十一話 記憶の無い子供たち
翌日、明朝。
「あら、それは不思議な現象ですね。魔物が自滅したというのは、私も初めて聞きました」
興味深そうにレインの話を聞くのは、ギルドの受付係の一人、ベッカさんだ。
レインの魔力適正検査を行った人であり、ひょんな出会い方をしたことから少しばかり親しい仲にもなっている。
「魔物って、主従関係を作るほど利口なの? もっと強い魔物なら知性を持つこともあるかもしれないってのは知ってるけど」
レインは問うてみた。
一般に魔物は、単独行動、もしくは同種によって小さな集落を作る程度の知能しか持たないとされている。
が、それもレインが捕らわれる前の話。
今となっては古いのかもと思って聞いてみたのだが、魔物の性質が変わっている事は無いようだ。
「いいえ、魔物は基本的に群れませんし、主従関係も作りません。あなたの言う”あの方”の何らかの影響で集団行動をするようになったのだと考えます。不気味ですけど、最近は強い方もどんどん見つかってきていますし、きっと倒せますよ!」
強い方、と言いつつレインを輝くような目線で見つめる。
過度な期待を背負うのは苦手なレインは、サッと目線をそらした。
それに対しベッカは、輝くような目線をこちらに向け、ですよね?ですよね??と詰め寄ってくる。
ええ、まあそうね、と一呼吸おいてから答えた。
そんな答えに満足したのか、ベッカは姿勢を元に戻し、
「まあ、いずれにせよ、この事態を注視していかなければいけないのは事実です。まだクエスト発注表に加えられるほど詳しくないので、正式な依頼は出来ないですけど、各ギルドの掲示板に貼っておく程度の事はしておきますね!」
と元気な声で立ち上がり、カウンターに戻っていった。
テーブルには、クエスト成功報酬の10万シリン券が五枚、残った。
1万シリン以上は軽い紙幣になるらしい。
あまり重い金塊をもらっても困るだけなので、これはこれで効率的である。
ヒラヒラとした紙幣をサッと取り、即席のポケットにしまう。
今着ている服は、能力によって生み出されたものなので、ポケットを増設することなど簡単だ。
しまいたい場所にチョコっと押し当てるだけで、あとは勝手に飲み込まれていく。
これで当面の資金繰りには困らなくなったレインは、次はどうしようかとギルド本部の中の一角に座り、宙を眺めた。
相変わらず周りの冒険者たちは自分の事をチラチラと見てくるが、話しかけたところでどうせ相手にしてもらえないと理解しているらしく、全員悔しそうな顔をしてから立ち去っていく。
これこそ、自分の望んでいた状況だと、レインは満足して朝の息吹に身をゆだねた。
木を基調としたギルド本部の内装は、程よく風が吹き抜け太陽光が差し込み、人の数に関わらず解放的な雰囲気を醸し出している。
ところどころに置かれたテーブルや椅子では、数人の冒険者によってクエストの作戦会議が行われており、活気も申し分ない。
あの輪の中に入っていく気にはなれないが、遠くから眺める分には情緒的で趣がある。
が、そんな静寂はいとも簡単に壊された。
「あ、いた! レイン、こんな所にいたのか、探したんだぞ!」
この若干声変りを迎えたようなこの声は......
「何? ジェネア。私今忙しいんだけど」
言いつつ振り向けば、やはり当たっている。
厄介者扱いするわけではないが、レインとは性格が真逆でどうにも付き合いづらかった。
「いや、どう考えても忙しくないだろ......それより、みんな、これがレインだ!」
一体何の事かと思って目を丸くする。
後ろを見れば、ジェネアと同い年程度の男女が二人、それとレインと同年齢くらいの女子が一人。
それにしても、なぜ私に紹介する?
コイツに友達がいるのは別に構わないが、私にもなんか関係あるのか?
思い当たりが無いか、昨日と一昨日の記憶を一通り調べる。
が、やはりジェネアと自分との、両方に繋がりのありそうな人物は、あの店のマスター以外見当たらなかった。
「誰? 私知らないわよ、そんな人たち」
失礼にもぶっきらぼうに言った。
「おいおい、まだ紹介してないんだから知らないのは当然だろ! 説明しよう、これは、我らがメモリアンズの一同だ!」
......
「え?」
思わず素っ頓狂な声が出る。
分からない人たちをわからない単語で説明するほどの愚行があろうか。
意味の分からない度合いが一段階増した。
「ちょっと、ジェネア。そんな説明で通じるわけないでしょ?」
レインの思った通りの事を代弁してくれたのは、自分と同い年くらいの女子である。
黒く艶のある長髪に白く輝くような鎧と、レインとは正反対の配色の少女だ。
「そうだよ、メモリアンズなんていきなり言ってわかるわけないじゃん! 脳みそ使ってよ!」
「相変わらずだな、ジェネアは!」
追い打ちをかけるのは、ジェネアと同じくらいの大きさの少年と少女。
にぎやかだなーとは思いつつも、なぜジェネアがこの人たちを連れてきたのか、理解できなかった。
しかし、そんなレインの思考を理解したのか、
「い、いきなりごめんね。私達も、あなたと同じでどこかで突然記憶を無くしちゃった子供なの。何とか仲間を見つけてメモリアンズってグループで活動してるんだ! 色々と分からない事あるだろうけど、私達が教えてあげるから、私達と一緒に来ない?」
最年長の女子が言う。
性格は熱血だがどこか冷静、彼らのリーダー的な存在だと推測する。
他の三人は、自由奔放の具現化と言った感じではあるが、自制する理性は感じられた。
それより......
参った。
一緒に来ないか、と言うのはつまり、私達のグループに参加しないか、という事だろう。
あの時適当についた嘘が、まさかこんな集団を召喚する事に繋がるなんて。
とっさについた嘘、と言う訳では無いが、流石にここまでは予想できなかった。
が、いずれにせよ彼らに協力する気は毛頭ない。
協力したところで享受できるメリットを一切感じられなかった。
「せっかくのお誘い、悪いけど断らせていただくわ。私は一人が良いの」
レインと四人は、若干気まずい雰囲気に包まれた。
断られる事を予測していなかったのだろう。
しかし、それでも黒髪の女子は笑顔で答える。
「そ、そうだよね! ごめんね、いきなり。私の名前はサラ、このギルド本部を活動拠点にしてるから、気が変わって参加したくなったらいつでも言って! 大変だろうと思うけど、頑張ろうね!」
作ったような笑顔だった。
そして、レインに背を向け、立ち去る。
参加の呼びかけは善意からではあるだろうが、記憶を失った、攻撃手段の持たない彼らと協力する理由が見当たらない。
防御力がめっぽうあるとの話だが、それだけでは意味を為さない。
攻撃する手段がなければ防御力など無用の長物だ。
むしろ、いたところで魔王という正体がバレるリスクが増す。
参加する理由は、無い。
レインは、いささか辛辣とも言える評価を彼らに下した。
背を向け立ち去る四人を感傷的に眺めては見たが、特段何も感じなかった。
捕らわれる前なら、たとえメリットが無くても善意を汲み取っていただろう。
が、今は、健気な少年少女四人を二つ返事で追い返しておきながら、恐ろしいほど共感性が無い。
全く恐ろしい程、無かった。




