第13話 嫉妬?
「あの、しずかさん?」
「はい?」
「怒ってるよね?」
「怒ってません。」
家までお互い一言も話さなかった。
俺も何を話して良いかわからず、ただ、自宅へ進んでいく彼女の後を追うしかなかった。
オートロックの解除のついでとばかりに話しかけたが、怒っていない、と言っても態度で怒っているとわかる。
と言う事は少しはやきもちを焼いてくれているんだろうか?
いや、駅の人通りの往来でもめ事みたいになってしまった事を怒っているのかもしれない。
少なからず注目集めてたのは横目でわかった。
マンションの入り口からは再び何も話してくれない。
すぐ玄関前になり、彼女は家に上がるなり、「仮縫いの調整始めましょう。」と言った。
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「サイズは良さそうですね・・・襟の形は?どうです?」
仮縫いはシーチング、と呼ばれる黄色味の強い白い織物で行われた。
オーダーメイドの場合だとこの素材の後、本番の素材を使った仮縫いがもう一度行われるのだが、今回はこの後はもう本番の素材で縫い始めると言われた。
裏地も無いし、最悪何かあったら直せるとの事らしい。
「特に直して欲しい所は無さそうだな・・・すごいね。個人だからどうなんだろうって依頼時は思ってたけど、ちゃんと出来てる。」
仮縫いだけど、思った以上の出来で完成が想像出来た。
本当に依頼した当初は正直期待していなかった。なんせ彼女の作品を見た事もなかったのだから。
それでも、経験が少ない分製作費は材料費だけで良い、と言う所にプロ気質が見えた。
その言葉通りだったかもしれない。
仮縫い段階ではあるが、この後も任せて大丈夫そうだ。
「それはまだ仮縫い段階なので、その感想はまだ早いですよ。でもありがとうございます。」
褒められた事が嬉しかったのか、少し表情が緩んでいる。
今ならさっきの話し出来るかな。
「あの、さっき駅での事、また迷惑かけてごめんなさい。」
道具を片付けている彼女の背中に話しかける。
「はい、周りの人達の興味深々な視線が恥ずかしかったです。」
その通りですよね。
「ほんとにごめん・・・・」
「もう良いですよ。ただ、さっきの彼女だけに説教するのはフェアじゃないんで亮さんにも言いますけど、自分に好意を寄せてる女性と簡単に関係作るべきじゃないですよ。あ、もちろん及川さんとお付き合いを考えた上での行いでしたら説教しませんが。」
「いや、彼女とはそういうつもりは・・・」
「ですよね?見ててわかりました。先ほどの方は私の説教に反論する事なく理解してくれたみたいですけど、普通はああなりません。逆上したり、どうやら仕事のつながりのある方みたいでしたから、もしかしたら何か亮さんに不利になる様な事をされたかもしれません。」
「はい・・・・」
結構しっかりと、長々と説教されている。
元カノと対峙した時も思ったが、考え方が結構清廉潔白だ。
「何より!!彼女を傷つけています。」
「う・・・・」
ほんと、その通りです。
しずかさんは背中を向けたまま片付けをしてこちらを向いてくれない。
「男性って、本命がいても平気で他の人と関係持ちますよね。私がいるのに・・・!」
「え?!!」
「は?!!」
今のは?
どういう意味で言った?
顔を見たくって近くに行ったら、自分で言った事にすごく驚いている様だ。
こちらも何も言わず彼女の言葉を待っていたが、みるみる顔が赤くなっていき、
「じゃ、じゃぁ、仮縫い終わりって事で!また!!」
と、慌てて帰ろうとしている。
何だそれ、何言ったんだ、それってもう明確なやきもちだろう?
足早に玄関まで進んだ彼女を後ろから抱きしめ肩に頭を預ける。
「は~・・・・・」
「あ、あの・・・」
「ずっと不安だったんだ。さっきのは嫉妬だよね?少し期待しても良いのかな。」
肩が少し震えている。
「帰りたい・・・」
「え・・・・?」
「帰して・・・・」
僅かにこちらを振り返った彼女の大きな瞳からは今にも涙が零れそうだ。
焦って袖口で涙を拭う。
「ごめん、困らすつもりでは・・・」
「送って行くから、待ってて!」
このまま帰せないよ。リビングへ戻り財布とスマホだけ取りに行く。
車で送って行こう。これは口実ではないはずだ。
本日もう1話公開します(*´ω`*)