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六話 冒険者の集う場所

「そういえば、お前、名前なんなんだ?」


朝食の目玉焼きを頬張りつつジェネアが聞いていた。

相変わらずのお前呼ばわりに、レインは戸惑うが、顔には出さず答える。


「レインよ」


ジェネアは聞いてきた割には大して興味なさげに、ふーん、とだけ答えて今度は紅茶をすすった。

このガキ、とレインは若干苛立った。


昨日夜中に訪れた店は、朝から開いているようで、むしろ今の時間帯の方が混んでいるくらいだった。

朝はゆっくりしたい人が多いんですよ、と言うのはこの店のマスターだ。

時折客の手を挙げるのを見つけては、すぐに行きますよー、と快く応じ、手際よく注文の品を作る。

色々な食材──野菜や肉や、得体のしれない卵等──を慣れた手つきで次々とおいしそうな料理へと作り上げる。

見とれてしまうほど流麗な手付きだった。

しばらくの後。


「よし、じゃあ行くか!」


レインと自分との二人ともが食べ終わった事を確認すると、ジェネアは勢いよく立ち上がり、会計の為にカウンターへ向かった。


「いいわよ、私が払うわ」


そういえば、と昨日は成り行きでジェネアが支払っていたのを思い出し、支払いを申し出る。


「お、マジで!ありがとうな!」


ジェネアも過度に謙遜すること無く支払いをレインに任せた。

カウンターにはすでにマスターが立っていて、一連のやり取りを微笑ましく眺めていた。


「お支払いは 140シリンとなります」


どれがどれだか分からず困惑するレインに、マスターはこれとこれで十分ですよ、とレインの手の上に載っていた硬貨を二枚ほど取った。


「では、150シリンお預かりしましたので、お返しは10シリンになります」


いって、今度はレインの手に小さめの硬貨を一つチョコンと載せ、


「大変だとは思いますが、頑張ってくださいね」


と小さな声で付け加えた。

レインも、ええ、ありがとう、と小声で応答し、店を後にする。

どうやら、この国の硬貨は大きさによって金額が違うらしい。

マスターが取って行った硬貨は、おつりとして返された硬貨より一回り大きかった。

新たな発見を胸にしまいつつ、レインは店のドアを閉めた。


外に出てみれば、当たり前だが昨夜より断然人の通りが多い。

かなりの都会なのだろうか、色んな防具や武器を身に着けた人が右から左、左から右へと様々な方向に流れ、時折聞こえてくるベルの音に気付いて、人々は馬車を避ける。

店の中でどのくらい過ごしたのかは覚えていないが、朝食を食べている間にかなり増えた。


「おーい、こっちこっち!」


声のほうに振り向いてみれば、ジェネアが手を振ってレインを呼んでいた。

こんな喧騒の中で迷ってしまっては店にすらたどり着けない、そう確信したレインはおとなしくジェネアに着いていく。


「なあ、レインはさ、強いのか?」


通りを歩きながら、ジェネアが聞いてきた。

ずいぶん抽象的な事を聞くのだな、と思いつつも、レインは一応正直に答える。


「ええ、強いわよ。魔王並みに強いわ」


ジェネアは、きょとんとした顔をしたのち、笑って答える。


「そりゃすげぇな、お前! もう世界の救世主間違いなしだ!」


よし、通じた。

この程度の冗談ならば通じるのか、と安堵する。

試すには少々過激な内容の気もしたが、もしこの世の中で魔王という言葉がタブー視されていたら、今の冗談は通じなかっただろう。

多少のボロは冗談で隠し通せたりするかも知れない。

だからと言って、あまり過激な発言をするつもりは無いが。


そして、その後もとりとめの無い会話を続け、程なくして目的地に到着した。


「これがこの街の冒険者ギルドだ!」


そう言って、ジェネアは誇らしげに立つ。

ジェネアの立つ後ろ側には、「ランブル市ギルド本部」と書かれた看板を堂々と構える、他の建物とは一線を画して立派な木造の建物がドッシリと構えていた。

そういえば、とレインは気づく。

文字が、読める。

若干文字の形が変わっていたりはしたが、レインのまだ囚われていない頃使われていた文字と非常に似ていたり、全く同じだったりした。

試しに、ジェネアに、


「ランブル市ギルド本部、って読むの?」


と問うてみたら、当たり前だ!と威勢よく返ってきた。

