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ニ話 魔王の力

「キャオオオォォ!!!!!」


巨大な怪鳥が、一人の可憐な少女めがけて突進してきた。

けれど、少女は動じない。

ホコリを振り払うかのように、手をフワリと振る。


「キャォ......」


それが怪鳥の断末魔だったのだろうか、頭がブワリと膨らみ、弾けた。

ペチャペチャと怪鳥の頭だった物の残骸やらが降り注いでくるが、少女は構わない。

スタスタと歩き去った。


「これが、私の力......」


レインは、ブツブツと何やらを呟きながら、ひたすら外界を目指した。


彼女の見つけた、魔王としての能力。

それは、あらゆる魔力を操作する、不可思議な力。

先程で言えば、怪鳥の体内にあった魔力を操作し、生物としての原型を留める事が出来なくなるほどの魔力の渦を、その体内に作り出した。

今回は、その渦の場所が頭であっただけの事。

水の中に手を突っ込んで動かせば渦ができる、それと何ら変わらない。

シンプルで地味ではあるが、それ故、攻守ともに万能であり抜け目がない。

だが、なるほど強力ではあるが、魔物の頂点たる魔王にしては少し物足りない心地もした。

けどまあ、いずれ更に発見できるだろう、今のこの能力だけでも十分すぎる程強力だ、等と、レインは自分で自分を説得するのだった。


その後も、彼女はひたすら歩き続けた。

時折、壁にもたれかかって倒れている人間を見かける。

ふと、生き返らせれない物かと、その内の一体に手をかざして魔力を送ってみたら、なんと立ち上がった。

が、やはりと言うべきか、意志は到底持たない。

何やらおぼつかない足取りで、何やら呻きながらそこら中を徘徊するだけで、これは生き返ったとは言えないだろう。


が、しかし。

レインが、再びどこからやら湧いて出た魔物を駆除した、その瞬間だった。

先程までてんでデクのぼうだったその人間は、突然大声で呻きだし、とてつもない速さで飛び出したかと思うと、跳ね上がりながら両手から火の玉を放ち、飛び出してきた蛇のような魔物の脳天を突き破って、新たな目標を探すためか翔けていった。


