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八話 悪あがき

「行くぞ!」


そう言うが早いか、男は剣を振り上げる。

レインは、何もしなかった。

その余裕っぷりに更に闘争本能を掻き立てられたのだろうか。

剣に炎を纏って、凄まじい勢いで突進してきた。


「キエアアアアア!!!」


けれど、遅い。

動体視力や反射神経が人間の範疇を超えているレインにとって、男の攻撃など幼児の投げたボールを一回跳ね返った後に手に取るような物であり、到底当たるような物では無かった。

けれど、遊ぶ相手が幼児なら、一回わざと取りそこねて幼児の機嫌を良くする必要もあろう。


レインはあえて反応せず、炎を身いっぱいに受ける。

そして後ろにピョンと飛んだ。

着地は、大げさに、若干スライドして。

レインも、いくら魔王とはいえ、炎を浴びれば只では済まない。

あくまで強化されているのは、五感とその他の感覚、それに数種類の能力なのだ。

その強化の幅が桁外れに大きいというだけで。


そこで、レインがとった方法は、炎の流れを変えることだった。

魔力が操作できるならば、魔力によって生み出された魔術が操作できないはずがない。

それが例え相手の魔術であっても。

というわけで、手でひらっと炎を薙ぎ払い、ついでに後ろに若干派手に跳ねることで、周りから見れば一触即発の戦いの完成である。

これをあと数回続けて、そして最後に一回なんとか攻撃を入れたように見せかければ、完璧である。

流石私、とレインはほくそ笑んだ。


「今の攻撃を避けるとはなかなかやるな。けれど、あと何回ついてこれるかな?!」


そう言って、また飛びかかってくる。

この男、言い方がいちいち頭にくる。

そういう文句は圧倒的に強い者が言うべきことであるのに、いつからこの男はそんな大層な自信をつけた?

苛つきながら、再び男の斬撃をいなした。


そして、数十回目に技を防いだ時。

レインは重大な事実に気がつく。


戦いを決着させるのに手頃な技を持っていない。

クシャルを使うか?

やめておかねば。

男の鎧や剣を溶かすだけならまだしも、肉や骨まで溶かしてしまったりしたら一大事になる。

では、魔力をうまい具合に操作してカウンター攻撃をする?

やめておこう、まだそこまで繊細に扱えるか自身がない。

上手くカウンターできれば良いが、出来ずに、男を爆破してしまったらそれまた面倒くさい。

では、どうしよう。

そうだ、相手の剣を奪おう。


とっさのひらめきだった。

とっさにしては、かなりの良案だった。

十数回目の男の攻撃を躱し、彼の足を自分の足に躓かせる。

当然、男はバランスを崩し転倒する。

自分も巻き込まれるようにして倒れて、男の剣を叩いた。

そして、ポロリと手から落とされた剣を見逃さない。

素早く取って、転んだ男の上に馬乗りになり、剣を喉元に突きつけた。

ついでに、息を若干荒くして。


完璧だろう、これで自分は、周囲からは「激しい戦闘の末一瞬の隙をついて勝利をもぎ取った少女」にしか見えなかったはずだ。

そしてやはりともいうべきか、周囲からはそういう風に見えていたらしい。

一瞬の出来事に、若干の静寂が場を支配したが、すぐにその静寂は打ち破られ歓声と化した。

男はと言えば、驚いた表情でこちらを見つめている。

未だ信じられないと言った顔だ。


「ごめんなさいね、でも、私は誰ともチームを作らないって決めたの。見世物にしたかった訳じゃないわ」


突きつけていた剣をそこらへんに放り投げて、立ち上がりつつ伝えた。


「あ、ああ。そうか......」


男はと言えば、未だ現実を理解できていない様子である。

そんなに自分の腕に自信があったのか、と思ったが、第八等級魔祖を倒したとなればこの世界ではそれなりに強い人間なのだろう、と気付く。

男は、その後も唖然とした様子で草原に腰を下ろし、立ち去る銀髪少女の後姿を唖然と眺めるのみだった。


そして、幸運なことに、レインに仲間になろうと申し出る者は最早居なかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


お金がない。


魔王こと、レインは頭を抱えた。

ジェネアに、これであと何泊できるかと小銭の入った袋を渡したら、しばらくの計算の後4泊までならギリギリ出来るとのことだった。

と言う訳で、四泊の内に十分なお金を用意できなければ、路上生活の始まりである。

ついでに言うと、服も買いたかった。

今レインが羽織っているワンピースもどきは、なんでも溶かすクシャルの変形したものだ。

いくら物を溶かさないとは言え、ぼろが出たときに何て言い訳すれば良いか考えていない。

そんな面倒くさい事柄に労力を割くくらいなら、いっそのことこちらの服を買ってしまおうと考えた。


「えーっと、一番報酬が高い依頼をお願い」


「クエスト受注」と書かれた看板の下のカウンターで、レインは受付の女性に注文する。

レインの魔力適正検査をした時とは違う人だが、服は同じである。

おそらく簡単に見分けがつくようにするための工夫だろう。


「えーっとですね。上位ですと、第二等級魔祖、グレイン・ドルムの討伐、1160億シリン、二つ下がって第四等級魔祖、ファランクスの討伐、これですと報酬は61億シリン、もう一つ下がって......」


第二等級魔祖。

倒せない事は無いと思うが、第二等級魔祖を倒すという事はすなわち自分が魔王であると自白するようなものである。

というかその依頼って何年前からそこにあるんだ?

もうずっと1160億シリンとともに放置されているんじゃ無いのか?

突っ込みたくなるが、その気持ちを表に出すことの無いよう気を付ける。


「えーっと、できれば第九等級以下の魔物の討伐依頼が良いのだけど......」


自分が第八等級であると判明したのだから、第九等級以下で依頼するのは至極当然だろう。

そして、その声に応じた女性はパラパラと手元の冊子をめくり、そして何ともよさげな依頼を提案してきた。


「それですと、クライン伯爵の黄金を盗んだ第十五等級魔祖、ゴブリン・ゴーレムと、第十三等級魔祖、エルダーリッチの集団の殲滅、が一番良い報酬を提示しています。50万シリンです」


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