いくぞ、と一人足早に建物に入っていくジェネアの後を、レインはついていく。

よく考えたら言葉も同じだし、対して時間は経っていないのかも知れないと考えた。

実際には、気の遠くなるような歳月が経っていたのだが。


建物の中に入ると、色んな装備の老若男女が、ところ狭しとひしめき合っていた。

杖に剣に、弓に盾に。

十人十色の装備に、個性を感じる。

ジェネアを探せば、ちょっと向こうでレインを待つためか立ち止まっていた。


「これが、冒険者の集まるところ?」


レインは駆け寄って尋ねる。


「そうだ、ギルドって言うんだ、覚えておけよ!」


そう言うと、クルリと身を翻し、更に奥へと進む。

途中彼は知り合いらしき人数人から声をかけられていたが、全部手短に済ませているようだった。

口調はあんなふうだが、案外思慮深いのかもしれない。


そして、ジェネアがようやく立ち止まったそばには、どこにでもあるようなカウンターがあった。


「ここで冒険者として登録をするんだ! 名前と紋章さえ受け取れば登録完了、簡単だろ?」


ジェネアは待ちきれないと言った様子でレインを見る。

うん、まあ、分からぬ。

自分一人を加えて、何がそんなに嬉しいのだろう。

疑問に思いつつも、しかし、そんな思考はカウンターに現れた女性の声によって遮られる。


「新規登録ですね? お名前をお伺いしてよろしいでしょうか?」


見れば、白と黒の特徴的なワンピースを着た女性が立ってこちらを見ている。

登録とはなるほど、案外簡単に済ませられるのか。

もしかしたら、住まいの無いどうしようもない浮浪人や、貧困層のアテのない人物を受け入れるため、あえて寛容にしているのかもしれない。

となれば、このシステムは治安の維持に一役買っているわけで......

とそこまで考えて、あまり変に考えている素振りを見せてもいけないと、女性の問いかけに答えた。


「レイン、と言うわ。これだけで十分?」


女性は、名前を聞くと、手元の紙に何らかを記入して、そしてレインに一つの腕輪を渡す。


「では、こちらをはめてください。重複登録防止の他に、魔力量の計測や魔力適正検査を行いますので」


魔力量の計測、この言葉にレインは敏感に反応した。

あの水晶を割ったみたいに、この腕輪をも壊してはいけない。

水晶はすごい!だけで終わったが、ここでは果たして同じ反応になるかどうか怪しい。

手に送る魔力の量を気をつけて調節しながら、レインはそれをはめた。


すると、腕輪は、ブヲン、と変な音を立ててレインの腕の、手首から肘までを行ったり来たりする。

レインは、多すぎず少なすぎず、あまり変動させることの無いよう微妙な塩梅(あんばい)で魔力を手に送り、腕輪を欺こうと励んだ。


そして、若干の後。

なんとか腕輪は壊れる事なく検査を終えたようだった。

手から自動的にスルリと抜け落ち、再び女性の腕へと戻る。


突然、ジェネアがいくつだった、いくつだった?とはしゃぎながら近づいてきた。

そんなに気になるのかと呆れつつも、レインも実を言えば調節をミスっていないか不安だった。

全くの無能扱いされると、昨日のあの光景は何だったのかと言う話になるし、あまりに多すぎて騒がれるようでは、失敗したと言っていい。

女性に目をやると、腕輪に浮かんだ紋様を解読しているらしく、詳細はレインにも分からなかった。


「あ、あのー、レイン、様。確認が終わりましたので......えーっと......」


女性がいきなり、随分へりくだって話しかけてくる。

嫌な予感がした。


「本人の確認が取れましたので、こちらがその、冒険者証になります」


と言ってさっきとは違う、新しい腕輪を渡してくる。

手に近づければピタッと吸い寄せられるようにして手首にハマり、そして自動的に腕にあった大きさになった。

快適なつけ心地だ、素晴らしい。

が、そんな事はさておき。

レインの心配は他にあった。

うまく騙し通せたのか、気が気でならなかった。


「えーっと魔力適正なのですが......」


ジェネアが乗リ出して女性の次なる宣言を待つ。


「検査の結果、レイン様は第八等級魔祖と同等の魔力適性であると判明しました」

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