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七話 魔力適正:第八等級

レインは、まあまあ上手く誤魔化せた方なのでは無いか、と思った。

本来なら第一等級魔祖と算出されてもおかしく無いのであり、七段階も誤魔化せたというのは自分の中では成功だと感じた。

けれど、まあ、周囲の反応を見るにこれが常人離れしていたらしい事は一目瞭然、まさに火を見るより明らかである。


「「だ、第八等級......!?」」


周りにいた誰もが視線をこちらに向ける。

今のレインには突き刺さるように痛い目線だった。

何も知らない可愛い小娘を演じようと、何やら奇怪な動きをしていることは理解しているが、どうやってこの場を乗り切ろうか必死に思考している所なのだ。

一応、念のためではあるが、女性に「魔力適正」と言う単語について聞いてみた。


「あ、あのですね、魔力適正と言うのは、人の体内に存在する魔力が、第何等級魔祖に相当するかと言う指標です。ほとんどの場合第十四から十七等級なのですが......八なんて数字、私初めて見ました!」


女性も最後の方は若干興奮気味で伝える。

けれど、言い終わった後に思いついたように付け加えた。


「あ、でも、人間の体ってあまり大きな量の魔力を扱うように作られていないから......気を付けてくださいね、巨大な魔術とか使うと体が壊れちゃうかもしれないので」


レインは、そんな親身な心配から生まれた助言に失礼にも生返事で応答し、ジェネアをちらりと見る。

けれど、助け舟など出してくれるはずも無く、目を輝かせてこちらを見つめていた。

肝心な時に役に立たないなコイツは、と理不尽な評価を下す。


「あ、あのー、それで、私はこれからどうすればいいのかしら?」


恐る恐る女性に尋ねた。

女性はと言うと、若干思考したのち、カウンターの奥から一枚の紙とペンらしきものを持ってきた。

おそらくあれに「冒険者初心者指南」とでも書いてあるのかと思いきや、女性は、ペンと紙をレインに差し出すなり、


「お、お願いします!サインください!」


と大声で言った。

結局レインに助け舟を出すものなどいなかった。


少し後。


「お、俺のパーティーに入らないか!?」

「い、いやコイツなんかより俺のところ来いよ、報酬倍にするぜ!」

「私、貴族とつながりが......」


レインを中心に人の輪ができている。

言うまでもない、天賦の才ともいえる魔力適正を持った少女が爆誕したのだから、その少女を自分たちのチームに入れようとするのは当然であろう。

が、当の少女、レインはこの人だかりからどうやって抜け出そうか考えるのに必死である。


私はもう一緒に行く人を決めてあるの、と何回も断ったが、それだけでは断る理由として甘いようだ。

俺も着いて行って良いかとか、ならその人たちと一緒に私のところに来て頂戴、とか。

気持ちも、わからなくはないが、しつこい。


ジェネアはと言えば、遠くから人だかりを楽しむかのような表情で眺めている。

助けてくれ、と視線を送るが、我関せず、といった様子でそっぽを向く。

あのガキ。


そして、とうとうあまり言いたくは無いが、こいつらを根本から拒絶した。


「じゃ、じゃあ。第八等級魔祖を討伐した事がある人に着いていくわ」


話を聞くに、人間個人の限界は第十等級までであるらしいので、多分ここにたかる全員を追い払えるだろう。

そう考えていたが、間違いであった。

マスターのあの話は、ほとんどの場合というだけで、全員に当てはまるわけでは無かった。

しかも、先も言ったが、レインは焦ると判断力が著しく鈍る。

常なら最悪を想定し行動するレインだが、この時は最悪の場合を想定していなかった。

第八等級魔祖を討伐した事がある人間が、存在する場合だ。


レインはこの作戦は中々に有効だと思った。

全員がサーっと立ち退き、一人の男を凝視するまでは。


「ほう? 俺をご指名か?」


金髪の男がレインの声に答える。

銀の鏡のように輝く鎧を身に着け、たいそう立派な鞘に納められた一振りを腰に携える。

見るからにエリート中のエリートといった感じだ。


「まあ、俺の魔力適正は第九等級だが? お前より一個だけ下だが? お前、運がよかったな、先月なら俺を指名できていなかった。ちょうど俺は先月、第八等級魔祖、ファン=ベールを討伐したところでね。いいよ、君のご指名なら......」


レインは途中で聞くことを諦めた。

その後もなんか早口でむにゃむにゃ言っていたが、レインはそれを全部聞き流した。

ああ、こんなに運の悪い日があるだろうか!

あと数段階等級を上げていればこの胡散臭い男に絡まれる事も無かったのに......

絡まれる原因は完全に自分にある事を棚に上げ、レインは男の評価を下げた。

だが、この男さえ追い払えれば自分は自由の身だということに気付いたレインは、男の自分語りを途中で遮って、


「あなた、本当に第八等級を倒したの? 信じられないわ」


煽り口調で言う。

当然だが、男はそれまで饒舌に続けていた自慢をやめ、レインの言葉にピクリと反応した。


「い、今お前なんて?」


レインは、言葉を変えてもう一度言った。


「あなたが第八等級を倒したことがあるなら、私に簡単に勝てるでしょ? 私と勝負しなさい。あなたが勝ったら、認めてあげるわ」


この方法は出来れば使いたくなかった。

話題になるのを嫌う訳ではないが、自分の実力をあまり見せびらかすのは性に合わないし、何より自分の実力を見せるということは正体がばれる可能性がその分上がるという事だからだ。

けれど、この場合は、これ以外に男を追い払える方法を思いつかなかった。

自分で出しておいた条件を今更変えるわけにもいかないし。


当然だが、男は憤慨した。

俺の実力は世界でも指折りだとか、実戦経験の無いお前が、とかなんとかかんとか言っていたが、レインは全て聞き流した。

この男が第九等級にしろ、第八等級にしろ、レインの足元にも及ばないことは、レイン自身が一番よくわかっていた。

ただ、あまり一方的に勝っても怪しまれるかもしれないので、若干善戦を演じようとは思っている。


その後、男はいとも簡単にレインの挑発に応じた。

言ったことを後悔させてやるとかなんとかかんとか言っていたが、相変わらずレインの耳には入っていなかった。


暫くの後。


レインと男の姿は街のはずれの草原にあった。

たくさんの観客と共に。


「あなたのタイミングでかかってきなさい。いつでも相手してあげるから」


レインの一言に男はいちいち大げさに応じる。

すぐに終わらせてやるとか、俺の力をなめるなとか。

レインは、その言葉をそっくりそのまま返したかった。


「では、行くぞ」


男は剣を構えた。

レインは、一撃で倒してしまわないよう、必死に計画を立てていた。

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