表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/42

十話 魔物の事情

ここまで読んで下さりありがとうございます。

森の中をすさまじい勢いで駆け抜けながらレインは思った。

なぜ魔物は人間の金品財宝を欲しがるのだろう、と。

彼らの本能なのか?

それとも、何かのっぴきならぬ理由があって金品を奪っているのか?

人間が、「魔物が財宝を盗んだ、悪だ」と言う思考に至るのは理解できる。

ただ、なぜその魔物が金銀財宝を盗むのか理解ができなかった。

魔物の頂点に君臨する者として、理由があるのならば聞いておこう。

無いのなら、蹂躙し殺すまでだ。

依頼通りに。


そして、程なくして目的地は見えた。

魔物の集落だ。

丸太を組み合わせて作った小屋たちからは、知性のある魔物がそれを組み立てたことが容易にわかる。

森の中から飛び出し、レインは集落の真ん中にスタッと着地した。

果てさて、人の言葉を理解しうるか。

人間の喋る言葉を理解できなかったら理由を聞くも何もあったものではない。

皆殺しにして、依頼完了の知らせを届けよう。


「だれか、私の言う事が理解できる者は居る?」


レインは、誰も出てこない事を不審に思い、問いかけた。

魔物の気配はする。

と言うか、声もする。

おそらく小屋の中に隠れているのだろうが、いきなり現れた不審者に怯えているのだろう、魔物は誰一人出てこなかった。


「出てこないなら、そこの小屋に隠れているお前、引っ張り出すわよ」


と、声がする小屋を指さしてビシッと言った。

途端、話し声が止んだ。

分かりやすいものだ。


そして、ギギギっと扉が開き、茶色のごつごつした肌に覆われたゴブリンらしき魔物が姿を現す。


「い、今すぐに出ていけ! さもなくば捉えてあのお方への生贄にするぞ!!」


しおれた声でいう。

おお、喋れるのかとレインは感心した。

ならば、話が早い。


「あなたたち。人間の金品財宝を奪っていると聞いたわ。なぜそんなことをするの?」


が、当然そんな忠告を聞き入れるはずも無く。


「かかれーー!!!」


と、出てきた一匹が言うが早いか、周辺の全ての小屋から一斉にゴブリンが飛び出し、襲い掛かってきた。

そして、地面を突き破って登場した腐ったような顔をしたエルダーリッチが、何やら魔法を放つ。

面倒な事態になったな、と思いつつも、自分のとった方法が悪かったのではと若干反省した。

先に魔王だと名乗っておけばもう少し素直に話を聞いてくれたかもしれない。


「クシャル、殺さないように全員を捕まえて」


レインの言ったことはこれだけだった。

途端、レインの羽織っていた黒色のワンピースは、ぶわっとふくらみ、放たれた魔法や飛び掛かってきたゴブリンをくるめて、地面にたたきつける。

ゴブリンの喉元を締めあげ、呼吸をできなくし、エルダーリッチは魔法が使えないよう腕を切り落とした。

魔物だし死にはしないだろう。

そうして、ほんの一瞬の攻防で集落の全ての魔物は、一匹を除いて完璧に制圧された。


「あ、え、え、お前は!?」


残された一匹は最初に出てきたゴブリンゴーレムである。

他の全ての魔物は、布状に変化したクシャルの下でもぞもぞと動いていた。


「そうね、名乗っていなかったわね。私は、第一等級魔祖。人は私の事を、怨霊の魔王と呼ぶわ。あなたは?」


第一等級魔祖という言葉が通じるか不安だったが、通じたようだ。

驚き慌て、言葉を失った。

この言葉の意味を知っている所や、人の言葉を話すことも鑑みると、こいつらは人間か、人の言葉を話せる魔物と接触している。

そう確信した。


「う、嘘だ......ま、魔王?!」


未だ現実を受け止め切れていない様子のゴブリンだが、レインはそんな事などお構いなしに続ける。


「で、人間の金品財宝を奪うのはなぜ?」


鋭い目線を向けた。

ビクっと反応したゴブリンは、周りを見渡し、対処できる者がいない事を改めて確認する。

そして、とうとう観念したように答えた。


「あ、あのお方なんだ。あのお方に金をお納めしなければ我々は......」


あのお方、と言うのはさっきも聞いた気がする。

ここまできて、その正体を探らない訳にもいかなかろう。


「あのお方、って誰よ。上位の魔物なの?」


ゴブリンゴーレムは、後ずさりしながら、顔を恐怖に染めプルプルと震える。


「あ、いえ、言えない、そ、それはょ........」


グシャ。

軽い音だった。

紙を握りつぶしたかのような音の後、ゴブリンゴーレムの頭がはじけ飛んだ。

それと同時に、クシャルに捕らわれていた魔物の頭が、次々に握りつぶされるようにつぶれていく。

クシャルに開放するよう指示し、彼らを動けるようにしたが、動く者は居なかった。

全員、死んだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇


帰路に就いたレインは、森の中を駆けながら考えた。

彼らは、自分たちより上位の魔物に支配されていたのだろう。

果たしてそれは何者か。

果たしてこれは関わるべき事案なのか。

ギルドに報告したほうがいいのか。

関わらないと決めれば、それは簡単だ。

あのゴブリンゴーレムの言っていたことを無視し、あのお方なる魔物の存在することを放置しておく。

けれど、どうしてだろうか、なぜか心の奥底で引っかかるものを感じ、事の真相を確かめたいと思うようになった。

好奇心、だろうか。

自分が捕らわれた件もそうだが、不可解な出来事があると確かめたくなるのが自分の性なのだろう。


上位の魔物となれば、長く生きている事にもつながる。

さらに、ゴブリンたちが人の言語を理解していた事も考えると、おそらくその魔物は人の言葉を話せるに違いない。

その魔物が自分の捕らわれる前から生きていたかどうかは定かでないが、おそらく自分より世界について知っているだろうと考えた。

もし知らなければ、いずれにせよ自分より下位の魔物だし、殺すなり支配するなりすればよい。


レインは、あのお方なる魔物について探ることを、決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