『けものアイドルオーディション、はっじまっるよー!』
むかしむかし、あるところに。
けものたちのくらす、楽園がありました。
まだ名前すらない原初の楽園で、けものたちは互いに争うことなく、平和に仲良く暮らしていました。
けれど、いつもいつも平和なだけでは、ものたりなくなってきました。
ある日みんなで、神さまにメールしました。
『このへんでなにか、おもしろいことやってください!』
なんか雑なようですが、きにしてはいけません。
だって、みんなけものなのです。フリーダムなのです。
みんなからのリクエストをうけ、フリーダムな神様は、こんなことを発表します。
『神さまもちょーひまなので、アイドルユニットを結成してみます!
ユニット名はE.T.O.12(いーてぃーおーとぅえるぶ)です!
オーディションの日時と形式はこのあと『さえずり通信』で発表するからね! ききのがすなよHEY!!』
神さま、無駄にハイテンションです。
最後など、もはや神ではなくてDJです。神の威厳どこいった。
でも、これはいつものことです。じゃなかった、無理もありません。
神さまの胸にはこのとき、ある『たくらみ』がやどっていたのですから。
* * * * *
その日の12時きっかりに、神さまの“み使い”である、青いヤタガラスたちがとびたちます。
そして、楽園中にふれまわります。
『E.T.O.12の採用オーディションはあしたです!
受けたい子は、神さまの宮殿に来てね!
みんな可愛い子ばっかりだから、先着12名を無差別でメンバーにしちゃいまーす!
おっと、あしたの夜明けより先に来ちゃった子はめっ☆ だぞ♪
それではふるってご参加、おまちしてまーす!』
みんな可愛いとかぶん投げすぎだろとか、先着順てなんなのとか、それははたしてオーディションなのかとか、めっ☆て抽象的過ぎてむしろ(期待)とか……
ツッコミどころばかりというか、もはやツッコミどころとったら何もないような気がしますが、気にしてはいけません。
けものの楽園には瞬く間に、うわさが広まっていきました。
* * * * *
楽園はずれの岩山に、ひっそりとあいた小さな洞穴。
その奥の奥のさらに奥、かたく閉ざされた『封印の扉』。
その内側で、白く美しい少女(※けものです)がひとり、身体を丸めて眠っていました。
そこへコンコン、小さなノックが聞こえてきます。
鈴を振るような愛らしい声が、闇に響き渡ります。
「にゃーこちゃーん。にゃーこちゃーん。おーきーて! ちゅーこだよー!
べ、べつにオーディションのこと聞いてないんじゃないかって心配してきたわけじゃないんだからね! かんちがいしないでよねっ!!」
しかし、眠る少女は気づく様子もありません。
そのことに、扉の向こうの少女(※けものです)も気付いたのでしょう。
黒いゴシックドレスのポケットから、おもむろに合鍵を取り出して、封印の扉を開けました。
合鍵のある封印の扉ってなんじゃい。と、思われるかもしれませんが、これはまちがってません。
だって、ドアプレートに書いてあるのですから。
かわいらしい手書きの文字で『ふういんのま』って。
ともあれ、ちゅーこと名乗った黒い少女は、ちょろちょろと『封印の間』にはいりこみます。
ベッドの上で丸まる少女にまっすぐ近寄ると、頭に生えた三角のお耳から耳栓をスポンッ! と引っこ抜き、ポケットに入れました。
そして、どこかなつかしいメロディでうたいだします。
「きゅーる、きゅーる、きゅるきゅるるー♪」
『きゅーる』とは、白い少女の大好物。
この『きゅーるのうた』さえ歌えば彼女はすぐに目を覚ましてくれるのを、ちゅーこちゃんは知っています。
はたして今日もにゃーこちゃんは、きれいな緑の目を開けて、「おはよー」と微笑みかけてくれました。
かわいらしい白のエプロンドレス姿のにゃーこちゃんは、愛らしく伸びとあくびをしつつ、ちゅーこちゃんにといかけます。
「あ……ふ……いまなんじー?」
「んー、わかんなーい」
「そういえばわたしたち、けものだもんね!」
「あははははっ!」
仲良く笑いあうと、ちゅーこちゃんはぽんっとベッドに座ります。
となりにすわったちゅーこちゃんに、にゃーこちゃんはといかけます。
「そうだ。
オーディションのことってもう、発表されちゃった?」
「あ、うん。あさって神さまの宮殿に来て、だって。
先着12名をメンバーにするんだって」
「そっかぁ……」
「参加するの、にゃーこちゃん?」
「うん。
わたしね、ここでいっつもひきこもってばっかで、ちゅーこちゃんにお世話かけてばっかで……だから、自分をかえたいの。
すてきなアイドルになって、これでにゃーこちゃんもいちにんまえのけものだねって、ちゅーこちゃんにほめてもらいたい。
ちゅーこちゃんは?」
「あたしはいかないよ!
だって、あたしがアイドルになっちゃったら、いそがしくなっちゃう。
あたしはにゃーこちゃんのそばにいたいの。どんな手を使ってでも、にゃーこちゃんの一番でいたいんだから!」
「ちゅーこちゃん……!」
「にゃーこちゃん……!」
いまなんかちょっとあぶない発言が聞こえた気がしますが、にゃーこちゃんは気にしてないようです。
ちゅーこちゃんとにゃーこちゃんは、瞳を潤ませ手を取りあいます。
ねずみとねこでどうやって手を取り合うのとかいう、ツッコミはなしです。
ともあれふたりは、これからも仲良くしようね! と誓い合うのでした。
* * * * *
つぎの夜が明ける前に、ちゅーこちゃんは『ふういんのま』を出ました。
大事な用があるからと。
そんなちゅーこちゃんをにゃーこちゃんは、ニコニコと見送り、もういちどねなおすことにしました。
夜明けと同時に、神さまの宮殿のとびらは開かれました。
一番乗りはなんと、ちゅーこちゃんです。
まっしろもふもふの毛並みも神々しい、けものの神さまにも認められ、みごと、E.T.O.12のセンターの座を射止めたのです!
