第1話 出会い
『カラン、カラン』
来店を知らせるドアの鐘が鳴る。
女性客だ、そして同じくらいの年齢だろうか。いや年下かもしれない。
接待の2次会として、クライアントに連れられたのはスポーツバー、しかも主にラグビーを扱うバーだった。
本当は1次会でお開きだったが、もう少し付き合えと言われ素直に付いてきた。
マイナーなスポーツと思っていた通り、店内は男性、しかも年齢層が高めだったので、若い女性客の来店につい目がいってしまった。
店内へ進んできた彼女とがっつり目が合ったのにすぐに逸らされてしまった。
第一印象は「目、でか!」だ。
目が離れたのを良い事に観察を始めた。
艶やかな長い髪は腰の方へ向かってふわふわとゆるやかにカーブしている。暗めの店内だからはっきりとはわからないが濃いブラウン系の髪色なんだろう。
大き目のシャツを着ていてごまかしているがわかる、あれは胸でかいな。
スキニージーンズを履いていてシャツからわずかに見えるやや大きめのお尻のラインがきれいに丸みを帯びているのが窺える。
(ほーなかなかエロい体をお持ちで)
なんてゲスい感想を持ったところで改めて彼女を見やるとカウンターへ座ろうとしている。
常連なんだろうか、先に座っているメタボのハゲのおっさんと楽しそうに・・・いや、あれは営業スマイルだな。笑ってない。
俺も同じ営業スマイルを使うからわかる。きっとセクハラでもされてるんだろう。それを上手にかわしていると予想する。
「片山君、ラグビーは観るかい?」
御年54歳の取引先の部長に問われた。
「いえ、お恥ずかしながらスポーツをあまり見ないのです。」
興味ないんだよな。
「そうか、ラグビーを生で観るときっとハマるぞ~」
「そうですね、きっとそう思います。」
「誰かに連れて行ってもらうと良いよ。」
「はい。」
一緒に行くぞ、と言われるかと思って焦ったが杞憂だった。
大きな画面の試合を観戦しつつ、皆盛り上がっている。
俺は真剣な表情 (のつもり)で画面を見ていたが、何杯目かのビールで尿意を覚えた。
9月中旬だが、まだまだ残暑だ。会社のルール上、さらに接待中ともあってジャケットを着用している。
背裏ではあるが、1枚羽織る分暑い。店内は涼しいが、来店時早く涼しくなりたくて立て続けに飲んでしまった。
お手洗いへ、と断り席を立つ。
右手の方だと教えられ進むと先ほどの彼女が先に待っていた。
結構小さいな、上から見下ろす形になる。俺が180cmだから、160cmはないな、確実に。
そして近くで見るとやっぱり目がでかい。
何かの小動物に見えるが何だったか・・・
「お手洗いってここで合ってます?」
「合ってますよ。ひとつしかないんですよ。」
どうやら男女共用そうだ、彼女がそう告げた後、
「スーツ、すごく素敵ですね。」
そう良く言われる言葉を伝えてきた。
言われ慣れているので驚きもせず礼を言うと、
「オーダーメイドですか?」
とさらに問われた。
驚いているとさらに付け加えられた。
「体に馴染んでそうで、変なシワがないのでオーダーメイドのスーツかな?と。生地も恰好良いし」
さすがにここまで言われた事はなかったので、何故わかったのか聞いた理由に驚いた。
「私オーダーメイドのスーツとか興味あって。自分でも服作るんですけど、生業としている方達の仕事とはやっぱり違うので、良いスーツ着てる人見るの好きなんです。」
自分で服を作るなんて、少なくとも自分の周りの女性にはいないのでとても興味が沸いた。
「あ、失礼しますね。」
彼女が先にトイレへ入った辺りでふと考えた。
いつもお願いしているテーラーではない所へ新しい1着を依頼しようと思っていた所だ。
どこへ頼んでもどの道新しい先を探す手間等あるし、出来は未知数だ。
いっその事素人でも良いかもしれない、なんて少し無謀な気持ちが起きていた。
ここで会ったのも何かの縁だ。
そう思った瞬間『ガチャリ』トイレのドアが開いた。
「お待たせしました~」
「あの、さっきのオーダースーツの話、ちょっと聞きたい事あるので、後で隣行っても良いですか?」
接待が終わったら隣へ行く事を約束付けた。
背裏=背中側の裏地が一部もしくは半分程度の仕様をそう呼びます。
注)ラグビーワールドカップで日本が盛り上がる前の設定です。
男性視点の物語を始めました!
初めましての方、初めまして。読んで頂いてありがとうございます(*´▽`*)
【お針子さんに手を出さないで下さい!】からの方、また読みに来て頂いてありがとうございます(*´▽`*)
彼の心情を追いかけて頂けると嬉しいです。
本日第3話まで予約投稿してあります。1時間おきです。
宜しくお願いします(*´ω`*)