしていて逆に女性らしさが際立っている。
男に会う予定だったとか・・・?キャンセルされて俺の誘いをOKしたんじゃ・・
「たまたまこの服装の時で良かったです。スーツの隣がカジュアル過ぎたら違和感ありすぎますからね。」
「そういうの気にしてるんだ?」
確かにスウェット×デニムだとスーツの隣には不釣り合いかもしれない。
「基本気にしませんけど人と会う時は気を付けてますね。」
「デートとか?」
「デートこそ何着るかめちゃめちゃ考えるイベントでしょう?」
「もしかしてデートだった?」
「違いますよ。」
「じゃぁたまたまだった、と。誰かに会う予定でもなかった?」
「そうですね、たまたまです。誰かに会うとかはなかったですよ?」
どうやら俺の思い過ごしだったらしい。
ちょっと強引に聞き過ぎたかな。めちゃめちゃ不思議な顔してる。
ヒカリエから程近いビルの上階にあるイタリアンレストランへエスコートし、着席して程なく食前酒のスパークリングワインが運ばれてきた。
今日誘った理由を「あの時迷惑をかけたお詫び」として伝えたが、そんなものは口実だ。会えれば何だって良い。
「お詫びなんて、この前ごちそうして頂いたから良いのに・・・・・まぁ仕事も落ち着いてきた所でしたし、当日とは言え早めに連絡してくれたので来れました。」
「早めじゃなかったら来られない?」
「定時過ぎてたり、電車乗ってたらもう無理ですね。多分彼氏でも引き返しません。」
ふふっと彼女が笑った。
「そうなんだ、じゃぁ次回も気を付けるよ。」
早目に誘えば、今後も会えそうだな。良い事を聞いた。
内心、喜んでいると見つめられている事に気付いた。
いや、正確には俺じゃなくて俺のスーツだ。
「何?」
「いや、今日も素敵スーツだな、って思って。」
「スーツ好きだね。スーツ似合う人がタイプ?」
そう信じていて微笑まで浮かべていたが、瞬間裏切られた。
「いえ、私の好きなタイプは簡単に言うと商社マン系よりガテン系です!」
スーツ着てねぇじゃねぇか!!
てっきりスーツが似合う男がタイプかと思ったのに、悉く期待を裏切ってくるな、良い意味で。
「スーツ着てないじゃん!」
「着てないですね~」
自分の自意識過剰さにもちょっとツボにはまっておかしくなってしまった。
結構好かれてると思ってたんだけど。
「あ~・・・やっぱり変わってるね、しずかさん。」
「変わってるとは心外ですね。ごく普通の女性ですよ。」
切り替えて内面のタイプを聞くと「優しくて思いやりのある人。」と答えたが、それって普通じゃないか?
でも彼女からするとそうでない人も多いと言う。
どういう事か、と聞いてみるとやけに具体的な話が出てきた。
「例えば?」
「ん~・・・少なくとも初デートとかで遅刻する人は思いやりがない、と判断しますね。」 「どういう事?」
「相手を思いやれてたら初デートで遅刻する事はまずないはずです。その人の時間を奪う事になりますからね。そこに考えが至らない人なんだな、って思ってしまいます。」
「経験談でしょ?」
「・・・」
黙るって事は経験談だな、わかりやすい。
「俺も同じ経験何度かあるよ。」
「あ、そうなんですね。」
まぁ、俺もデートに遅刻してくる人は興味なくなっていくからな。
やっぱり時間の考え方は近いのかもしれない。
もっと近づきたくなり、彼女の趣味に触れてみた。
「そういえば、スポーツバーには一人で良く行くの?」
「そうですね、ラグビー好きなお友達いなくって。試合も基本一人で行きますよ。あそこで知り合った方と現地で合流する事もあるけど。」
「ふ~ん・・・・・試合、観に行ってみたいんだけど、」
「ほんとですか?!じゃぁ一緒に行きましょう!!」
ラグビーの試合行ってみたいと、伝えると食い気味に返ってきて少したじろいでしまった。
「あれ?一緒に行きたくないです?あ、同性の方が良かったらバーの知り合いの人紹介しますよ?」
「いや!しずかさん、一緒に行こう。」
男性を紹介されそうになり慌てて一緒に行こうと伝えた。
一緒に行きたくないのか~、という考えに何故なるんだ。
すごく嬉しそうにしてくれて、こっちも喜んだのに、「ラグビー観戦仲間ゲット」?
うん・・・・これは俺を完全に意識してくれていないな。
グレーが混ざったピンク=ダスティピンク
亮さんはイケメンだけど、しずかさんのストライクゾーンではないのです。