そのあと、ぞくぞくと11ぴきのけものたちが集まって、ぶじにE.T.O.12は結成されたのです。
楽園中のけものたちがあつまり、おいわいしました。
けれど、そのなかににゃーこちゃんのすがたは、ありませんでした。
* * * * *
翌朝、にゃーこちゃんはひとり、神さまの宮殿の門のところにやってきました。
とざされた門のむこうがわには、黒いゴシックドレスのあの子がすでに待っていました。
にゃーこちゃんは、ゆっくりとくちをひらきます。
「ちゅーこちゃん……
一応、聞くよ。ねえ、これどういうこと?
わたし、ちゅーこちゃんにきいたよ。今日がオーディションだって。
でも、オーディションはきのう。
そして、E.T.O.12のセンターは、ちゅーこちゃん。
どういうことなのかな? 怒らないから、おしえてちょうだい」
とざされた門の向こう、ちゅーこちゃんもゆっくりと口を開きます。
「……こうするしかなかったんだ。
だってさ、にゃーこちゃんはかわいいんだもん。
オーディションなんかいったら、みんな道をゆずるにきまってる。
そしてE.T.O.のセンターになって、どこか遠くに行っちゃうんだ!
にゃーこちゃんはあたしだけのにゃーこちゃんでいてほしいの!
ほかのひとなんかみないで、ほかのひとのことなんかかんがえないで、ずっとずっと、ちゅーこのそばにいてほしいの!!
だましても、うらまれても、ちゅーこのことだけみてほしいの!!
たとえ、ふくしゅうの相手としてでもかまわない!
いつだってあたしだけが、にゃーこのいちばんそばにいるのっ!!」
ちゅーこちゃんのことばは、最後は悲痛な叫びとなっていました。
にゃーこちゃんは、うつむいて肩を震わせます。
そして、いいました。
「……ちゅーこちゃんはきかないの?
なんで? って。
なんでわたしがここにいるのか。
なんで、あなたが門の外側にいて、わたしが門の内側にいるのか。
ねえ、きかないの?
なんでこんなわけわかんないオーディションがひらかれたのって。
なんでわたしがわらってるのかって。
ねえ、ねえ、ねえねえねえ!!」
にゃーこちゃんは、おかしそうに笑います。
そして門を開いてあるいてくると、ぼうぜんとしているちゅーこちゃんをだきしめます。
「……だいすき、ちゅーこちゃん。
ふくしゅうの相手でも、かまわないんだよね?
それじゃあ、一生側にいさせてあげる。
――わたし、けもののらくえんのかみさま『にゃんにゃにゃーこ』の、いちばんのおともだちとしてねっ!」
にゃーこちゃんは身体を離すと、自らにかけた封印を解きます!
かわいらしい白のエプロンドレスが旋風に消え去れば、神としての全貌があらわになります。
いまやちゅーこちゃんの目の前には、昨日拝謁したばかりの、尊いお姿がありました。
神々しいオーラを全身から余すことなく放射した、一糸まとわぬふさふさもふもふのまっ白ボディは――そう、らくえんのかみさま『にゃんにゃにゃーこ』です!
「うそ、どういうことっ?
だって……だってにゃーこちゃんは、ふつうのにゃんこのはずなのに……
ま、まさか! そのエプロンドレスで隠してたの?」
「うん、そう。
こんな布一枚で、けっこうばれないものよね。
さ、ちゅーこちゃん。おかえしの時間だよ?」
にゃーこちゃんは、ちゅーこちゃんをつかまえます。
そして、おもいっきりしかえしをしました。
ふるえるちゅーこちゃんのほっぺたに、ちゅっ、と仲良しのキスをしたのです。
「もー、なかないでちゅーこちゃん!
わたしも、ちゅーこちゃんがいちばんだいすき!
でも、ちゅーこちゃんかわいくてみんなの人気者だから、わるだくみしちゃった。
ちゅーこちゃんのまえでいっぱいおねぼうして、たっぷりスキをみせておいてから、アイドルオーディションの知らせをばらまいた。
ちゅーこちゃんがわたしにみみせんをして、ヤタガラスの知らせる開催日を聞けなくできるように、わざとあの時間に寝てた。
そして、ちゅーこちゃんにうそをつかせた。
それを見抜かれたちゅーこちゃんが、わたしのことだけいちばんすき、ていわずにいられなくなるように。
ごめんね、泣かせちゃって。
でも、うれしかったなぁ。
一生一緒にいてねちゅーこちゃん。やくそくだよ?」
ちゅーこちゃんはこのうえなくおどろきました。
まさか、楽園で一番かわいいにゃーこちゃんが神さまで、自分のことをこんなに好きでいてくれたなんて。
泣き笑いでこういいます。
「うんっ! やくそく!!」
そしてふたりは、末永くしあわせにくらしましたとさ。
そうそう、E.T.O.12はどうなったかって?
もちろん、いまもゆるーく活動しています。
プロデューサーのにゃーこちゃんと、センターのちゅーこちゃんがラブラブすぎて、ほかの11人はやっぱやめようかってたまーに思うのですけれど……
やっぱなんかヒマなんで、ときどき、ライブとかやってみたりしてるそうです。
そんなわけで、けもののらくえんは、今日も平和なようでした。
おしまい