「何よ、あれ......」


従者、のつもりなのだろうか。

いずれにせよ、自分の負担がある程度軽減された事に若干安堵する。

ここから先の魔物はアイツが倒してくれるだろうし、アイツが倒されたとしても自分が倒せば良い。

レインは、自分の力に戸惑いつつも、一歩一歩出口へと近づいていった。


風の感触が段々と強くなってきた。

肌を撫でる空気は、より一層鮮明に出口への道を指し示し、レインの足は迷う事なくそれを辿る。

出口は、近い。


そう思い、若干足早になった、その時だった。

天井の高い巨大な空間に出たかと思うが早いか、横の壁にバキバキッとヒビが入り、ドンと言う音と共に砕け割れた。

飛んでくる瓦礫をサッと後退りして避ける。

この身体になったからなのだろうか、反射神経も動体視力も、格段に良くなっているのが分かる。

通常ならば、突然壁が爆発したら、瓦礫の下に埋もれて死ぬのが関の山だろう。

魔王となったが故に生き残れたと思うと、何やら複雑な気分である。


そして、立ち込める砂埃の奥に、その原因は見えた。

目を爛々と赤く輝かせる、一匹の竜だ。

羽をバサッと羽ばたかせ砂埃を払い、レインを一瞥するなり見下して、何と、喋った。

肺が揺さぶられるような重低音で。


「人間......我の攻撃を避けるとは......主、只者では無いな......?」


ビリビリと空間が震えるのが分かったが、レインは不思議と恐怖しなかった。

以前なら、一目散に逃げ出していただろう。

冷静に、問いかける。


「あなた、誰?」


問いかけてから、私は魔王よ、と自己紹介すれば良かったかと思ったが、このタイミングで言ったところでハッタリにしか聞こえないだろうな、と言うのをやめた。

相手が聞いて来るならば答えればよいだろう。

竜は、再び轟くような重低音で言う。


「我は、このルナ地下大牢獄門番、第五等級魔祖、ブラックワイバーンだ!!!」


言うなり、羽を広げて、天めがけて咆哮した。

レインは、話ができるなら良い、とブラックワイバーンとやらの四肢と、ついでに翼を破壊した。


「ねえ、お尋ねして良いかしら?」


身体の支えを失い地面に崩れ、何が起きたのか分かっていないブラックワイバーンに尋ねる。

よく見たら、コイツの体内に、先程作り出したあの人間の魔力を感じる。

なるほど、コイツが倒したのか。


「な、何が起こった?! なぜ回復しない?! 貴様、何を!!!!」


レインは、あたふたと慌てふためくブラックワイバーンの前に、チョコンと腰掛け、手で制する。


「ねえ、お尋ねして良いかしら?」


先程より、若干圧を込めて。

すると、そんなレインから何かを感じ取ったのだろうか、デカイ竜は可憐な少女にあっさりと従順した。


「は、はい、何なりと......」


うん、こうして見るとなかなか可愛げもある。

どこか妙な心持ちになりつつ、レインは尋ねた。


「ねえ、一番近い人間の住む町はどこ?」


手足を破壊され、飛ぶための翼も無くなり、目の前の小柄な少女に完全に掌握された竜、ことブラックワイバーンは、力なく答えた。

その声色に、もはや先程までの威圧感は無い。


「北北西に小さな街がある、多くの冒険者共が拠点にしている街だ。行くと良い」


冒険者、と言うのはレインの部屋まで来たあの四人組の事だろうか、そう考えた。

同じようなのが他にもいるとしたら、さっきからそこら編に転がっている死体も、元はそうに違いなかろう。


「そうなの、ありがとう」


もう用事は無いと立ち去ろうとしたが、そう言えばこの竜は自分の事を門番と言っていたことを思い出し、訪ねた。


「門番なのに、人間が侵入してきた事、気付かなかった?」


竜は、一瞬ビクッと反応してから、面目なさそうに答える。


「アイツら、大勢で来て......500程度は殺したんだが、その隙に別口から入りやがった。あんな大勢で来られたのは初めてだ」


なるほど、ルナ地下牢獄とやらは、自分が今まで閉じ込められていた城の地下牢獄の事で間違いないだろう。

なれば、入り口も一つではあるまい。

あの四人組と同じような、もしかしたら更に立派な装備を整えた人間を、500も葬り、尚さっきまでピンピンしていたのだから相当に強い魔物なのだろう。


「あなた、どれくらい強いの?」


興味本位で聞いてみた。

すると、竜は待ってましたと言わんばかりに首を持ち上げ、自信の籠もった声で言う。


「我は、世界の魔物ほぼ全てを支配する魔竜、ブラックワイバーンだ! 人は、我を第五等級魔祖だと言う」


声だけは立派だが、何分地面に這いつくばっているので威厳が無い。

赤ちゃんが、自分は怪獣なんだぞー、と威張っている、そんな感じがした。

さらに、ついさっきも聞いた気がするが、第五等級魔祖と言う言葉がどうも耳に残る。

なので、聞いてみた。


「その、第ナントカ等級魔祖ってのは何なの?」


竜は威張って答える。


「分からぬ! が、人間共が我のことをそう言って恐れるのでいつの間にか名乗るようになった!」


威張る内容では無かろう。

呆れたレインは場を後にしようと踵を返した。

が、そんなレインをブラックワイバーンは呼び止める。


「ま、待ってくれ!俺は、このままなのか?あと、お前は何者なんだ!」


騒がしいなと思いつつも、流石に手足をもぎ取ったままこの竜を放置するのは可哀想だと、四肢に渦巻いている魔力を解いた。

これで魔力の流れは正常になり、あとは本人で治癒できるはずだろう。

さっき、いつもなら回復するのに、みたいな事を言っていたから。

するとやはり、レインが魔力の渦を解いてすぐに、竜の腕は復活した。

流石というべきか、驚異的な回復能力である。


あとは名乗るだけだが、もし今自分が魔王である、と名乗ったらどうなるだろうと一瞬思考した。


ああ、あなた様が魔王なのですね、ご一緒させてください、などという事になったら面倒くさいどころではない。

人里にすら近づけなくなってしまう。

そもそも魔王という存在をこの竜は知っているのかと言う疑念さえ湧いたが、最悪は想定しておいて悪いことはない。

結果、少しの思考の後、レインはこう答えた。


「牢獄の奥で暮らしてきた人間よ」


言うが早いか、レインは何やら驚嘆の声を上げる竜を背に、歩き去った。


門番というのはなるほど、やはり入り口を守る者であったらしい。

あの巨大な空間をから伸びる細長い洞窟を数回曲がったところに、出口は見えた。

時は夕刻らしい。

紅色に染まった空と光が、一直線に岩肌を照らし、輝く。

涼し気な風が、レインの髪を優しく撫でた。


「ようやく、ようやくッ......!!」


目頭が途端に熱くなる。

どれほどの時だろうか、ずっと見ることのなかった輝きだ。

新鮮な空気。

眩い太陽。

流れる空。

レインは、目から大粒の涙を流し、崩れた。


ずっと昔に着せられた、罪人を示す白色の布切れ。

それがなぜか、夕日の元で、異様なほど涼しげに靡く。

季節は初秋だろう。

特有の若干肌寒い空気が、細く透き通った銀髪を、フワリと持ち上げ、そしてそっと下ろした。


少女は、しばらくその場に(ひざまず)き、嗚咽をこらえて涙するのだった。

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