九話 初クエスト
「それですと、クライン伯爵の黄金を盗んだ第十五等級魔祖、ゴブリンゴーレムと、第十三等級魔祖、エルダーリッチの集団の殲滅、が一番良い報酬を提示しています。50万シリンです」
おお、良い。
50万シリンもあればしばらくは住まいに困らないだろうし、服も買えそうだ。
良い案件もあるじゃないかとレインは依頼を受け付けることを決めた。
「じゃあ、それを受け付けるわ。どうすればいいの?」
それではですねー、と女性はカウンターの奥から何やら紙を一枚ごそごそ取り出し、レインに提示する。
「こちらの紙に、一緒に行かれる冒険者の方の腕輪を触れさせてください。腕輪特有の紋様が現れますので、そしたら受注完了です」
見るに、全く何も書かれていないただの紙切れである。
だが、レインの持つ腕輪を紙に触れさせると、奇怪な魔方陣が浮かび上がった。
面白い魔法技術だな、と感心する。
あとはこれを再び女性に手渡すだけだが......
女性の言っていた事を思い出すと、もしかしたらこれは複数人で行くための依頼なのでは無いかと若干心配する。
1人で行くと申し出れば怪しまれないか......。
けれど、二人で行くとなるとその分報酬が半分になる。
さらに、ぼろが出る可能性も増える。
ここは怪しまれた所で、一人で行くと申し出たほうがいいだろう。
そして、一人分だけの魔方陣を付けた紙を手渡すと、予想通り驚かれた。
「え、レ、レイン様お一人で行かれるのですか? これは団体用のクエストなのですが......」
やはり。
こうなることは想定内である。
「ええ、多分大丈夫よ。一人の方が動きやすいから」
途中でだれかが余計な手助けを申し出てくれなければ、もう完璧だ。
そんな不安は、無用だった。
「では、レイン様お一人でクライン伯爵の依頼を承りました。こちらが受注証となります、常に携帯して、指示があったときはすぐに取り出せるようにしておいてください。又、受注証が目的地までの地図となっておりますので必要に応じてつかってくださいね」
そう言って手渡されたのは、一本の筒。
上が開くようになっており、中には先ほどの紙が入っていた。
レインは一連のシステムに新鮮味を感じつつ、女性にお礼を言って場を後にする。
外に出ると、ジェネアが立ってレインの出てくるのを待っていた。
「クエスト、受注したのか?」
レインは歩きつつ答える。
「ええ、そうよ。クライン伯爵のナントカカントカって奴を受注したわ。これから出発ね」
するとジェネアは、驚いた顔をしてレインを見つめた。
信じられないといった顔で。
「クライン伯爵のやつ!? あれ、難易度の割には報酬が合わねえって誰も受注しなかった奴なのに!? もっといい報酬額のやつ、あっただろ......」
レインは、えっと驚いてジェネアを見る。
もっといい報酬額の依頼があった、だって?
「知らないのか? えーっとな、第十四等級魔祖、テンボスの討伐、100万シリンとか。後は、パッと見ただけでももっと良いのかなりあるのに......。第十五等級と第十三等級の集団を討伐して、やっと50万シリンなんて誰も受注するはずねぇって冒険者の間じゃ有名だぜ?」
あの女性、そう言う訳か。
クライン伯爵とやらの依頼であるクエストは、あまりの報酬の少なさに冒険者に見向きもされない。
早く誰かに受注させなければ冒険者ギルドとしての評価が下がってしまうが、だからと言って無理に押し付けるわけにもいかない。
そんなところにまだ何も知らない、けれど受注した上で依頼をこなせそうなレインが表れたという訳だ。
してやられた、とレインは密かに地団駄を踏む。
「そうなのね......。でも、受注してしまったものはどうしようもないわ。さっさと終わらせてもっと良い報酬の依頼を探してくるから」
それを聞いて、ジェネアはやれやれ、と言った感じで首を振った。
「それで、もう行くのか?」
こっちを向いて言う。
「ええ、もう行くわ」
レインは前を向いてそっけなく答えた。
少し遅めのお昼時と言った感じだろうか。
通りの人は相変わらずせわしなく動いている。
レインは、そんな光景に奇妙な感慨を覚えつつ、受注証を取り出した。
「普通は今からだったら半日かけて用意するんだけどな。まあ、こんな事じゃもう驚かないよ、俺」
そんなレインの行動に、ジェネアは諦め口調で言った。
「じゃ、行ってくるわね。サッサと終わらせてくるわ」
軽い挨拶を済ませ、手元の地図を見る。
地図には自分の場所を示すらしき三角がクルクルと動いていて、そして地図の斜め上に赤い点がある。
他は何も書いてない。
道くらい書いてくれと思ったが、よく考えたら「魔物の集落はこっち」なんて書いてある道が存在するはずない。
道などあって無いような物か。
よくわからない納得をしつつ、レインは街の出口へと向かった。
来たときは、自分のもつ身体能力を確かめるために走ってきたので街のよくわからない入り口から侵入してしまったが、出るときはちゃんとした出入り口から出ようと思う。
大通りをずっと歩いていけば街の門に達する。
冒険者ギルドの中にかけてあった街の地図を覚えておいたので、街の中で迷うことは無かろう。
ちなみにだが、自分の身体能力について分かったことは、人ならざる速度でどれほど走り続けたところで疲労は感じない、これだけだった。




