第12話 クズ野郎
絶対しずかさんにバレない様にしないと、と思い、翌朝出勤してすぐに彼女からメールが来ている事に気付き動揺した。
『再来週仮縫い出来上がるのでサイズの調整で試着してもらいたいから、土日どちらか明けておいて下さい。』
そう言えば電話切り際何か言っている様な気がしていたんだ。
イライラしてたから気付けなかったのだろう。
声を直接聞きたかったが、もうすぐ始業する為、メールで電話をすぐに切ってしまった事を謝ったが、彼女から返事はなかった。
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会ったらすぐに謝ろう、そう思って当日、事前に着く時間より少し早く待つ事にした。
電車が遅れている等の情報が掲示板に上がっていないので、もう間もなく到着するだろう。
そう思っていたら、
「あら?片山様?」
!!!!!!
「お、及川さん、こんにちは。」
「こんにちは。先日ぶり以来ですわね。何されているのですか?」
「いや、あの・・・人を待っていまして・・・」
ヤバい、鉢合わせする。電車遅れろ!
そう思ったがそんな都合の良い事はなかった。
「亮さん?こんにちは。そちらは?」
うおー時間ピッタリ、さすがしずかさん。いや、今は遅刻して欲しかった。
「あっ・・・、待ち人来たので、失礼します、及川さん。」
この場から早く退散したい。
「あら・・・?この方が片山様がお待ちになってた方ですか?」
と言ってしずかさんの方へ向き、上から下へ視線を向ける。観察でもしてるのだろうか。
その仕草はマズイ。しずかさんに誤解を与える。いや、誤解ではないのか・・・
自業自得だが、また鉢合わせをする羽目に・・・
「そうです。この後彼女と予定があるので、失礼します。」
「あら、残念。また今度一緒に飲みに行きましょう?」
なかなか退散させてくれない。それどころか、飲みに行った事をばらされた。
「亮さん彼女さん出来たんですか?」
「え?!出来てないよ!」
しずかさんがとんでもない事をぶっこんできた。
慌てて否定したのに、及川さんが被せてくる。
「いやだわ。彼女だなんて!」
まんざらでもない、と言う感じで体をくねらせている。
「でも、そうですね、この前のお食事の後も素敵な夜でした。」
あ・・・・バレた。
「はぁ・・・」
とため息をつかれている。まずい、非常にまずい。
「いや、あの・・・・・」
ものすごく居た堪れないが、この場を切り上げるには自分で何とかするしかない。
「及川さん、あの、申し訳ありません。無理を承知で言いますが、あの夜の事はあの時の事として忘れて下さい。」
もう、90度くらいなんじゃ、という程深く頭を下げた。
チラっと及川さんを見たが、ふるふるしていて納得していない様子だ。
・・・・当たり前だよな。どうしたら・・・と思ったら、
はぁ・・・とまた深く溜息をついたしずかさんが及川さんに話しかけ始めた。
「えーっと。及川さん?は亮さんが好きなんですか?」
「えっ・・?いえ、別に彼がどうしてもと言うなら・・・・」
大変申し訳ないが、俺が付き合って下さい、とは言う事はないんだ。
「好きな男性にそんな簡単に体を差し出してはダメですよ?あなたの求めるものを返してくれるとは限りませんから。酷な事を言いますが、今の様子では及川さんに脈はありません。ハーフみたいなきれいな顔立ちをしていてスタイルも良くてすごく素敵な人なんですから自分を大切にして下さいね。説教をされて腹立たしいと思いますが、その怒りはどうぞ彼にぶつけて下さい。」
至極全うな事を言い、俺を殴れ、と言っている。
唖然とした及川さんだったが、俺の言った事には納得しなかったのにしずかさんの言葉で落ち着いてくれた様だ。
目に薄っすら涙が溜まってきて、微笑を浮かべた。
「私、ちょっと焦りすぎた上に舞い上がっていたのかもしれません。出直してきます。片山様、」
「はいっ。」
「忘れる、というのは難しいですが、お仕事では変わらぬ態度でお願い致します。」
「はい、本当に申し訳ありませんでした。」
もう一度頭を下げた。
「彼女さん?ご忠告ありがとうございました。私の代わりに片山様殴っておいて下さい。では。」
そう微笑む彼女を見送った後、しずかさんを見ると言葉にはしていないがその表情で俺にははっきりわかった。
「クズ」って言われた。
ここにクズがいます!