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四話 偽の記憶と杞憂

一瞬の静寂が場を支配した。

ジェネアと紹介された若干茶髪の少年は、こちらをじっと見ている。

互いが互いの出方を探っている、そんな感じだった。

その均衡を、レインが破る。


()()って、どういうこと?」


すると、ジェネアは目をあからさまにそらし、つぶやく。


「いや、なんと言うか......」


が、心の中で決心がついたのだろうか、そらした目線をはっきりとこちらに向け、真っ直ぐに言った。


「俺もそうなんだ、ある日突然気づいたら見知らぬ宿屋の一室に寝ていたんだ。色んな人に、俺の親とか出身とか知らないか、て聞いて回ったんだけど、誰も知らない」


そう言って、手に持っていた紅茶を一口飲んでから、俯いた。


「それで、色んな人に聞き込んで回る内に、俺と同じように記憶を失っている人を3人見つけたんだ。もしかしたらお前、四人目なのかと思ったんだけど......」


レインは、お前呼ばわりされた事はさておき、内心焦った。

適当についた嘘なのに、まさかこんな近くに本当に記憶を失った人がいるとは。

この4人目だかなんだか知らないが、ボロが出る前にどうにか立ち去ろうと思考する。


「そ、そうなの。お気の毒ね。でも、あいにくだけど......」


しかし、ここまで言いかけたところで、レインの発言を遮って、ジェネアが突然思いついたように叫ぶ。


「あ、お、お前魔力値は!?そうだ、何で忘れていたんだ、マスター!あれ!」


カウンターにバンッと手を付き、何やらをマスターと呼んだ店員に注文する。

店員は、今すぐ持ってきますよ、と言いながら奥へと消えていった。

そして、間髪入れずにジェネアが説明をする。


「あ、あのな、俺みたいに記憶を失っている奴らは全員、魔力値がゼロなんだ。どんな人間にだって必ずあるはずの魔力値が、ゼロ!頼む、お前も測ってくれ!」


魔力値、というのは何なのだろう、とレインは一瞬考えたが、すぐに目星がついた。

体内に蓄えれる魔力の量に違いない。

だとすれば、まずい。

今、魔王となったレインの体内には、常人を超えた量の魔力がひしめいている。


なぜそれが分かったのかというと、レインが魔王となって獲得した、あらゆる魔力を可視化する能力によって判明した。

洞窟の中が闇なのにも関わらずレインが視界を確保できたのは、目が光に過剰に敏感になったからではなく、目が魔力を視界に捉えることができるようになったからであった。

色々と試してみた結果、一種の魔術らしく、行使するのをやめれば視界は暗転した。

ついでに、魔眼と名付けたが、そんな事はさておき。


今はそれを使っていなかったためジェネアの体内に魔力が存在しないことに気づけなかったが、なるほど、使ってみれば、この世のありとあらゆるものに存在するはずの魔力が、ジェネアの部分だけ、全く見当たらない。

それに対して、レインはどうか?

魔物の頂点に君臨する魔王たるレインの体内には、人間という種族には決して追いつけない量の、莫大な魔力が存在する。

もし、それが知られたら......


そこから先は、どうやってここから脱出しようか、ということしか頭になかった。

しかし、ときすでに遅し。

マスターが奥から持ってきたのは、何やらの水晶玉。

内部で複雑に魔力が入り組んでいて、理解はできないが、よほどの代物だろう。

ジェネアがあたふたと戸惑うレインの手をぐっと掴み、水晶玉に近づけ......


パリンと割れた。

内部の魔力が空間に拡散する。

時が止まったかのように感じた。

レインの昔からの癖だ、想定外の出来事に遭遇すると、判断力が著しく鈍る。

まさか、こんな所で命取りになるとは。

正確に言えば命取りではないが、しかし、レインの計画がガラガラと音を立てて瓦解していくのを感じた。


「こ、これは......」


マスターが声にならない驚嘆の声を上げる。

ジェネアも、口をポッカリと開け、床に散らばった水晶の破片を眺めていた。

周りに数人いた客も、何事かとこちらを見ている。


「ち、違うの、これは......」


レインは釈明しようとしたが、何分釈明できる程の情報がない。

この世界について何か知っていれば適当な言い訳でも思いついたのに、そう後悔する。


「お、お前、これ......」


戸惑いの声を上げるジェネアを横目に、レインは必死に思考した。

彼らは、レインが魔王だという結論にはすぐには至らないだろう。

ならば、気付く前に殺すか?

それが最善だろう、この状況だったら。

しかし、レインは躊躇した。

明朝になって発見されれば、騒ぎになるだろう。

もし自分が犯人だと知れれば、せめて人間らしく生きたいと言う願いすら叶わなくなってしまう。

ならば、次なる案を......


しかし、レインの考えがそこまで漂流したところで、その全ては全く杞憂だったと判明した。


「す、すご!!!! 見たことねえよ、俺! 水晶破壊する魔力持つ奴なんて!!」


ワイワイと騒ぐ少年。

マスターも、一瞬の驚愕の後、騒ぐ少年と戸惑う少女とを交互に見て、狐につままれたような顔をした。


「ね、お、おい! そうだ、お前、仕事無いだろ!?」


ジェネアが突然詰め寄ってレインに問う。

当たってはいるが、何とも失礼な聞き方をするのだな、とレインは安堵しつつ思った。

確かに、よく考えていれば、魔力がありすぎる=魔王だ、等という結論に至る事などあるはずがなかろう。

完璧な杞憂だった。

そして、溜息混じりに答える。


「ええ、無いわ。紹介でもしてくれるの?」


うるさいと若干思ったが、それは言わない。

あくまでこういう時は大人の対応をするのが良いのだ。

一方のジェネアは、やっぱりと言わんばかりのはしゃいだ口調で、提案をする。


「じゃ、じゃあさ! 冒険者にならないか? お前なら絶対すぐに13等級とか行けるって!!」


さっきまで静かな店内だったのに、今やこの少年一人のおかげでとんだ騒ぎだ。

そんな状況を申し訳ないと思ったレインは、なだめるような仕草をしてから、若干思考する。


冒険者とは、魔物やらを倒してまわる、洞窟の中で倒れていたあれらのことだろう。

そうだとして、まず、今自分がしたいことは何なのか?


魔王となって人智を超え、それでも一つだけ、どうしても望むものがあった。

人間らしい暮らし、だ。

それは、冒険者になっても出来るだろう。

そもそも牢獄の暗闇に閉じ込められているのは嫌だ、という意味で人間らしい暮らしと言ったわけで、その内容は辺境で作物を育てようが魔物を狩るために東奔西走しようが、構わなかった。


じゃあ、それが達成出来たとして、今度は何をしたい?

答えは、決まっていた。


自分が囚われるに至った、真実を知りたい。


不老不死などという貴重なはずの、伝説とも言えるポーション。

なぜ、それを自分に使った?

レインの一家、アイヴェント家が全滅した、その背景にはどんな一悶着があったのだろう?

せめて、家族の弔いのためにも、それだけは知って起きたかった。

冒険者になって有名になれば、縦の繋がりも横の繋がりも出来るだろう。

そしたら、自分の捕らわれる以前の記述を見つけることができるかも知れない。

果たしてこれが達成できるかどうか、今はわからないが、足掻くことは悪いことではなかろう。


そして、答えた。


「その提案、受け入れるわ。よろしくね」

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