第3話 時刻通り
連絡先を交換し、会ったその日から俺は『しずかさん』と言っているのに、その後の打ち合わせのやり取りのメールでも彼女はずっと『片山さん』だ。
何度も指摘し、やっと下の名前で呼んでくれる様になった。
自分でそうさせたクセに名前で呼ばれる事にくすぐったい気持ちを感じるのは何故だろうか。
今日は採寸の日だ。初めて会った日に今週末はどうか?と伝えて彼女は日曜を指定してきた。
次の日仕事があると考えると長居させられない曜日だ。
やはり警戒しているんだろうか。
何かするつもりはないんだが・・・今の所。
駅まで迎えに行く事を伝えると、
『11時頃着く様に行きます、当日朝電車を乗ったらまた連絡します。』
と、事前に言って来た。
そして本当に当日の朝、
『10:58着の電車で向かいます。』
と連絡が来た。
正直驚いている。俺の周りの女性達はほぼ全員時間にルーズだった。
平気で2~30分遅れてくる。しかも、絶対「あと5分くらい。」と言うのだ。
5分で着かない事くらい理解出来るだろう。
何故嘘を付く必要があるのか。
遅れてきた理由も「(俺に見せたくて)おしゃれするのに戸惑って。」と上目遣いでアピールしてくる。
それで許されるとでも?
朝早いならともかく、午後からのデートで家も待ち合わせ場所と近いのに何で遅れられるんだ?
本当に、支度に手間取ったのなら寝坊しすぎじゃないのか?若しくは時間の読めないアホなのか?
デートの最終目的があるからその場では許すが、大抵興味を無くしこちらからの連絡は少なくなっていく。
そして別れる。
という様な事を何度か繰り返していた。
大学からの友人には「最低だな」と言われている。
時間を守らないのも最低だと思うので心外だ。
待たせている間その人間の時間を奪っている事に気付けないのだろうか。
ビジネスシーンで遅刻なんてもっての外なのに。
まぁ、プライベートとは違うと思っているのかもしれないが、遅刻だけでなく、奢られて当然の雰囲気を出す事がほとんどだったので、併せて興味を無くす。
そしてしずかさんはどうやら俺と時間の考え方が似ていそうだ。
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事前に連絡のあった通り、到着時刻のすぐ後に改札へやってきた。
既に待っている事に気付いて少し驚いている。
「こんにちは!お迎えありがとうございます。」
「え?いや、当たり前ですよ。それよりわざわざスミマセン。遠かったですよね?」
迎えに来た事に感謝されて、こちらが驚いた。
自宅から彼女の自宅が遠い事を聞いた時は申し訳なく思った。俺が彼女の自宅へ行く事も少し浮かんだが、失礼かもしれないのでそれはやめた。
「大丈夫です、職場も都内なので。」
それなら通勤が大変なのではと思い聞いた。
「職場はどこですか?」
「原宿です。」
「ああ、恵比寿からは2コ隣ですね、そしたら仕事終わりに会えますね。」
彼女の会社の最寄りとうちの駅が近い。仕事終わりに会えるな、と思ってそう伝えると、なんで?という顔をする。
「デザインの話とか生地の話とかしますよね?」
「あ~!」
「忘れてたの?結構天然だね」
本気で忘れてたみたいだな。
いや思わず警戒しちゃったか?
「天然じゃないです。」
「天然はそう言うよね。」
「もー!良いです、何でも!早く行きましょうよ。」
「はいはい、こっちです。」
天然じゃない!とあたふたしている姿がかわいい。
やっぱり小動物みたいだ。
単純に飲みに誘ってみたいと思った。
普通に土曜に予定があると思わないんか。