ある日、怪物が現れた
某中学校の部活時間。テニスラケットを抱きしめる少女はどこか遠くを見つめていた。
「ねえねえ、昨日のニュース見た?また隣町に怪物が出たって」
「こっわ!うちにも出たらどうしよ!」
「それはほら、ヒーローが来てくれるから大丈夫でしょ」
「うん。それより二次災害が心配だよね~」
「そうそうー。てか、話聞いてる?」
「さくら!」の呼びかけとともに、我に返るとポニーテールを揺らしながら友達の方へ向き直る。
「ご、ごめん。何の話だっけ?」
「隣町に出た怪物の話」
「あ~~怖いよね、怪物」
「あはは!さくら興味無さそ!」
「さくらちゃん、他人事はよくないよ~」
女子テニス部の友達との会話に、上の空になるほど、彼女の頭はある事でいっぱいだった。
(みんな、ごめん……今の私は怪物どころじゃないの)
そう心の中で呟くと見つめていた先に視線を戻す。
(はあ、今日もかっこいいなあ…神田くん…!)
金網の向こう側、男子テニス部のコートにその理由はあった。
凛々しい眉毛に爽やかな汗、黒い髪をなびかせボールを追う少年。
(全国大会前だからいつも以上に気合が入ってる!神田くんがんばって~!)
1年前、新入生歓迎会と称した実力調べのミニゲームで、先輩を打ち負かす神田少年の姿に一瞬で恋に落ちたようだ。
話した回数もそれほど無いものの、さくら少女の片思いは2年目に突入している。
(だから私は世界平和より、今、この時間。神田くんを見ているこの時間が、何よりも大切なの!!)
その時、一人で興奮するさくら少女の背後で大きな爆発音がした。
ボオォーンッッ・・・
「なっなに!?」
「ゴミ捨て場の方から鳴ったよ!なんか爆発したの!?」
「ちょっとあれ見て………」
友達が指をさす方向に目をやると、茶色と灰色が混じったような薄気味悪い色の
ドロドロとした巨大な物体が校舎から顔を出していた。
「か、怪物だーーーっ!!!」
「きゃああああああぁ!!」